自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(16)第三者視点




 藤堂は、話しかけてきた男性の服装を確認するが――、着ている服装は寺関係者の人間とは思えないほど、至って普通の服装をしていた。

「はい」

 相手に不信感を持たせないように、顔に笑みを浮かべながら老人の言葉に藤堂は応じる。

「なるほど。都会の方が、こんなに朝早くから来られるとは思いませんでした」
「そうですか?」
「はい」「それよりも、どうして都会からだと?」
「話し方と――、服装ですね。この神居村の住民でしたら、もっと実用性のある服を着ますから」
「そうですか」

 藤堂は頷きながらも実用性のある服とは一体? と、頭の中で疑問を浮かべていたが、これでは埒が明かないと彼女は考え話を切り出す。

「申し訳ありません。参拝というのは――」
「分かっておりますよ。それよりも何をされにこんな辺鄙な寺まで?」
「この紙についてお伺いしたいのですが……」

 藤堂は、コートの内ポケットから手紙を取り出すと老人へと渡す。

「これは……、我が自徳寺が墓の維持費の領収証として送付させて頂いております手紙ですね。それで、これが何か?」
「そこに、書かれている山岸直人という方についてお伺いしたいのですが……」
「ふむ……」

 老人は、ジッと藤堂を見たあと頷くと――。

「付いてきてください」

 男のあとに付いていくと寺院の後ろには平屋建ての一軒家が存在していた。
 老人は、玄関の引き戸を開ける。

「どうぞ、お上がりください」
「失礼します」

 靴を並べて玄関を上がった藤堂は畳の間に通される。
 そこには囲炉裏が設えられており、燠火で室内は温められていた。

「まず儂の名は、神居(かみい) 守鷹(もりたか)と申します。この自徳寺で住職をしています」
「――あ、私の名前は、藤堂(とうどう) 茜(あかね)と言います」

 互いの名前を名乗り合ったところで襖があく。
 そして――。
 
「ずいぶんとお若いお客様ですね。おじいさん」

 室内に入って来たのは、お茶請けと湯呑を2個持った老婆。
 藤堂と、神居の前に湯呑とお茶請けを置くと部屋から出ていく。

「あれは、儂の妻の神居(かみい) 柚(ゆず)です」

 その言葉に藤堂は、「なるほど」と、内心頷きながらも口を開く。

「あの、先ほどお見せしましたお手紙ですが――」
「山岸直人と言う方のことですか?」
「はい! 何か知っていらっしゃることが、些細な事でもいいんです! あれば教えて頂けませんか?」
「ふむ……、ずいぶんと思い詰めているように見受けられますが……、何か――、あったのですかな?」
「それは……」
「まぁ、いいでしょう。貴女は、尋ね人を探しているようですからな。まず、この手紙ですが――正確に言いますところですが、山岸直人さんの名前で送っていますが実際には別の方に私どもは送っております」
「別の方?」
「はい。送っている相手は、メゾン杵柄の204号室に住んでいらっしゃる山岸鏡花さんへ送っています」
「――え? ど、どういうことですか?」

 神居の言葉に、藤堂の頭が混乱する。
 彼女は、メゾン杵柄の204号室に山岸直人が暮らしていたのを知っているからだ。

 そんな藤堂の戸惑いを、神居住職は感じながらも――。

「山岸直人さんは、20年前に逝去されています」
「――え?」
「上落ち村で発生した大規模崖崩落は知っていますか?」
「はい、ネットニュースで少しだけ……」
「そうですか……、上落ち村の崩落事故は凄惨な物でした。大学に通うために都会へ行っていた山岸直人さんは、幸か不幸か、その大規模崩落事故に巻き込まれることはありませんでした。――そう、上落ち村に入る前に大規模崩落事故が起きたのですから」
「――な、なら! どうして山岸さんは死んだことに?」
「決まっています。彼は、2次災害が起こりうる可能性があるかも知れない村の中へ家族と妹さんである山岸鏡花さんを助けるために、神居村の住民達の制止を振り払うと単身、上落ち村に向かったのです。そして――、彼は妹さんである山岸鏡花さんを助けることができました。ただ――、その代償は、自らの命でした。彼は、大規模な崖崩れの中、地中に空間を作るために木で支柱を立て――、それを自らの体を使い支えたのです。見つかった彼の遺体は、土砂の勢いで首が切られたのか頭がありませんした……」
「それでは鏡花さんは?」
「一人無傷でした。ただ――、彼女……、山岸鏡花さんは、肉親である兄の凄惨な遺体を目にした影響からなのか、髪が白くなり何も話さなくなり……、入院していた病院から姿を消したそうです。ただ――、山岸直人さん宛てに間違えて送ってしまったお墓の維持費が、それから振り込まれましたので……、私は山岸鏡花さんが支払っているとばかり……、その目を見る限り違うようですね」
「はい……」





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