【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

日本ダンジョン探索者協会(2)




「さて……」

 山根や佐々木が乗ったハマーを見送ったあと、俺は部屋に一旦戻る。
 まずすることは、山根に対抗できるレベルに引き上げないといけないことだ。

「LV288か……、正直言ってアイツは信用できないな……」

 コールセンター歴20年以上勤めている俺からすれば、話せばある程度はその人物がどういった人間かが分かる。
 何せエンドユーザーから入電が来たら対応する際には、顧客の声の反応で出方を変えるからだ。
 数千、数万という人間観察をしてきた俺にとって山根は何かを隠しているのが分かる。

 ――ただし、それが分からないから困っている。

「どちらにしても対抗措置は必要か」

 引き出しを開ける。
 するとミニチュアダンジョンの形が少し変化していた。
 1センチほどの置物の形も変わっていることから俺がずっと見てきたミニチュアダンジョンとは異なることが分かる。
 それでもやることは変わらない。
 人差し指で置物を押しつぶしていく。



 ――レベル3088 炎竜王ファルドラを討伐しました。
 ――レベル1019 水の精霊アクアを討伐しました。
 ――レベル1001 狂乱のダンシングソードを討伐しました。
 ――レベル1003 悪魔の宝箱を討伐しました。

 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。
 ――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。



 一気に「――レベルが上がりました。ポイントを1手に入れました。」と、いう文字が視界内の半透明なプレートにログとして流れ続ける。
 そして、ログが流れ終わると同時に自分のステータスを確認。


 名前 山岸(やまぎし) 直人(なおと)
 年齢 41歳
 身長 162センチ
 体重 102キログラム

 レベル1(レベル449)
 HP 10/10(4490/4490)
 MP 10/10(4490/4490)

 体力17(+)
 敏捷11(+)
 腕力69(+)
 魔力 0(+)
 幸運54(+)
 魅力 0(+)

 ▽所有ポイント 305



 かなりレベルが上がったな。
 それよりも以前から気になっていたが、モンスターを倒したときに上がるレベルだ。
 今回倒した魔物のトータルのレベルは6000ほど。
 だが……。

「今回上がったレベルが305ってことは……」

 つまり20分の1が俺のレベルとして換算されている計算だ。
 これは、かなり効率が悪いのでは?

 いや――、俺は一度もダンジョンに入ったことがない。
 つまり一匹を倒す際にどれだけの時間がかかっているか分からないのだ。

「これは、一度はダンジョンに入っておいた方がいいか?」

 一度、ダンジョンに入り討伐時間が分かれば山根のレベルに関してもある程度推測がつく。

「それは悪手か――」

 さっき山根は探索者が一般人に危害を加えることは重罪だと言っていた。
 つまり探索者になるということは重い義務を背負う可能性だってあるのだ。

 あと問題は、一般人に危害を加えた場合だ。
 以前に読んだパンフレットにはそんなことは一文も書いていなかった。
 
 つまり……、日本ダンジョン探索者協会のホームページに何かしら書いてあるということになる。
 警察が来るまで、あと少しと言ったところだが目を通しておいた方がいいな。

 パソコンのインターネットブラウザを開く。

「検索項目は、【ダンジョン探索者】【一般人への暴行】でいいな」

 キーボードのエンターを押す。
 すると、膨大な情報がヒットした。
 
「871万9871件? とてもじゃないが見きれないぞ……」

 警察だって、いつ到着するか分からない。
 とりあえず公式と書かれている物をクリックする。

 画面の左上には日本ダンジョン探索者協会と書かれていることから、公式の情報なのだろう。
 一応は信頼は置けるかもしれない。
 正しいかどうかは別として――。

 ホームページ上には、ダンジョン探索者による一般人への暴行についてと書かれているが、クリックするとIDとPASSを求められる。

「ここからは、ダンジョン探索者協会に所属している方のみ閲覧することが可能です? どういうことだ?」

 仕方無く他のヒットしたホームページも見ていくが、どれもクリックした途端にページは存在しませんと表示される。
 
「情報統制がされている? だが、何のために?」

 考えられるのは治安問題。
 ああいうのが浅慮に暴力を振るえば治安の悪化は容易に想像がつく。
 そのことを伏せるために情報統制しているのだとしたら理解もできる。
 
「――だが、普通は公開するべき案件なんじゃないのか?」

 ――そう、普通なら犯罪者の氏名と名前をニュースなどで流すが……。

「そんなニュースを一度も見たことがないな」

 あくまでも、俺の記憶には探索者が犯罪を犯したというニュースを見た記憶がない。

「駄目だな。とりあえず、警察が来た時に冷静に対応できるよう、この気分が高揚しているのを何とかしないといけないな」

 視界内に表示されているスキルの項目を選ぶ。

 

 スキル

 ▽「ロリ王LV1」(+)
 ▽「JK交際LV1」(+)
 ▽「隠蔽LV10」
 ▽「#JWOR」
 ▽「ZH)N」
 ▽「解析LV10」(+)(●ON/OFF)
 ▽「限界突破LV10」(●ON/OFF)
 ▽「バーサクモードLV10」(●ON/OFF)
 ▽「危険察知LV1」(●ON/OFF)

 ▽所有ポイント 305
 
「助かった」

 さっきは、牛丼でブチ切れてスキルがパッシブスキルかどうか確認せずにレベルを上げてしまったので本当良かった。
 気持ちが高ぶったままだとどうしようと思ったところだ。



 ▽「限界突破LV10」(ON/●OFF)
 ▽「バーサクモードLV10」(ON/●OFF)



 とりあえず、二つに関してはOFFにしておけばいいだろう。
 それと念のためにスキルの内容をチェックしておくか。



 ▼「限界突破LV10」(ON/●OFF)

 一時的に、全ステータスの上限を引き上げることができる。
 接続時間   LV1 X5分
 上限引き上げ LV1 X20%

 ▼「バーサクモードLV10」(ON/●OFF)

 一時的に、痛みを感じなくなり興奮状態になる。



「なるほど……、これは普段はOFFにしておかないといけないスキルだな……」

 俺はスキル項目を消す。
 すると外から声が聞こえてきた。



「葛木巡査長。これは――」
「ずいぶんと酷いものだな」

 ――ドンドン

「千葉東警察署の者です! 通報を受けて駆け付けたのですが! 山岸さん、いらっしゃいますか!」
「警察か……」

 もう少しステータスとスキルの考察をしていたかったが、そういうわけにもいかない。
 まずは対応をしないとな。

「――は、はい」

 俺は、慌てた声で答えながら玄関から外へと通じるドアを開く。
 外には警察官が2人立っている。
 癖で「解析LV10」で調べてしまう。



 名前 葛木(くずき) 尊(みこと)
 年齢 33歳
 身長 175センチ
 体重 62キログラム

 レベル1
 HP10/10
 MP10/10
 
 体力30(+)
 敏捷24(+)
 腕力33(+)
 魔力 0(+)
 幸運 4(+)
 魅力18(+)



 名前 山上(やまうえ) 正文(まさふみ)
 年齢 27歳
 身長 166センチ
 体重 57キログラム

 レベル1
 HP10/10
 MP10/10
 
 体力28(+)
 敏捷22(+)
 腕力29(+)
 魔力 0(+)
 幸運 7(+)
 魅力23(+)



「ご無事で何よりです。千葉東警察署の者です。葛木と言います。貴方が連絡をくれた山岸直人さんでよろしかったでしょうか?」
「はい」

 俺が頷く間、葛木という男が周囲を見渡していた。


「山上、すぐに応援を呼べ、壁に血痕がある」
「分かりました」

 葛木の言葉に山上という男が階段へと向かう。
 
「山岸さん、それで暴漢はどちらへ?」
「分かりません、窓ガラスが割られた時に警察へ電話をしたと言ったら逃げていきました」

 俺は頭を左右に振りながら答える。

「その時に、相手の顔などは?」
「いえ――、複数人だったのは話し声から分かったのですが……」
「そうですか……」

 俺に語りかけてくる葛木という警官に言葉を返しながら俺は俯く。
 相手は職務質問のプロ。
 職務質問をする警察官というのは、相手の表情で疾しいことをしていないかどうかをチェックすると緊急24時間警察密着テレビで見たことがある。
 
 ――と、言うかよく考えてみれば顔色だけで犯罪をしているかどうか、疾しいことをしているかどうかを見極めるとか警察官というのはすごいな。
 俺の解析スキルだって、相手が疾しいことをしているか嘘をついているかどうか分からないというのに。

「山岸さん、現場を検証したあと署でお話をお伺いしたいのですがよろしいですかな?」
「……はい」

 葛木という男性の言葉に俺は頷くことしかできない。

 

 

「【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く