自宅にダンジョンが出来た。(WEB版)

なつめ猫

無職がまた一人




 10分ほどでアパートの前に到着。
 
「それでは、富田さん。着替えてきますので」
「待っていますよ」

 そう言うと富田は、車のエンジンを切ると車に搭載されているカーナビを操作し始めた。
 その様子を見たあと、アパートの階段を上がる。
 すると部屋の前に佐々木が立っていた。

「あ、山岸先輩っ」
「…………どうして佐々木がここにいるんだ? お前、仕事はどうしたんだ?」

 たしか佐々木は、陸上自衛隊の幕僚長になったはずだが……、それに貝塚ダンジョンの応対も政府が指針をきちんと発表していないはず。
 佐々木は、攻略者なのだから、こんなところに居るのは不味いのではないのか?

「え? あ……、私! 陸上自衛隊辞めました!」
「辞めた? どういうことだ?」



 ステータス 

 名前 佐々木(ささき) 望(のぞみ)
 職業 無職 ※日本ダンジョン探索協会嘱託
 年齢 21歳
 身長 152センチ
 体重 45キログラム
 
 レベル8800

 HP88000/HP88000
 MP88000/MP88000

 体力12(+)
 敏捷23(+)
 腕力10(+)
 魔力 0(+)
 幸運 4(+)
 魅力31(+) 

 所有ポイント 0



 たしかに……。
 スキル「神眼」で見た限りでは、日本ダンジョン探索者協会の嘱託になっているが、職員ではなくなっている。
 だが――、レベル8800の人間を国が簡単に放り出すとは思えないが……。
 
 ――山根は言っていた。

 レベル100近くの人間は陸上自衛隊から抜けることは難しいと。
 なら、レベル8800の人間が国の管理から抜けるなど難しいはずだが……。

「山岸先輩は、自衛隊には良い感情を抱いていないと藤堂さんから聞いたんです」

 それは、そうだが――。
 どうして、俺が不快な感情しか自衛隊に感じていないということと、佐々木が陸上自衛隊や、その関係の組織から抜ける事が関係あるのか。

「佐々木」
「はい!」
「将来のことを考えたら公務員は安定しているし良いと思うんだが……」
「……私は、公務員には興味はないです。だって、私は……、山岸先輩に助けてもらった時に、山岸先輩に大事な者だと言われた時に、貴方を好きになってしまったから……、守ってくれたから――、だから……」

 ――ん? 俺、そんなこと言ったか?
 だが、なんとなく雰囲気的に否定するのは社会人的に空気が読めない人間だと思われそうだな。

「……そ、そうか……」

 とりあえず話を濁しておくとしよう。

「はい! ですので! 今日は、一日フリーです! むしろ、ずっとフリーです!」

 頬を赤く染めながら目を潤ませて佐々木が話しかけてくる。

「そ、そうか……」

 どうしようか。
 江原と牛丼フェアにいく約束をしてあるんだが……。

 ここは、とりあえず――。

「それじゃ佐々木」
「はい!」
「俺、着替えて出かけないといけないから」

 とりあえず、最後の「フリーです」という言葉はスルーするとしよう。
 なあなあにしておけば、断りメールをしたことだし家に戻るはず。
 そう思いながら佐々木の横を通りすぎようとしたところで、彼女が――、佐々木が俺の左腕を掴んでくる。
 
「私、今日はフリーで一日暇なんです!」

 ニコリと笑みを浮かべて語り掛けてくる佐々木。

「――いや、今日は一緒にいく約束をしていたが仕事がんばれってメールしただろ? ちょっと俺は用事があってだな……」
「江原さんとのデートの件ですか?」
「ただ牛丼フェアにいくだけだ」
「相思相愛の男女が! 一緒に行かないといけない牛丼フェアにですか!?」
「いや、別に相思相愛とか書いていなかったはずだが……」

 どうして、そこまで食い下がってくるのか。

「山岸先輩、江原さんと藤堂さんも一緒に海ほたるに行くことになったんですよ?」
「一緒に?」

 一体、どういうことだ?

 そう言えばよく見れば、佐々木の恰好はかなり清潔感ある服装に纏められている。
 白のタートルネックに赤いスカート。
 そしてワイン色のタイツに白のケープコートで身を包んでいて女性らしい服装をしている。
 それに化粧もしているように見受けられるし――、腰まである黒髪も一部編まれているように見える

「まさか……、佐々木や藤堂も一緒にいくのか?」
「はい! だって最初に約束したのは私ですよね? それに私、山岸先輩からメールは頂きましたけど分かりましたとは返信していません……。それとも、私は一緒にいったらいけませんか……」
「いや、別に――、一緒に来てもいいが……」

 だから、そんなに俺に近寄るな。
 吐息が掛かるほどの距離まで体を密接されても困る。

「本当ですか! 良かったです……。私、先輩に嫌われたらと思うと……」
「いや、別に嫌うも何も……」

 そもそも佐々木の事なんてまったく意識もしていなかった。

 それにしても、江原に続いて佐々木まで俺が好きだとは思わなかったな。

「山岸先輩、スーツ姿もすごく! かっこいいです……、そのままではな行かないんですか?」

 体を当ててくる佐々木に俺は思わず溜息をつく。

「佐々木、近いからな。スーツは仕事着だ。牛丼を食べにいくときは普通の服装でいくのが俺の信条だ」
「そうなんですか?」
「ああ」
「…………わかりました。山岸先輩の着替えが終わるまでに私達も用意しておきますね」

 何の用意をするのか分からないが――。

「佐々木、車の用意は出来ているからな」
「車? それならレンタカーはいらないですね」
「ああ、必要ないな」

 せっかくハイヤーで来て富田に待機してもらっているのだ。
 余計な出費をする必要はない。

「それでは、私は藤堂さんに電話をしておきますね」
「ああ、頼んだぞ。――というか、さっさと電話しておけ。アイツは方向音痴だからな、車を借りたら迷子になって合流できなくなるぞ」
「――え? どうして……、山岸先輩は藤堂さんが方向音痴だって知っているんですか?」
「ん? いや――、以前に一緒に牛丼を食べにいったことがあるからだな」

 俺の言葉を聞いた佐々木が、電話をしようと手にもっていたスマートフォンをバキッと握りつぶした。

「あっ!? わ、私……」

 通路に散らばるスマートフォンの破片。
 一目で、スマートフォンが即死だったのは分かる。
 それにしても、血が出ていないということはレベル補正が相当掛かっているということか。
 
 ――いや、たしか……山根が言っていたな。

 山根達は、レベル補正がステータスに影響するのはダンジョンのみだと。
 つまり、何か他にステータス補正をかけている力があると見て間違いないが……。

 心当たりと言えば魔法くらいしかないが、俺が魔法を使えると知っているのは陸上自衛隊の一部の人間と、日本国政府の総理や側近――、あとは元・陸上自衛隊の幕僚長の竹杉くらいだ。
 余計なことを言って藪蛇になるのも困るからな。
 ここは、普通に心配しておいた方がいいだろう。

「大丈夫か?」
「は、はい……。わ、わたし――、つい力が入ってしまって……」

 つい力が入ってスマートフォンを握りつぶすとか普通はありえないからな。
 俺は心の中で突っ込みを入れつつ。

「そうか。怪我が無くて何よりだ」
「はい……」
「仕方ない、俺の方から江原には電話しておくから」
「山岸先輩! 私の方から電話しておきますから――」
「そうか? それなら――」
「スマートフォンをお借りしますね。私の方から電話しておきますから」
「ああ、任せた」

 家に入ったあと、スーツをハンガーに架け――、黒のジーパンとYシャツに着替え最後に黒のロングコートを羽織る。
 
 所要時間は5分ほど。
 家から出る。
 佐々木も、ちょうど電話が終わったようだ。

「どうだった?」
「はい。江原さんも藤堂さんも急用が出来て来れなくなったみたいです」
「そうなのか?」
「はい!」

 ふむ……。
 江原は、俺のことが好きだと言っていたから、何かあっても来そうな気がしたが……。
 まぁ、急用が出来たら仕方ないな。

 とりあえず江原には、残りのお金も渡さないといけない。

「――ん?」
「山岸先輩どうかしたのですか?」
「いや、江原の電話番号を登録していたはずなんだが……」

 おかしいな?
 たしかに登録をしていたはずなんだが……、電話帳の中から江原のデータだけ消えている。
 
 ――まさか……。

 いや――、いくら佐々木でも人のスマートフォンに登録している電話帳のデータを消すような真似をしないはずだ。

「山岸先輩大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。佐々木、江原の電話帳のデータ入っていなかったか?」
「…………え? 私、分からないです……」
「そうか。すまないな」

 どうやら、少し考えすぎてしまったようだ。

「いえ。山岸先輩には疑われても私は気にしませんから!」
「そ、そうか……、――なら二人でいくか」
「はい! 早く行きましょう!」

 佐々木が俺のコートの裾を掴むと早く歩いてとばかりに引っ張ってくる。
 そんなに急がなくてもいいと思うが――。

 アパートの階段を降りたところで、佐々木が俺の方を見てくる。

「山岸先輩、すごい車が停まっていますよ」
「ああ、これは俺がハイヤー契約している車でな」
「これを……、この車で江原さんと二人で行こうとしたんですか?」
「いや、そうじゃないが何となくリムジンで行くことになったという感じだな」
「…………やっぱり……」
「何がやっぱりなんだ?」
「ううん、何でもないです。早く乗りましょう!」
「山岸さん。用意はできましたか」
「はい、よろしくお願いします」
「それで、そちらの女性は?」
「あ、私は佐々木 望といいます」

 佐々木の言葉に、富田の表情が変わると俺に近寄ってくる。

「山岸さん、彼女はもしかしてダンジョンを攻略した――」
「はい。まあ、特別な扱いはしなくて大丈夫ですから」
「そうですか。それで彼女は山岸さんの彼女ですか?」

 別に佐々木は俺の彼女という訳ではない。
 ただ――、好きだと言われたからな。
 ここで否定をしたら牛丼フェアにいけなくなる。

「まぁ、ご想像にお任せします」

 このへんが妥当だろう。

「それでは佐々木様、山岸さん。お乗りください」

 富田の言う通りに車に佐々木と共に乗り込む。
 二人でも広すぎる車内。

「山岸先輩、すごいですね。この車内……」
「そうだな――」

 俺と佐々木が話している間に車が走り出した。



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