自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

聖夜に暗躍する者(第三者視点)




「くくくっ」
「山根2等陸尉どうかしたのですか?」
「いや――。日本ダンジョン協会の楠君から報告を受けた時は、私も耳を疑ったものだけどね」
「――疑ったですか?」

 山根の言葉に、困惑した表情で答えてきたのは藤堂1等陸士であった。
 彼女は、山岸直人が住むアパート――104号室に住む陸上自衛隊の通信士である。
 
 そんな室内には、二人以外に多くの通信機器が置かれていた。
 
「江原 萌絵君だが、どうやら山岸直人君に助けられたらしい」
「本当ですか? 彼――、レベル1ですよね?」
「そうだね。でも、彼に助けられたのは事実のようだね。同じ日本ダンジョン探索者の漆原君からも証言はもらっているからね。何でも通路が爆発する前に気がついて、江原君を助けたらしい。そう、通路が爆破される前にね。……と、いうよりも、そうとしか見て取れなかったようだね」
「それは、巻物で覚えた危険察知の魔法か何か……、ではありませんよね」
「そうだね。少なくとも危険察知の巻物は300万円はするからね。一般人では手に入れることはできないよ。でも、彼は――、それができた。しかもレベル1でね。本当に信じ難いことだけどね……、それに――、まぁ、本当にレベル1かどうかも疑問の余地があるけどね」

 藤堂の言葉に、山根は肩を竦めながら答える。

「どういうことでしょうか?」
「彼は、ダンジョンツアーに来た際にダンジョンピーナッツの茎を引っ張ってピーナッツの束を引き出したんだよね。しかも単純に力だけで――」
「本当ですか? そんなこと、レベル400の探索者でも無理ですよ? そのままではピーナッツの束を抜けないことから……」

 藤堂の言葉に山根は頷く。

「そうですね。ダンジョン探索者の間では、素手では引き抜けないという意味合いも込めてエクスカリバーピーナッツとも呼ばれていますね」
「それを……、レベル1の彼がですか?」
「そう。ビックリするよね」

 部屋の機材――、その中のモニターの一つには、佐々木 望と江原 萌絵が映っている。
 そして二人の間には、山岸直人の姿が映っていた。

「こう見ていると、どう見ても普通の人間にしか見えませんね。本当にプライバシーを侵害してまで、たった一人の人間を監視する必要があるのですか?」
「ああ、それに彼には興味があるんだよね」
「興味ですか?」
「そう。最初、山岸直人君に会った時に直感したんだけどね……、彼は人間に興味を持っていないんだ」
「人にですか? それって今の――、今、日本で暮らしている人間から見たら普通なのでは? 他人に関心を持たないという理由で――」
「そうじゃないよ。根本的に君は勘違いしている。本当に人に無関心な人間は誰もいない。だけど、彼は自分を含めた人間に対して興味がない」
「自分を含めてですか? そんなの――」
「そう、ありえないよね。だからこそ、良い兵士になる。自らの命を顧みない人間は、どんな状況下においても間違いの無い冷静な判断が取れるからね。だから、彼を部下にしたいんだけどね。儘ならないものだよ」

 山岸と藤堂が見ているモニター。
 画面内には――、江原の部屋に入っていく佐々木望の姿が映し出されていた。

「儘ならないものとは?」
「いや――、何……、少しあってね……」

 さすがに、山根としても彼――、山岸の就職を邪魔しているとは言えず口ごもるしかない。
 国家権力を使って邪魔して、生活ができなくなったら声をかけようと山根は考えていたが、山岸は強運の持ち主でスクラッチ宝くじを天文学的な数字で当て続けた。
 もはや普通という括りでは考えられない幸運。
 
 それも山根の興味を引き立たせていた要因の一つであった。
 
「それにしても楠君は、面白い提案をしたよね」
「面白い提案ですか?」
「そう――、じつはね彼女――、江原君は日本ダンジョン探索者を辞めたんだよね」
「――え? 彼女、レベル90くらいでしたよね? 基本、日本ダンジョン探索者協会か自衛隊への所属している時にレベル50を超えた人は、脱退を許可されないはずでは?」
「そうだね。だからこその提案だよ。楠君は、江原君の脱退を受理する条件に、山岸君の勧誘をするようにと命令を受けたんだ。だから、このアパートを日本ダンジョン探索者協会で購入したんだよね。杵柄老婦人からね。孫ということにしたのだけどね、上手くいってよかったよ」
「その提案って、山根2等陸尉も噛んでますよね?」

 ジト目で藤堂が山根を見る。
 彼女に見られた山根2等陸尉は肩を竦めるだけで答えることはしない。
 ただ、その無言が肯定を示している。

「――まぁ、1つ誤算があるとすれば……、江原君が、山岸君に好意を抱いているという言葉が本当だったという所かな? 吊り橋効果かも知れないけど、そこは計画に支障が出たら対処をする必要があるだろうね」
「支障が出たらどうするんですか? バレたらまずいですよ?」
「だから、陸上自衛隊でも通信士として優秀な藤堂君に来てもらったんじゃないか? 何かあったら、まだ24歳の君ならいくらでも誤魔化しが利くだろう? 君には期待しているよ」
「はぁ……、わかりました。上手くいくかどうかは分かりませんが、給料面は期待させてもらいますよ?」
「もちろんです。それでは、何かありましたら駐屯所まで報告を上げてください」
「わかりました」

 彼女の答えに満足すると、山根は部屋から出たあと待機していた車に乗ると走り去った。
 


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