自宅にダンジョンが出来た。(WEB版)

なつめ猫

天誅です。




「それにしても……」
「山岸先輩、どうかしましたか?」
「いや――」

 やはり江原のデータが消えている。
 派遣会社のデータは残っているというのに……。
 
 一つだけデータが消えるというのは、ありえないよな。
 だが、佐々木を最初から疑うような発言は良くない。

 まぁ、こんど江原と会ったら教えてもらえばいいか。
 どうせ電話が繋がらなければ顏を出しにくるだろう。

「山岸さん」
「――ん? どうかしましたか?」

 東金街道を走っているところで、富田が話しかけてきた。

「いえ、後ろから一台の車が付いてきまして――」
「後ろ?」
「はい。先ほどから何度か信号無視をしてでも、こちらを追いかけてきているようですが――、ただ煽り運転をしているようではないようで……」

 ふむ……。
 今ひとつ、要領を得ないな。

「分かりました。こちらから見てみます」

 車の後ろ窓から、富田が執拗に着いてきていると言っている車を見る。

「江原と、藤堂?」
「――ッ」
「佐々木、どうかしたのか?」
「いえ、なんでもないです……(どうして――、こんなに早く……)」

 こんなに早く?
 こいつ、まさか……。
 佐々木は気が付いていないようだが、レベルで基礎ステータスが強化されている俺の聴覚は彼女の小さな呟きまで正確に拾い上げる。

「富田さん。ここから先、車が停められる場所はありますか?」
「はい。コンビニエンスストアがありますので――」
「そうですか。それではコンビニの駐車場に車を停めてもらえますか?」
「わかりました」

 

 1分ほどで、コンビニが左手に見えてくる。
 車は、コンビニの駐車場に入った。

「それでは、少し待っていてください」
「分かりました」
「佐々木、お前は一緒についてこい」
「……はい」

 車から出る。
 丁度、江原と藤堂も乗っていた車から出たようで。

「山岸さん、よかったです。いきなり電話が繋がらなくなったので……」

 江原の言葉に俺は心の中で疑問を浮かべる。
 電話は電源が入ったままだが、繋がらないというのはどういうことだ?
 ポケットの中からスマートフォンを取り出し、着信拒否の電話番号を確認する。
 その中には見慣れない番号が登録されているが――。

「これは江原の電話番号か?」

 彼女にスマートフォンの画面を見せる。

「はい! そうです! あれ? でも、どうして私の名前が入っていないんですか?」

 その言葉に、後ろに立っていた佐々木の体がビクッ! としたのを感覚的に感じたが――。
 こいつ、まさか……。

「佐々木」
「――は、はい」
「お前、まさか……、俺が藤堂と一緒に牛丼に食べにいったからって理由だけで江原の電話番号を削除したりブロックに入れたりしてないよな?」
「わ、私……、そんなことしてません!」
「ふむ……、それじゃ江原と藤堂に電話したってのも嘘か?」
「そ、それは……」

 佐々木が俯いてしまう。
 これでは話が進まないな。

「江原、お前の所には佐々木から電話はあったか?」
「いえ――、まったくないです。あと少しで到着しますと電話を入れようとしたら佐々木さんに電話が繋がらなくて……、それで山岸さんに電話をしようとしたら、山岸さんにも繋がらなかったのです」
「なるほど」
「それで、急いでアパートまで戻ったところ佐々木さんと山岸さんがリムジンに乗るが見えて――、それで追いかけてきたんです」
「ほう。佐々木、そう言っているが事の真相を詳しく聞かせてもらおうか?」

 俺の問いかけに佐々木は数歩下がる。

「私は、何もしらないです!」

 思わず溜息を出てしまう。
 どう見ても佐々木が悪いとしか見えない。

「佐々木! 俺が! 誰かに利用されること! そして嘘をつかれることが一番嫌いなのは知っているな? 今なら、お前がやったことは目を瞑る、正直に話せ」
「…………だもん」
「――ん?」
「ずるいんだもん! 藤堂さんは、先輩と一緒にデートに行って! 江原さんは、先輩の家で泊まって今日なんて二人きりでデートするなんてずるい! 私だって! 先輩と一緒に二人きりでデートしたいもん!」

 涙目になって言ってくるが本当に溜息しか出ない。


「佐々木、どんなに理由があっても人様のスマートフォンのデータを削除することは犯罪だからな。それと虚偽の申請をするのも犯罪だ。俺は、日頃から言っているよな? 社会人らしい常識ある行動をしろと」
「――で、でも!」
「でも、なにもない! 反省しろ! 今度、同じことしたら友人としての縁を切るからな」
「あううう……、は……はい……」

 まったく――。

「藤堂、江原。俺の後輩が迷惑をかけたな。もう先輩ではないが、申し訳なかった」
「いえ、山岸さんが悪いわけではないので」
「そうです! 悪いのは佐々木さんですから!」 

 藤堂は、佐々木が悪いとずいぶんとハッキリと言うな。
 まぁ佐々木が悪いのは確定なんだが。

「さて――、どうするか……。車は、藤堂がレンタカー屋から借りたのか?」
「はい、そうですけど……」
「そうか。なら――、借りた車はレンタカー屋に返すとするか」
「え? でも海ほたるまで行く足が……」
「それなら問題ない、業者に取りにきてもらえばいい。そういうサービスもあったはずだからな。藤堂、借りたレンタカー屋に電話して確認してくれるか?」
「はい」

 藤堂が電話をしている間にと。

「佐々木、お前はレンタカー屋が来るまで此処で待機な」
「――え!?」
「俺は目を瞑ると言ったが、許すとは言っていないからな」
「はい……」

 シュンとしてしまった佐々木。

「山岸さん、レンタカー屋の方が取りにきてくれるそうです。ただ、追加料金が必要だそうで」
「そうか。佐々木、お前出しておけよ」
「は、はい……」

 藤堂が「なんだか――、山岸さんって佐々木さんにかなり強く当たりますよね?」と聞いてくるが。

「まぁ、とりあえず後輩だからな。後輩の教育は先輩としては当たり前のことだ」
「先輩として? 恋人としてではなくて?」

 ふむ……。
 江原が首を傾げながら聞いてくるが、俺には佐々木にそんな感情はまったくない。

「いや、全然。俺の中では藤堂が1番、2番は江原で、3番目が佐々木だな」
「「「ええええー」」」

 3人が口を揃えて叫んでくるが、まったく何なのか。
 まぁ本当の1番は牛丼で2番はパソコンだがな。
 そのあとに、藤堂、江原が来て超えられない壁があった後に佐々木だからな。
 今回の問題で佐々木の株はストップ安なのは言うまでもない。

「よし、佐々木。海ほたるまで来るなら自腹でこいよ」
「ああ、ううう……、先輩……」
「江原と藤堂はリムジンに乗ってくれ」
「わかりました!」
「はい」

 二人がリムジンに乗ったのを確認する。

「佐々木」
「ひっく――、うえええ……、せ、せんぱい……、わたし……、ごめんなさい……そんなつもりでしたわけじゃないの……」

 佐々木の肩に手を置く。

「せ、せんぱい!?」
「とりあえず頑張れよ」
「うええええん」

 本気泣きである。
 まぁ、反省させないといけないしな。
 それに、ここで同情したらコイツの為にならない。
 佐々木を残しリムジンに乗ると「山岸さん、よかったんですか?」と、富田が苦笑いしたまま話しかけてくるが。

「気にしないでください」
「そうですか、それでは行きますね」

 藤堂が借りたレンタカーと、泣き続けている佐々木を残して車はコンビニの駐車場から出る。



  

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