【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

ダンジョンツアー(3)




 ダンジョンツアーに、予約を入れた翌日。
 現在、俺は千葉モノレール桜木駅から、加曾利貝塚縄文遺跡公園に向かっている。
 
「寒いな……」
 
 一人愚痴る。
 以前は、そうでもなかったが退院してからやけに冬が寒く感じるのだ。
 ダウンジャケットを着ている現在でも、それは変わらない。

 それと先ほど、貝塚ダンジョンまでスマートフォンで道順を調べたが駅から遠すぎた。
 途中で帰りたい気持ちが湧き上がってくる。
 さらに寒い。
 つまり帰りたいと思うのは仕方無い。

 しかし、自分で一度いくと決めた以上、突然のキャンセルは先方の迷惑になる。
 それだけは社会人としてはやったらいけないだろう。
 
「とりあえず寒さ対策に何か食べながら向かうとするか……」

 寒いからな。
 温かい物がいい。
 俺は、近くの高校前にあるセブンイレブンで肉まんを7個と、温かいマックスコーヒー500mlを3本購入する。
 
 これだけ戦闘糧食があれば事足りるだろう。

 それに病院で1カ月も不健康な食事を出されたせいで、かなり痩せてしまったからな。
 味の薄い食事ばかりで肉もほとんど出なかった。
 さらに野菜ばかりという酷い食事だったからな。
 あとはリハビリと称して、何時間も歩かされたりしたし……。
 
 いま思い出しても、体の震えが止まらない。
 念のためにステータスとスキルを確認しておく。



  ステータス

 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 71キログラム

 レベル1(レベル449)
 HP 10/10(4490/4490)
 MP 10/10(4490/4490)

 体力17(+)
 敏捷15(+)
 腕力16(+)
 魔力 0(+)
 幸運 0(+)
 魅力 2(+)

 ▽所有ポイント 390



 スキル

 ▽「ロリ王LV1」(+)(ON/●OFF)
 ▽「JK交際LV1」(+)(ON/●OFF)
 ▽「隠蔽LV10」(●ON/OFF)
 ▽「#JWOR」
 ▽「ZH)N」
 ▽「大賢者」(●ON/OFF)
 ▽「限界突破LV10」(ON/●OFF)
 ▽「バーサクモードLV10」(ON/●OFF)
 
 ▽所有ポイント 390



 やはり過酷な病院生活で30キロ近く体重が落ちてしまっている。
 ひょっとしたら俺は癌なのではないだろうか? とまで思ってしまうが――、まぁ病院に居てそれは無いだろう。

 あと、ダンジョン内で問題が起きて変なことにならないようにステータスの方は初期化している。
 ただ、魅力と敏捷が少しだけ上がっているのが気になるところだな。
 そのへんは、あとで検証が必要だろう。

 俺はステータスを見ながらコンビニ袋からマックスコーヒーを取り一口飲む。

「それにしても、マックスコーヒーは至高だな」

 俺は、500mlを一気飲みする。
 うまい! 世間では甘すぎると定評のある飲み物だが俺にとっては正義と言える。

 コンビニ袋から肉まんを取り出し食べる。
 病院食では味わえないチープな味がたまらない。
 やはり、肉は最高だ。
 
「帰りにギガ盛り牛丼を2個買って帰るか……。たまには贅沢をしないといけないからな」

 1ヶ月もマズイ病院食を味わっていたのだ。
 ここは、自分へのご褒美を用意してもいいはず。

 15分ほど歩くと、左手に駐車場が見えてきた。
 そのまま歩く事1分ほど。
 加曾利貝塚公園と書かれた入り口に到着した。

 入り口には大きなプレートが置かれている。

「ふむ……、貝塚ダンジョン入り口は直進100メートルか……」

 俺は、食べ終わった肉まんの袋と空になったマックスコーヒーのプラスチック容器が入ったコンビニ袋をゴミ箱に捨てると、貝塚ダンジョンはこちらです! と書かれたプレートを見ながら進む。

 ――少し歩くと、大きなプレハブの建物が視界内に入ってきた。

「あれか?」

 プレハブには大きな文字で、【日本ダンジョン探索者協会 貝塚ダンジョンへようこそ!】と書かれている。

 プレハブに近づくと、まず目に入ったのは企業の会議室で使うような長机に座っている女性たちであった。
 そして、その前に並ぶ中学生や高校生くらいの年齢の子供たち、それと買い物かごを持った40代のエプロンをつけた母親と思わしき女性たちの姿が見える。

「…………」

 もう少し、ダンジョンツアーと言っても殺伐とした雰囲気を考えていた俺としては、肩すかしを受けたのは否めない。
 もっとこう! 刀や鉈を持った屈強な男たちが挑むような様相を期待していたのだが……。
 まぁ、案外、日常というのはこういうものなのかもしれないな。

「はい! お次の方、どうぞ!」
「……佐々木、こんなところで何をしているんだ?」
「山岸先輩、今日は通信設備のメンテナンスは無いので人手が足りないということで接客のお手伝いをしているのです」
「そうか……」

 それにしてもダンジョン探索者協会というのは時代錯誤のきらいがあるのだろうか?
 男は白いガクランに、女性はセーラー服と協会の上の人間が何を考えているのか今一、分からない。

「先輩は、今日はツアーですか?」
「ああ、そうだな」
「へー」
「何かあるのか?」
「いいえ、なんでもないです」

 佐々木がポニーテールに纏めた髪を左右に振りながら答えてくる。
 それにしても、どこかしら含みがあるような言い方をしてくるな。
 まぁ、別にいいが……。

「おや、山岸さん!」
「山根さん?」

 ダンジョンツアーの受付の後方の仮設住宅から出てきたのは、陸上自衛隊2等陸尉の山根。
 
「山岸さんは、ダンジョンに興味が無いと伺っていましたので、ここで会えるなんて本当に! 奇遇ですね!」
「……そうですね。ところで、どうして山根さんは、こんなところに?」
「今日は、ダンジョンツアーの開催日ですからね。一般人を護衛するためにも、レベルが高い探索者が居た方がいいということで無理やり狩り出されたわけですよ」
「なるほど……」
「ええ、日本ダンジョン探索者協会の母体は陸上自衛隊ですからね。断るわけにもいきませんから」
「ああ、なるほど。そういえば、そんなことを以前にも聞いたような気がします」
「でしょう? いやー、それにしても本当に偶然ですね」
「そうですね。そういえば、ダンジョンツアーは、インターネットで見た限りでは落花生が持ち帰れるとか書いてありましたけど、魔物とかと戦ったりはしないのですか?」

 俺の問いかけに、山根が「――まさか」と言いつつ肩を竦める。

「ダンジョンツアーは、あくまでも市民の方にダンジョンはこういう場所ですよと正しく知ってもらうためのものです。ですから戦うのは、警護につく日本ダンジョン探索者協会の者か、私のように召集された陸上自衛隊の人間ということになります。まぁ、基本的には陸上自衛隊の人間は山中に存在するダンジョンを担当しておりますので、市街地に近いダンジョンはほとんど日本ダンジョン探索者協会にお任せしています」
「色々とあるのですね」
「それでは、佐々木君」
「はい」
「山岸さんの受付が済んだら、ダンジョンツアーの団体さんを案内するから君もついてくるといい。君は何度か貝塚ダンジョンに潜っているだろう? 君もそろそろレベルは20近い。何かあった場合に一般人を守る訓練も積んでおいた方がいいからね」
「わかりました」
「先輩、これを――」

 免許証を提示し、名前と住所を用紙に書いたあと佐々木から首から下げる認証を受け取る。
 そこには千葉No.F 貝塚ダンジョン 19番と書かれていた。

「山岸先輩。その千葉No.F というのは、ダンジョンのランクのことです。ダンジョンは1Fに出るモンスターの種類や強さによってA~Fまでのランクがあり貝塚ダンジョンは、日本に存在するダンジョンの中では最弱の部類に入ります。そのため、主婦の方や学生の方も落花生を拾いによく来ます。それと19番は先輩が19人目という意味です」
「そうか……。ちなみに、どんなモンスターが出るんだ?」
「モンスターは出ません。落花生が実っている通路がずっと続くのが1階層です」
「……俺の考えていたダンジョンと違う」
「あ、でも! 2階層からは、歩いている落花生もいますので……、攻撃はしてきませんけど……」
「本当にダンジョンは脅威なのか?」
「そうですね。Dランクダンジョンからは、1階層から襲ってくるモンスターはいますけど、そういうところは見学やツアーは基本禁止になっていますから、こんなに住民が来られることもないそうです」

 なるほどな……。
 まぁ、ダンジョン初心者の俺にとって、あまり過激なのは無い方がいいからな。

「分かった」
「それでは、そちらに御手洗いなどもありますので、用意をしておいてください。5分後に出発しますので」

 


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