【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
ピーナッツマン参上!
「分かったって……、山岸さんの魔法で何とか出来るのですか?」
「まずは、その中性子の威力を高めた爆弾を探すことからしないといけないが……」
俺は視界内に表示されているプレートを見ながら呟く。
視界内のエフェクトは殆ど変わっていない。
江原を助けたときは、爆弾が爆発する直前になり赤いプレートが開き危機的状況を知らせてきた。
――だが、今は赤いプレートが出ていない。
つまり本当に直前でしか危険を知らせることはないのだろう。
問題は、原爆クラスの1キロメートル以内の全ての生物が死に絶えるほどの威力となると、直前に表示されてもどうにもならないということだ。
唯一、原爆を破壊できるかも知れない魔法である草薙の剣もスキル「大賢者」が居なければ使うことが出来ない。
そうなると――。
「田中の力を借りるか……」
「――え? だって……、彼はレムリア帝国の人間ですよ? アメリカと同盟を組んでいる日本にとっても敵対国の人間ですよ!」
藤堂が、目を見開いて抗議してくるが――。
「藤堂、江原、よく聞いてくれ。俺の魔法は、現在制限が掛かっていて戦闘に有効な魔法が使えない。つまり現状を打破することが出来ない」
「――な、なら! 逃げるという手段は!? アクアラインは川崎市に繋がっています。海の下を通るアクアラインを通れば海ほたるに居る人々を全員、逃がすことも出来ると思います」
「なるほど……」
中性子は水を通しにくい性質を持っている。
それならアクアラインを通って川崎市まで逃げた方が安全だ。
「よし! なら、それでいくとしよう。江原と藤堂は人々の移動と足の確保を――、田中とアメリカ軍が戦った影響でかなりの車が大破して損傷しているから急いでくれ」
「わかりました」
「はい」
二人とも頷くのを見ながら、視界内のエフェクトの【システム】のボタンが点滅していることに気が付く。
今まではこんなことは無かった。
視界内の【システム】のボタンをクリックすると同時に黄色のプレートが画面上に表示されるとログが流れる。
――好意を持つ人間から、親愛の証を手に入れたため、システム【ギルド】を組むための条件が開放されました。
「これは……」
「どうかしましたか?」
江原が語り掛けてくるが――。
「いや――」
顎に手を当てながら、システムをもう一度クリックする。
すると視界内にシステムウィンドウが開く。
いままでは何の反応も示さなかったというのにだ。
システムウィンドウの中には、【ギルド構成条件】【ギルド加入特典】【ギルド定員数】と3つの項目が表示されている。
ギルド構成条件か……。
選びクリックする。
【ギルド構成条件】
自らに好意を抱く人間ならば誰でも加入が可能。
【ギルド加入特典】
ギルドマスターのステータスの1割が、全ギルドメンバーに付与されます。
全ギルドメンバーのステータスとHPとMPを一元化して視界内に表示することが出来ます。
所属しているギルドメンバーとシステムログチャットを利用して会話をすることが可能となります。
加入させたいメンバーを視界内でクリックすることで、メンバーの視界にチャットプレートを表示、加入の有無の確認ができます。
【ギルド定員数】
ギルドマスターの魅力値に応じて所属できるギルドメンバーの人数が増減します。
ただし、一度でも加入すれば魅力値が下がったとしても、強制退会することはありません。
脱退方法は、ギルドメンバーが脱退を申請しギルドマスター、ギルドサブマスターが許可をした場合においてのみ脱退が可能となります。
……なるほど。
これは作戦をする上で有効に使えそうだな。
「江原、藤堂。じつは俺の魔法で作戦に有効な物があるんだが……」
「作戦に有効ですか?」
「どんな魔法なのですか?」
江原と、藤堂が興味を示したようで俺に問いかけてくる。
「ギルド創設魔法なんだが――、まあ、やってみた方がはやいか」
藤堂と江原を視界内で選ぶ。
すると――。
「――え? こ、これって……、視界内に何か表示されて――」
――と、藤堂が戸惑いの声色で呟く。
江原も「私の視界内にも……、山岸直人からギルドへの加入を促されました。加入しますか?って……」と、驚いている。
そんな中、「山岸さん、これを――、加入を選べばいいのですか?」と、藤堂が聞いてきた。
「ああ、選んでみてくれ」
「分かりました」
藤堂が指先を空中で動かすと同時に、黄色いプレート内にログが流れる。
――藤堂(とうどう) 茜(あかね)が、ギルドに加入しました。
――江原(えはら) 萌絵(もえ)が、ギルドに加入しました。
それと同時に、視界内に二人のHPバーが青で――、MPバーが緑で表示される。
あとはチャットログの使い方だが……、そのへんは説明に書いてない。
「(チャットログ? これって……)」
江原の声が頭の中で聞こえてくる。
「(すごい、これってチャットログをONにしたあとにメンバーに伝えたいと考えるだけで話せるんですね」)」
――と藤堂。
なるほど――。
俺も白い透明なチャットログを開き右下のアイコンがOFFになっている場所をONに切り替える。
「(ふたりとも、聞こえるか?)」
「(はい!)」と藤堂。
「(大丈夫です。聞こえます」と江原。
ずいぶんといい機能だな。
これがあれば、離れていても互いに連絡を取り合うことが出来る。
「それでは作戦概要を伝えるぞ! 江原は、日本ダンジョン探索者協会のキャンペーンガールをしていた経験を生かして人々を駐車場にまで避難させてくれ」
「はい」
「藤堂は、富田さんと連携してバスか大型トラックを確保したのち江原が誘導してきた人を車に乗せて移動できるように手筈を整えてくれ」
「わかりました。それで山岸さんは?」
「俺は、田中と話してみる。アイツが駐車場にいると海ほたるに居る人間が怖がって建物から出てこない可能性があるからな」
「そんな!? 相手のレムリア帝国の――」
藤堂が、不安な表情で問いかけてくるが俺は手を上げて静止する。
「いまは時間が惜しい。原爆があった場合、爆発したら俺達も死ぬことになる。田中にも、そのことを伝えれば協力してくれることだろう」
「――でも、もし……」
「その時は、その時だ。解散だ! いそげ!」
俺は二人の返事を聞く前に、屋上から飛び降りる。
そして空中でアイテムボックスを起動させ――。
封印されしピーナッツマンの着ぐるみを全て取り出し空中で着替える。
理由は、佐々木のように面倒に巻き込まれるのを防ぐため、そしてレムリア帝国の人間と一緒に居るところを他の人間に見られるわけにはいかないからだ。
着替え終わると同時に田中の真正面に降り立つ。
すると、俺のことを闘争心溢れる眼差しで見てくる。
「貴様は何者だ?」
いまの俺の恰好は、頭がピーナッツの形の着ぐるみ。
四肢は節のあるピーナッツの殻が描かれたブーツとグローブ。
そして――、胴体も服が変化しピーナッツの柄が描かれたタイツになっている。
予想以上にひどい状態だ。
これで身バレはしたくない。
田中に知られたら馬鹿にされること間違いないし黒歴史一直線だ。
ここは、源氏名でいくしかない!
「俺は正義の味方! ピーナッツマン! 故あってここに参上!!」
俺の言葉に、田中の眉間に皺が寄ったのが見えた。
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