【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
激戦! 海ほたる(5)第三者視点
「うおおお! 俺の牛丼がああああああ」
床の上に散らばる至高の肉――。
それと共に、床のタイルの上に玉ねぎや白米がぶちまけられる。
山岸直人の絶叫が、5階のフリースペースに響き渡る。
周辺でカップルや子供連れが、「地震なの?」とか「ここは大丈夫なの?」と言っている中でも山岸の声は、よく通った。
もちろん、それを聞いた全員が山岸に視線を向けてきたが、その理由は「場違いな事を叫んでいる人」と言うイメージが強かった。
完全に、真っ白に燃え尽きてしまっていた山岸を他所に、田中ことレムリア帝国の四聖魔刃の一人クーシャン・ベルニカは、周囲を観察しながら。
「地震か? いや――、こいつは……、この連鎖的爆発の手口から軍が絡んできているな」
田中が呟くと同時に、海ほたるの建物全体が振動で揺れる。
「ちっ、やはりあの方の言った通りになったか。そうなると――、おい! 山岸! ここは、まずいぞ。おい! しっかりしろ!」
田中が、山岸の肩を掴み前後に揺らしながら話しかけるが――、完全に真っ白になってしまっている山岸には声が届いていない。
「ちっ! こいつフリーズしてやがる。藤堂と江原と言ったな? 俺の予測が正しければこれは人為的に起こされた物のはずだ。すぐに、この馬鹿を連れて屋上でもいいから人があまり来ない場所に移動しろ」
「――え? どういうことですか? 人為的って……」
田中の突然の言葉に戸惑いの呟きを藤堂は見せるが。
「いいから言う通りにしろ。コイツを死なせたくないだろう?」
「――ッ! わ、わかりました。それで田中さんは?」
「俺は――」
田中は周辺を見まわしたあと、江原の言葉に問うように肩を竦めると。
「ちょっと野暮用があるからな。それよりも早く行け」
雰囲気の変わった田中の言葉に江原と藤堂は頷くと、真っ白に燃え尽きて亡骸状態になった山岸を二人で左右から支えながら立ち上がると屋上へ向けて階段を使って歩き出した。
その様子を見ながら、田中は溜息をつく。
「まったく――、リュウランの部下のカクを始末しにきたんだが――」
椅子から田中は立ち上がる。
そして停止していたエスカレーターを降りていく。
1階まで下りたところで、田中は舌打ちする。
建物の外に30人近いアサルトライフルやスナイパーライフルを所持したタクティカルアーマーを着た男達の姿が見えたからだ。
「――さて、祝いの日にこういう不作法なことをするのは、どこの軍隊だろうな?」
そういうと田中が建物から出ると同時に、一斉に田中に銃口が向けられ――。
トリガーが一斉に引かれる。
けたたましい音と共に飛来する銃弾を見つつ田中は笑みを深くし。
「この俺が、レムリア帝国の四聖魔刃の一人クーシャン・ベルニカと知って喧嘩を売ってきたんだ。誰一人、生きて帰れないことをその身で示せ!」
田中ことクーシャン・ベルニカの目の瞳孔が黒から金色に変わると同時に、瞳の中に五芒星が展開される。
「踊れ! 弾けろ! 我が力! 天空と地を司どり、時の空間の狭間を固定し、その力を此処に顕現するものなり!」
クーシャン・ベルニカが詠唱を終えると同時に、ミュージシャン風の服装であった姿が一変する。
黒のロングコートに、黒のベスト、そして黒のジーパンに黒のブーツと黒一式の姿に変わり――、周辺に無数の剣や槍が上空から降り注ぎコンクリートの地面に突き刺さる。
そしてクーシャン・ベルニカは、コンクリートに刺さった1本の槍を片手で抜くと高速で回転させ飛来した全ての銃弾をはじいた。
「――な、なんだ!? い、一体何が起きている?」
一瞬の上に、全ての銃弾を弾かれた様相に、海兵隊のリーダーであったジョンソンは驚愕の声をあげる。
その理由は、海ほたるの建物から出てきたレムリア帝国の四聖魔刃の一人クーシャン・ベルニカが、一瞬の瞬きのあとに姿が変わっており武器を手にしていたからであった。
「おいおい、俺と戦うというのに俺の能力を知らないのか?」
驚嘆の声を上げた男にクーシャン・ベルニカは視線を向けながら手に持っていた槍先を向けて投擲する。
音速を超える速度で投擲された槍は、海兵隊のリーダーであったジョンソンの体をタクティカルアーマーごと易々と貫通――、死んだということを理解する間もなくジョンソンの体がコンクリートの上に倒れ込む。
「化け物が! 撃て! 撃て!」
「無駄だと言っただろう? 貴様らの攻撃なぞ――」
クーシャン・ベルニカは叫びながら、コンクリートに刺さっていた一本の剣を引き抜くと同時に横薙ぎにする。
それと同時に紫色の紫電が、周囲の車を破壊し――、アメリカ海兵隊をも焼き尽くしていく。
飛来してくる銃弾も全てが紫電に触れると同時に、弾かれ明後日の方向へと飛ぶ。
「馬鹿な!? 攻撃が当たらない!?」
「だから言っただろう? お前たちは誰に喧嘩を売ったのかを――ッ!?」
その場から、クーシャン・ベルニカは跳び退く。
それと同時に、先ほどまでクーシャン・ベルニカが立っていた場所が爆ぜた。
「ちっ! イージス艦まで投入してきたのかよ。――ってことは……、こいつは……」
そう呟きながら、クーシャン・ベルニカは死体からマスクをはぎ取る。
「アメリカ海軍か……、まったくやってくれるな。俺を殺すために、ここまでしてくれるとはな。まあ、いいだろう! この俺の力を甘く見ていたのをもう一度理解させてやる」
手を頭上に掲げると同時に、男は言葉を紡ぐ。
「見せてやろう。レベル1万を達成したもののみが使える我が力――、幻想(イリュージョン)の終末(アルテミア)の力を! 踊り狂え! 我が名にして、我が力。至高にして至宝――、ここに盟約を掲げ、その力をこの地へと導き乖離せん! ここに時を穿ち顕現せよ!」
クーシャン・ベルニカの言葉が言い終わると同時に、その手に光り輝く粒子に集まると同時にプラズマが形成されていき――、一本の長さ2メートルを超える柄から刃先まで漆黒の剣が生まれる。
「さあ、炎刃レーヴァティン! 貴様の力を開放しろ!」
声と共に剣の刃に青白い炎が灯る。
それらの余波だけで、周辺の温度が跳ね上がる。
そして、炎刃レーヴァティンが振り下ろされ――、その炎は海を焼き海水を蒸発させながら数十キロメートル先で作戦行動を行っていたイージス艦を蒸発させた。
「おのれ……、やはり化け物が……」
「まだ生きているのが居たのか――」
「くくくっ――、やはり貴様を――、クーシャン・ベルニカ、貴様を殺すのは……」
虫の息で倒れていた海兵隊の一人が手に持っていた無線機のボタンを押す。
それと共に、海ほたるの地下――、海中のアクアライン――、その分厚いコンクリートが破壊される。
同時に封じられていた高レベルの魔物が湧き出し始めた。
「貴様、何をした!」
「くくくっ、これで貴様は終わりだ。クーシャン・ベルニカ……、ゴフッ」
そのまま兵士はこと切れた。
「ちっ、一体何をしやがった!? 俺を殺すだけが目的じゃないのか?」
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