青い空の下の草原にスライムの僕は今日もいる

野良スライムの人

5話 見守る者達

 丘の上からライムグリーンのスライムを見つめているのは四体の桃色、オレンジ、パープル、渋いウグイス色の大型スライム達だった。みんな基本丸っこい体形だが微妙にそれぞれ形が異なっている。

「ボク達の所にいたチビ達が、一部この東の草原にそれぞれ移動して集まって来ていたのは、やっぱり」
「ああ。新しいスライムが島にやって来るって事だったんだな。おまえ達が来た時もそうだったさ」

「あの緑の人が、この草原の受け持ちになるのね」
「最後に残っていた草原だ。これで」

「この島のすべての草原に大型スライムが現れたな」


 並んだ大型スライムの中心にいる、全身がウグイス色で、そして迷彩模様の入っている一際大きな栗の形のスライムがつぶやいた。
「ここは…… オレ達の島の草原の中でも、向こう側と一番距離が近いが」

「あっちの向こう岸の人間と新入りの彼が、いきなり接触してしまう可能性があるわね」
 桃色のスライムが彼のつぶやきに、不安そうに答えた。

「ここに召還されて、最後の草原に配置された人だ、それなりの意味があるんだと思うよ」
 派手なパープル色をしているスライムが、桃色スライムに言った。

「ほら。珍しく彼女も来ている」

 オレンジのスライムが、自分達のいる丘の横の険しい崖の上を見やった。その崖は優に百メートル以上の高さがあり、そのてっぺんの上から、さらに奥に何千メートル級の、頂に雪を被っている山々が連なって見えていた。

 オレンジのスライムの見ている方に、みんな視線を向けたが、そこに何者の姿も無かった。
「この島のマスター」

 迷彩スライムがまた小さくつぶやいて、すぐに草原のグリーンスライムに目を戻した。
「……」
 厳しい射貫くような鋭い目線でジーッと見続けていたが、グリーンスライムがチビ達に連れられて、草原の中にゆっくりと進み出したのを確かめると、その場所から離れようとした。

「まだこの丘も、あの崖も山も草原以外のこちらの物は、ほとんどが彼には見えないだろう。ゆっくりとここの世界に慣れてくれればいい」

「そうだな。オレ達もそうだったしね」
 オレンジスライムが頷いて、桃色のスライムは少し心配そうに心残りな目つきだったが、自分も迷彩スライムについて行った。

「じゃ。時々様子を見に来よう!」

「ああ。じゃっ」

 フッとパープル、オレンジのスライムが姿を消した。

 迷彩スライムは、丘の上から草原の反対の方へ今度は視線を向けていた。
「この島の火山の活動が活発になって来て、じき、ここに人間達が渡って来るかもしれん」

 小高い丘はこの島の巨大な火山が大昔に作り上げた、カルデラの外側にある盛り上がった所だった。

 丘は長城のようにぐるりと繋がっていて、その内側にまた広大なカルデラの外壁がそびえて立っている。
「ジェイ。人間が上陸して来るの? この島に」

 桃色スライムが尋ねて、迷彩スライム。ジェイが考えていた。
「人間の建てたホコラやかっての遺跡があるからな。島のこちら側の草原には…… 今までにだって数年に一度はやって来ていた。モモ」
「はいっ」

「心配ならおまえが、……ついていてやれ。だが、基本緑の彼の思うままにやらせろ」
「分かったわ。ジェイ」

「俺達は各々の持ち場に専念。あれこれ他のスライムの持ち場には干渉しない。これがこの島での大型スライム同士の取り決めだからな。それと手助けのつもりが、自分でやれるはずの事までに及んで余計なおせっかいにならないよう。じゃあな」

 迷彩模様のジェイと呼ばれたスライムも、フッと消えていなくなった。
 桃色スライムのモモは、また崖の上を見たが、ジェイがマスターと呼んだ者の気配もすでに無かった。

「すべてはこの島のマスター。彼女の思し召し……」

「ふふっ。でも新入りの彼はこの世界になじむのが早そうね」

 モモはそれからしばらくグリーンスライム達を見守っていたが、一匹の大型スライムとたくさんのチビスライムが、しっかりと打ち解けているのを見て、静かに自分も消えていった。

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