自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(13)第三者視点




 ――佐々木達が伊東市を通り守居村に到着していた頃
 
 東京都都心に本社を置く日本有数の新聞会社「東京夕日新聞」では、朝から大勢の社員が出社していた。

 まだ、朝早く――、元旦初日ということであったが【海ほたる】で起きた事件。
 
 そして……、アメリカ合衆国の護衛艦イージスが、東京湾で撃沈。
 しかも――、そのイージス艦を撃沈したのはレムリア帝国の四聖魔刃の一人クーシャン・ベルニカというスクープもあり、半ば社員は強制的に出社させらえていた。

「一体、どういうことだ!」

 東京夕日新聞の社主室で、怒鳴り声を上げたのは東京夕日新聞の社主である村上藤次郎であった。
 社主室には東京本社局長である野口美恵が居り顔色を青くしており、彼女は報告にきた社会部部長である影山一茶へ恨みの視線を向ける。

「いえ、それが……、官邸と自衛隊からの指示でマスコミ全ての【海ほたる】へと立ち入りの許可が下りないのです」
「我々、マスコミが真実を伝えずに、誰が伝えるというのだ! 立ち入り禁止だと? 政府は正気なのか! 国民は我々の情報を求めているのだぞ! 国民には知る権利というのがあるのだ! それを……、それを蔑ろにするなど! 夏目政権は民主主義を理解しておらん!」
「社主、その通りです」

 東京本社局長である野口が手のひらを擦りながら頭を下げながら、村上の言葉に追従する。

「うむ」

 野口の同意に気をよくしたのか、東京夕日新聞の村上は椅子に座りながら葉巻を口に咥える。
 
「野口君も、影山君も知っていると思うが――、我々の東京夕日新聞は日本でも屈指の新聞売り上げ部数を誇っていた。それが、インターネットという訳の分からん物が出来たおかげで、我々が提供した情報の真偽がすぐに問いただされ、嘘だと分かると烈火のごとく叩かれた。その結果、我々の新聞の部数売り上げは大幅に激減した」
「まったく! そのとおりです! 一般の国民には情報がどれだけ大事なのかまーったく理解出来ていないくせに、叩くのだけは一人前。まるで小学生が大人を揶揄うかのようにネットに生息するゴミ共は、崇高な我々マスメディアに仇なしております」

 野口が手を擦りながら村上の口上に乗っかるかのように口早に言葉を紡ぐ。
 それを聞いていた影山は額から滲み出る汗をハンカチで吹きながら内心溜息をつく。

「うむ。我々が、情報を作りだし愚かな国民を導き世論を作り出す。今までは、それで日本は上手く回って来た。それがインターネットという低俗な物が出来たおかげで日本は破滅へと向かっている。今こそ! 我々が日本国民の代表として日本を救わねばならない!」
「まーったく! そのとおりです! 社主!」
「うむ! そこでだ。儂は、起死回生の一手を打とうと考えた」
「起死回生の一手ですか?」
「そうだ」

 野口の言葉に村上社主は頷く。
 そして、デスクの中から一枚の用紙を取りだす。

「これを見たまえ」
「これは……」

 社主机の上に置かれたプリントされた用紙を手にとり野口は目を通す。


「どうだ?」

 そう聞かれた野口の顔色は明らかに硬直した表情に変わる。

「こ、これはスクープです!」

 そこには、【ダンジョンを攻略した者を殺せば、そのダンジョンを使用する権利が譲渡される!】と書かれている。
 それを見た野口は目を見開くと――。

「これは、すばらしいスクープです!」
「――で、あろう?」
「ですが……、こんな情報――、どこから……」
「アメリカ合衆国の高官筋からのものだ。まだ情報はリークされていない。これを、いち早く新聞一面に上げれば我が社の部数売り上げは伸びること間違いなしだ」
「たしかに!」

 その時、村上と野口の話を大人しく聞いていた影山が――。

「村上社主、それを手にいれたのは、どのくらい前なのですか?」
「――ん? 一時間ほど前だが?」
「そうですか……、それでは――、その情報は我が社では取り上げない方がよろしいかと思います」
「影山君。どういうことだね?」
「はい。おそらくですが、アメリカ政府の高官に届く前に、何人もの人間が、社主が手にした情報を目にしていたはずです」
「何が言いたい?」
「はい。つまり、いまだに――、どこのメディアも、その情報を流していないという事を私は言いたいのです。おそらくですが――、この情報が漏れた場合、人間同士の殺し合いになる可能性があります。それを危惧して情報を流していないのでしょう。もし、そうだとしたら情報をいち早く流した我が社が批難の的になるのは避けられません。何せ、殺人を起こすように仕向けたとされてしまうのですから」

 影山の言葉に、村上社主は深く溜息をつく。

「影山君、君は少し勘違いしているようだが――、情報というのは鮮度が命。そして誰も知らない情報というのは、いの一番に開示してこそ大きな価値があるものなのだ。それを、死蔵するなど――、愚かにもほどがある。分かるな? この情報は多くの国民に開示してこそ価値があるものだ。国民には知る権利があり、我々――、マスメディアには報道する権利と義務がある」
「――ですが! それで、誰かが殺されるというのは……」
「やれやれ――、影山君。誰が殺されるというのだね? 世界でダンジョンを攻略したのは、たった一人だけだろう? ――ならば、犠牲者はたった一人だ」
「ですが! 撃退される可能性も!」
「それなら、それで良いネタになるではないか」
「本当ですね! 社主!」

 手放しに村上を褒めたたえる野口。
 そんな二人を見て、影山は歯ぎしりする。



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