普通な俺が魔王でいいのだろうか?

九夜空猫

第4話 ニート魔王の戦闘準備

「魔王様、ヘルウルフと戦ってください」
そんなメリスのお願いに俺は……、

「いやだ。絶対に嫌だ!
だって、戦ったら俺死ぬじゃん!
あんな魔界最強の魔獣なんか相手にどうしろと!?
そんなに、俺が殺されるのが見たいのかよ!」

無理、絶対無理。
せっかく、異世界に来たのに、すぐに
殺されるなんて異世界に来た意味がない。

「なにをおっしゃいますか。
魔王様がたかが魔界最強の魔獣であるヘルウルフごときに負けるはずがないでしょう」

「いや、負けるから! 瞬殺だから!」

俺は喧嘩がすごく苦手だ。
そもそも、喧嘩をしたことすらないかもしれない。
そんな、超平和主義者の俺がヘルウルフなんて言うやばい名前を持つやつと戦えるはずがない。
「魔王様、先代の魔王様からお聞きになっていませんか?
先代の魔王様も元いた魔王様たちの世界では戦えなかったそうですが、
こちらの世界に来た時はすごいお強かったんですよ?
だから、魔王様も少なくとも先代様と同じぐらいには戦えるはずです」

「そういえば、確かに父さんもそんなこと言ってたかも。
俺、なんか戦える気がしてきた!」
そっか、そういうことなら、この力を1度試してみたい。
どれぐらいか分からない、今の自分の強さを戦って確かめてみたい。
「左様にございますか。 
それでは、戦う準備を整えて行きたいと思います。
着物に関しては今大魔王様が着ていらっしゃるそちらでよろしいかと。
その漆黒のローブは強い魔力が篭っており、
具体的には、全属性の魔法の力を魔王様が使う際に威力を増大させ、さらに精密な魔力操作をできるようになります。
耐性のほうも全属性の魔法の威力をほとんど、減少させ、さらに、物理的な攻撃に関しても高い耐久力を持っています。
まさに、魔界最強のローブと呼ぶにふさわしい逸品です」
そ、そんなにすごかったのか、このローブ。
それにしても、魔力操作まで精密にできるのはありがたい。
今まで、使ってこなかった魔力をいきなり扱って暴走でもしたら大変だしね。


「では、次は武器ですね。
武器は魔王様がお選びになったほうがよろしいかと」
「選べるの?」
「はい、宝物庫にあるものの中から魔王様がお好きなものをおひとつ」

そうなのか……。
めちゃくちゃワクワクしてきた!

***


そして、俺とメリスは武器庫に来て、
「魔王様、どれになさいますか?」
「うーん、悩むなあ」
やはり、剣がいいのだろうか。
これなんか、すごい力をひしひしと感じるし。
でもなあ、なんか、しっくりと来ない。

そんなとき、俺はあるものが視界に止まった。
あれ、これなら……、

「メリス、これはどうかな?」
そうして、俺が選んだのは、
大きな鎌だった。
刃の部分は深い紫色で、柄の部分は金と銀で編んだように見える。
普段ゲームをやるときは使わない鎌。
なぜ、あえてこれを選んだのかと問われると俺には答えることは出来ない。
ただなんとなく、本当になんとなく、
こいつが呼んでいる気がしたのだ。
俺を使ってみろ……、と。

「魔王様……、まさか、それは……
いえ、なんでもありません。
では、そちらの鎌をお使いになってください」
「うん、そうさせてもらうよ」

***

もう少しで、ヘルウルフとの戦いが始まる。
この世界どころか、前の世界での戦いというものを経験していない俺は本当に勝てるんだろうか……。
俺は緊張していた。
そして、今日の長いようで短いいくつものことがあった一日が走馬灯のように流れる。

その時、俺はあることに気づいた。
 
「メリス、そういえばなんだけどさ、
今まで聞き流しちゃってたけど、
メリスって俺が異世界から来たこと知ってるよね?」
そうなのだ、父さんの話では、
魔物達はみんな、
父さんのことを本当の魔王だと思っていると言っていた。
なら、俺と父さんが異世界から来たというのは普通なら知らないはずなのだ。
そんな、俺の問いにメリスは……、
「はい、先代の魔王様より、 聞いております。こことは別の世界のことを。
そこでは、こことは別の言語を喋る、多種多様な人族が暮らしていると」
そっか。
父さんから聞いていたのか。
あ、今メリスに言われて、気づいたけど、
ここの言葉日本語じゃないのに、俺ペラペラ喋っている。しかも聞いて理解もできている。
その事をメリスに伝えてみると、
「なんでも、先代の魔王様が言うには
《翻訳システム》というものが働いているそうです」
それはとてもありがたい。

それに俺が異世界から来たって知っている人(悪魔)がいてよかった。
これから、こっちの世界の常識はメリスに聞くことにしよう。

「あと、もう一つだけ気になっていたことがあるんだ。
メリス俺のこと魔王様って呼ぶでしょ? 
でも、まだ、魔王になりたての俺にはそれは恥ずかしいからさ、
俺のことは翼って呼んでくれないかな?」
「そんな、恐れ多いことはできません」
「恐れ多いって……。
うーん、じゃあ、命令するよ。
メリス、俺のことは翼と呼べ」
これが魔王の特権だ!

「命令なら従う他ありません。
でも、さすがに、呼び捨ては出来ませんので、翼様と呼ばせていただきますね」
うん、まあ、それならいいか。

「じゃあ、それでお願いするよ。
これから、色々と迷惑かけると思うけど、よろしくね! メリス!」
「はい、これからよろしくお願いします。
  翼様」

そう言って微笑んだメリスはすごく可愛らしかった。

「メリスって……、笑うとすごく可愛いんだね」
俺がそう言うと、彼女は、
「なっ!?」といって、顔を赤くして、俯いてしまった。
どうしたのかなと俺が困っていると、 
メリスは、
「い、今はそれよりもヘルウルフとの戦いへ急ぎましょう!」
と言って、部屋を出ていってしまった。

俺も急いでその後を追って、部屋を出た。

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