【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
激戦! 海ほたる(1)
「もうすっかり暗いですね」
東京湾アクアラインを走っている車の中から、藤堂が外を見て呟いている。
それを聞きながら、俺も外を見るがスキル「神眼」の影響で昼間と同じくらいに明るく見えてしまうことから共感することはできない。
スキル「神眼」の設定をOFFにすればいいだけだが、重宝するということもありONにしたままにしてある。
「あっ! 山岸さん! そろそろ海ほたるに到着しますよ」
江原が、車のフロントガラスを指さしながら語り掛けてくる。
たしかに彼女の言う通り、サービスエリアである【海ほたる】の様相が見えてきた。
「海ほたるまではあと10分くらいですね」
江原の期待を裏切るように富田が運転をしたまま話しかけてくる。
「そんなに時間がかかるんですか?」
「はい。どうやら、皆さん目的地は同じようで駐車場に入るまで時間がかかりそうですね」
「そんな……」
富田と話している江原が残念そうな表情をするが、年末で牛丼フェアということもあり駐車場が混むという事を考えなかった俺たちにも落ち度はある。
「きっと牛丼を食べにきた人間がいっぱいいるのかもしれないな。まぁ、しばらく待つしかないな」
待っている間に、牛丼フェアのチェックでもしておくとするか。
窓の外を見たあと、スマートフォンに手を伸ばす。
「――ん?」
俺は途中で手を止める。
反対側の車線に変な人影の一団を見つけたからだ。
全員が黒色のタクティカルスーツを着ている。
本来ならば闇夜に溶け込むような装備だと思うが、スキル「神眼」の影響で真昼間に見えてしまっている俺から言わせてもらえば不自然極まりない。
「迷惑な一団だな」
やれやれ――。
いくら年末で新年を迎えるからと言っても限度があるだろうに。
軍人のコスプレなんて需要なんてあるのか?
しかも、アサルトライフルも肩に掛けているし。
まったく、余計な問題は起こして欲しくないものだ。
「駐車場が空いたみたいですね」
車が動き出す。
そして、警備員に誘導され海ほたるの駐車場に停まる。
「山岸さん、到着しましたよ」
富田の言葉に頷きながら車から出る。
藤堂や江原も車から降りてきたところで海ほたるの建物の方へと向かう。
「どこで牛丼フェアをしているんだろうな」
入口まで来たが、それらしきものは……。
「山岸さん! 5階のフロアで出店しているみたいですよ」
「5階か――、俺は牛野屋の牛丼フェアにいくが皆はどうする?」
「もちろん行きます!」と藤堂。
「私も!」と言う江原。
どっちかが一緒に着いてきてくれるだけでいいんだが……。
まぁ、牛丼信者を増やすのもギュウラーの宿命だからな。
「ならいくか」
「「はい!」」
エスカレーターに乗り5階まで上がったところで臨時に開業したと思われる牛野屋の出店舗が視界に入る。
もちろん幟には、牛丼フェア22時から始めます! と書かれており――。
――つまり、22時までは普通の牛丼しか売らないということか。
なかなか焦らしプレイを心得ているな。
さすがは牛野屋だ。
22時までは普通の牛丼を食べてお腹の準備をしておけということだろう。
「牛丼特盛を3杯よろしく」
「へい! 牛丼特盛3杯ですね! そちらのお嬢さんたちは?」
「夜に食べて大丈夫かな……。牛丼の小でお願いします」
「あ、私も牛丼小で……」
江原も藤堂も小食だな。
夜くらいは、しっかりと食べておかないとあとでお腹が空くぞ?
「藤堂、江原。今日は、俺が奢ってやるから気にしないで食べろ。こっちの二人には牛丼特盛をそれぞれ頼む!」
「ええ!? いいです! 夜にそんなに食べたら――」と藤堂。
「わ、私も! 夜は食べないことにしているんです」と、江原まで小食アピールをしてくる。
「二人とも本当に特盛じゃなくて大丈夫か? あとでお腹が空いても知らないぞ?」
「え? いえ――。大丈夫です」
「夜に食べると太るので……」
ふむ……。
俺的に言わせてもらえば、二人とも十分に痩せていると思うんだが。
「俺も牛丼特盛を3杯頼む!」
となりから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
視線を向けたところで、ちょうど男も俺を見てくると目を見開いた。
「――ん? お、お前! ま、まさか……、山岸直人か!?」
「そういうお前は、まさか……、田中(たなか)一郎(いちろう)か?」
忘れもしない、額に十字の傷があるのがトレードマークの男。
俺の隣に座っていたのは、牛丼四天王の一人、田中一郎であった。
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