自宅にダンジョンが出来た。(WEB版)

なつめ猫

錯綜する思い(3)第三者視点




 ――12月31日、午前12時過ぎ。



 千葉県木更津市のハイウェイから伸びる道路の先――。

 ――海の上に作られたパーキングエリア【通称 海ほたる】

 そこは普段はトラックが停車している場所で閑散としているが、今日だけは勝手が違っていた。
 年末、そして年越しということもあり、新年を祝うイベントを勧める業者や関係者でごった返している。

「日本は平和よね」

 パーキングエリアに入る道路の側道の壁に寄り掛かりそうながら……、そう呟いたのはアメリカ海軍に所属しているアリア少尉であった。

 世界中にダンジョンが出来てからというもの、世界情勢は一変した。
 ダンジョンから採掘されるモンスターコアは、水に浸けるだけで熱を放射し気体を膨張させタービンを回すことが出来る。
 それにより電気を作り出すことも出来る。
 さらに、放射した熱がすぐに消滅することから石油・石炭・原子力といった旧来の技術にとって変わる次世代の新エネルギーとして各国が注目しており、とくにダンジョンが多い国にとって、モンスターコアの確保は利権に直接かかわることから諍いが絶えない。

 ダンジョンの利権で、南アメリカ・南アフリカ・ヨーロッパや中東の国々で国境を睨んでいる事態にもなっている。
 特に石油産出に経済を依存していたなど国々では深刻な問題になっていた。
 辛うじてダンジョンが殆ど存在していない大国が購入しているだけで、環境問題を踏まえるとモンスターコア発電に切り替えるのは時間の問題とされている。

 しかも、日本国政府主導でモンスターコアを利用したエンジンを開発しているという話もあることから、石油産出国は懸念の声を上げているのだった。

「そうですね」

 アリアの言葉に同意を示したのは、無地の黒いカットソーとジーパンを着ていた男。
 身長は180センチほどで、ラテン系アメリカ人で階級は2等曹長であるライネル。

「どう? 用意は出来たの?」
「はい。準備は出来ましたが……、正直言うと今回の任務は気が乗らないですね。いくら大統領命令だったとしても――」
「そうね。でも、いまの大統領では無理だわ。だってウォール街からの資金提供を受けているもの。中東から多額の資金が流れ込んできている以上、日本のモンスターコアに関する技術開発は少しでも遅らせたい――、もしくは……」
「その利権のお零れに預かりたいということですよね」
「そうね」

 ライネルの言葉に、彼女――アリアは頷く。

「やっかいですね」
「ええ――、まさか同盟国でテロを起こしてこいだなんて……、血迷うにも程があるわ」
「それでも我々は、アメリカに忠誠を誓っている軍人です」
「分かっているわ。だからこそ、悩んでいるんじゃないの」

 アリアは溜息交じりに、海ほたるのパーキングエリアへと視線を向ける。
 そこは、多くの屋台のために用意された敷地なのだろう。
 多くの人々が夜の営業に向けて多くの建材を運び入れては手慣れた様子で店舗を組み立てている。

「誰かを犠牲にして、得られる物に価値なんてあるのかしら?」
「…………アリア少尉」
「分かっているわ。ローレン大佐だって、作戦が決まってからは、いつも眉間に皺を寄せているもの。でも、彼は私達には弱音は吐けないわ。だって、軍のTOPが決断を躊躇してしまったら誰かが犠牲になるのだから――、それでも……」

 彼女は、海ほたるの入り口に掛けられている幟を見て考えてしまう。

「牛丼フェアね」
「牛丼ですか? それは、ジャパニーズフードですか?」
「そうね」
「どんな料理なんですか?」
「食べてみれば分かるわ」

 アリアは、ライネルの言葉に憐憫を乗せた言葉を返す。

「その様子からですと、アリア少尉には思い入れのある食べ物に見えますが――」
「そう見える?」

 彼女は、視線を海の方へと移動しながら呟く。

「まぁ、そうかもね……、牛丼はね――。私がホームスティしていた時に、友達に食べさせられたものなの。友達と言えば語弊になるわね。私よりも年上のお姉さんがね、用意してくれたものなの。その時に、お姉さんのお兄さんも居てね、彼が私の初恋の人だったかな。だから思い入れがあるのよね」
「そうだったんですか。それでは作戦が終わったあとは一度お会いに行かれたりとか気分転換でもされたらどうでしょうか?」

 ライネルの言葉に彼女は頭を左右に振る。

「無理よ。だって、村で生きているのは一人だけで――、意識不明のまま寝ているから」
「そうでしたか」
「ええ……あれは!?」

 海の波を見ていたアリアは、話しながら視線を海ほたるの入り口に向けたところで目を見張る。

「あれは……、まさか……」
「どうかしましたか?」
「ライネル、あれを見て」
「あれと言われても……」

 アリアの指さす方向へとライネルは視線を向ける。
 その先にはアジア風の男が一人歩いていた。
 
「額に十字の傷……、まさか――、あ、あれは……」
「間違いないわ、たった一人でアメリカの第7艦隊を壊滅させたレムリア帝国の四聖魔刃の一人クーシャン・ベルニカよ。どうして世界的に指名手配されている男がこんな所に……、すぐにローレン大佐に連絡を入れないと――」




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