【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

ダンジョン探索依頼(1)




 首相官邸から出たころには、すでに日は落ちており夜の帳が落ちていた。
 時刻をスマートフォンで確認。
 画面上に表示されている文字は18時を示している。

 なんだか最近、時間が経つのが早いな。
 というよりも思ったより首相官邸に長くいたようだな。

 竹杉の後をついていきながら一人考えていると、視界内に半透明のプレートが表示されログが流れる。



 —―主、山岸直人。



 なんだ? 何か問題でも発生したのか?
 


 ——私は一生懸命仕事をしました。



 まぁ、頑張ったのか?
 ただ脅していたようにしか見えなかったが……。



 ——しばらく自分へのご褒美として長期休暇を取ります。
 

 
 長期休暇だと!? と突っ込みを入れる前にログが流れる。



 ——スキル「大賢者」は、バカンスのために長期休暇を申請しています(yes/OK?) 残り時間5秒



 はい! しか選ぶ項目が無いんだが……。
 そう考えている間にもカウントは終了する。
 そして、視界内のプレートは最小化され――。
 念のためにスキル項目を選び開く。



  スキル

 ▽「ロリ王LV1」(+)(ON/●OFF)
 ▽「JK交際LV1」(+)(ON/●OFF)
 ▽「隠蔽LV10」(●ON/OFF)
 ▽「ポーカーフェイスLV1」(+)(ON/●OFF)
 ▽「#JWOR」
 ▽「ZH)N」
 ▽「大賢者」(●ON/OFF)【頑張った自分へのご褒美のため長期休暇中】
 ▽「アルコール耐性LV10」(●ON/OFF)
 ▽「救急救命LV10」(●ON/OFF)
 ▽「限界突破LV10」(ON/●OFF)
 ▽「バーサクモードLV10」(ON/●OFF)
 ▽「威圧LV10」(ON/●OFF)
 ▽「暗視LV1」(+)(●ON/OFF)

 ▽所有ポイント 0 

 

 頑張った自分へのご褒美って……、丸の内のOLなのか?
 まったくわけが分からない。

「山岸直人殿、こちらの車にお乗りください」

 案内された場所に停車していたのは黒塗りの車でレクサス。
 それを見て、俺は首を傾げる。

「どうかしましたか?」
「いや――、帰りも高機動車だと思っていたので……」
「ああ、なるほど。あの時は車の手配が出来なかったのです。突然のことでしたから――、本来ならば自衛隊で使っている車で首相官邸内に入ることは、市民に要らぬ誤解を与えますから」
「そうですか……」

 乗り込むと車はすぐに走り出す。
 246号線に乗り替えたあとは首都高を通り京葉道路へ――。

 ただし、室内は特に会話もなく静かだ。
 まぁ、首相官邸であれほどの大言を吐いたのだ。
 竹杉幕僚長も話の口実は掴みにくいだろう。

「山岸直人殿」
「……」

 もう話してこないと思っていただけに、竹杉が俺に語り掛けてきたのは想定外。
 
「何でしょうか?」
「私の部下の山根がしたことは申し訳なく思っています」
「それはもういい。トップから金はもらえるからな」

 200億円という大金を用意したのだ。
 それで、この話は水に流す。
 ただ、一つ気がかりなことがある。

「竹杉幕僚長、山根が調べていた上越智村のことですが……」
「ああ、それですか」
「そのことに関しては、情報が隠蔽されており詳しいことは分かっていないのです。ただ、関係していた者達の所在は調べ中です。上越智村で起きた事件以降、国外に逃げた人間もおりますので」
「なるほど……、つまり犯人は特定はできない。それでも、関わっていた人物の内偵は進めていると?」
「そうなります。ですが、現在はどの国も国交断絶をしておりますレムリア帝国の情報入手は難しいでしょう」

 竹杉幕僚長は頭を押さえながら溜息をついていた。
 演技には見えないが一応、用心しておくとしよう。

「そういえば、江原や藤堂ですが――」
「ああ、江原君については私も詳しくは知りませんが、藤堂君については今後、貴方とのコンタクト要員として近くの建物に住まわせる予定です」
「そうなのか?」
「そうですね。アパートの権利書は貴方が持つことになりますから、さすがに銃口を向けられた自衛隊所属の人間と同じアパートで暮らすのは困るでしょう?」
「いや――、別に問題ないが……」
「そうですか……、助かります」

 話している間にも車は、貝塚インターチェンジを降りたあと若葉区に入る。
 そして……、ようやくモノレールの沿線が見えてきた。
 千葉都市モノレールの桜木駅を右手に見ながら車は走る。
 すると1分ほどで、魔法「草薙」で破壊された跡――、モノレールの沿線が途切れている個所が見えてくる。
 
 沿線の下には立ち入り禁止の看板や迂回路があるが、沿線の根本的な復旧作業はされていないようだ。

「そういえば――」
「どうかしましたか?」
「貝塚ダンジョンの管理は、日本ダンジョン探索者協会が行っていると聞きましたが?」
「……そうですね」
「日本ダンジョン探索者協会は、千葉都市モノレールの復旧作業などは?」
「……そうですね。ですが、その点は陸上自衛隊は何とも言えませんな」

 竹杉幕僚長は、表情を変えずに答えてくる。
 それにしても、この男――、ずいぶんとのらりくらりとこちらの話を逸らしてくれるものだ。

 スキル「解析LV10」で見た限りでは



 ステータス

 名前 竹杉(たけすぎ) 俊作(しゅんさく)
 職業 軍人 ※陸上自衛隊・陸上幕僚長、内閣情報調査室所属、日本ダンジョン探索者協会責任者
 年齢 58歳
 身長 188センチ
 体重 76キログラム
 
 レベル637

 HP6370/HP6370
 MP6370/MP6370

 体力42(+)
 敏捷37(+)
 腕力39(+)
 魔力 0(+)
 幸運 9(+)
 魅力21(+) 

 所有ポイント636



 どこから、どう見ても日本ダンジョン探索者協会責任者と書かれているくせに……。
 
「そうですか……」

 俺は残念だといった表情を作りながらスマートフォンをスーツの内ポケットから取り出す。そして、音声検索項目を選ぶ。

「日本ダンジョン探索者協会 責任者」

 ――すると「日本ダンジョン探索者協会責任者で検索しました」と音声が車内に流れる。
 そして俺の行動を興味深そうに見ていた竹杉の顔色が変わる。

「どんな方が責任者か気になりますよね」
「――そ、そうですな……」
「おや~、おかしいですね? 日本ダンジョン探索者協会責任者は、竹杉(たけすぎ) 俊作(しゅんさく)という方らしいですよ? 竹杉幕僚長と同じ名前なんて奇遇だな?」
「…………わかりました! それで、何を知りたいのかな?」
「さすがは竹杉さん! 幕僚長なだけはありますね!」
「煽てるのはいいので――、で、質問は?」
「いくつか質問はあるが……、まず千葉都市モノレールは直さないのか? というところか」
「なるほど……」
「ああ、貝塚ダンジョンから放たれた緑色の光が千葉都市モノレールの沿線を破壊したとタクシー運転手も言っていた。日本ダンジョン探索者協会が、貝塚ダンジョンを管理していたのだから知らないでは通らないだろう?」
「そうですな……、ですが――、我々がそれを認めてしまった場合、どうなると思いますか?」

「どうなると思うかだと? そんなの――」
「簡単に申しますと、貝塚ダンジョンが関与していると噂が確定した場合、日本中に存在するダンジョンが、民間人に危険視される恐れがある。さらに言えば、ダンジョン内で完結していた問題が地上に影響を及ぼすとなれば、それは要らぬ混乱を招くことになりかねない」
「なるほどな……」

 つまり要らぬ混乱を避けるために、日本ダンジョン探索者協会は千葉都市モノレールの沿線が壊されたことと、ダンジョンは無関係を貫く方針というわけか……。

 言い分は分かるが……、釈然としない。
 
「それでは、この沿線を利用して暮らしていた人々は――」
「残念ながら、日本には世界中に存在しているダンジョンの9割が存在しております。そのために、一度でもダンジョンが地上に影響を及ぼすと思われた場合の混乱はとても大きなものとなるでしょう」
「――なら」
「そうです、日本国全体の治安と秩序を守るためならば我々は千葉都市モノレールの沿線上に住む少数の人々の生活を切り捨てます。それが国を救うということですから」
「…………なるほどな」

 結局は、大を救うために小を切り捨てる。
 それが国の在り方、そして軍人の在り方なのだろう。
 たしかに個人の救いと、全体の救いは違うのだろう。
 
 それでも――。

「ええ、軍人を長年していると大勢を救うためには誰かを救えないというのが分かるようになる。だからこそ――」
「だから、少数を切り捨てていいと? それが親しい者で……、家族であったとしても?」
「それが国を守るということです」

 俺の問いかけに躊躇なく竹杉は答えを示してくる。
 瞳は真っ直ぐに――、俺を射抜くように――。


 俺は、その覚悟に――。
 俺は、その言葉に――。
 
 つくづく軍人や警察とは相容れない物だと認識してしまう。

 理解してしまう。
 分かってしまう。

 そう――、俺と彼らではすでに在り方が違う。

 彼らは秩序を――、治安を守るためならば……、少数の犠牲を厭わない。
 何故なら多くの人を救うために少数を切り捨てることを躊躇いながらも実行に移せるのだから。

「そうか……、なら俺とは違うな」
「そうですな。貴方は自らの体を盾にしてまで暴走した警察官の凶弾から市民を守ったのだから。それこそがヒーローと呼ばれる者の資質なのでしょうな」

 そこで車は、アパートの前に停まる。
 運転手が、車のドアを開けてくれ――、俺は車内から出る時に竹杉へ視線を向ける。

「竹杉さん、俺は自分をヒーローなんて思っていない。俺は、たった一人の大事な人間の命も守れない弱者だ。だからこそ、俺は自分の目に前に存在する誰かを守りたいと思っている」

 俺の言葉に、竹杉が一瞬呆けたような表情を見せると、小さく笑みを浮かべる。

「山岸さん。貴方には私も興味が湧いてきました。また、お会いしましょう」 
「…………」

 車のドアが閉まる。
 そして、車は走り去った。



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