普通な俺が魔王でいいのだろうか?

九夜空猫

第1話 異世界転移


夕食後、父さんに書庫に来るように言われた。 
なんだろうなと軽い気持ちで書庫に行き、父さんに、開口一番こんなことを言われた。
「お前、魔王になってみる気は無いか?」

・・・・・・はい? 

今、少しだけ、俺の中の時間が止まった。
え、魔王? 魔王って、ドラ〇エとかに出てくるあのラスボスの事だよね? 
それになれってどゆこと? 

そんな俺の顔から父さんは察したのか、
「よくわからないって顔してるな。
まあ、そりゃ、そうだよな。
いきなりこんなこと言われたら、普通そなるわな。でもな、これは別にふざけてるわけじゃなく、真面目な話なんだよ。
じゃあ、もう一度聞くぞ? 
お前魔王になってみる気は無いか?」

うん。
とりあえず、状況を整理しよう。
まず、自分自身のことについて、一度振り返ってみよう。
俺の名前は藤沢つばさ。高校3年生。しかし、この間卒業したため、今は特になにもしていない状況である。就活しとけばよかったなあ……。ちなみに今は3月である。
そしてバイトなんかもやっていない。
で、父さん(43)と母さん(42)と俺の3人でこの家に暮らしている
・・・・・・うん、やっぱり整理してみたけど、おかしいだろ!? 
どう考えても魔王なんて物騒なものとは関わり合いのごく一般的な家庭だよな!?

俺は意を決して、父さんに尋ねてみることにした。
「あのさ、父さん……。魔王にならないかってどういうこと?」
父さんが頭をぶつけたのではないかと、
そろそろ俺も心配になってきたので聞いてみた。その問いに対し、父さんは……

「そのまんまの意味だぞ。俺の跡をついで、魔王になってみないかって事」

「いや、どう考えでおかしいだろ!?
ツッコミどころが既に2、3箇所はあるけど!?
まず、俺の跡を継いでってどういうこと!
父さん、普通のサラリーマンだよね!?」
「うん、まあ、サラリーマンが本業で魔王が副業ってことだな」
魔王ってそんな軽い役職だっけ……?
俺の中の魔王に対するイメージが壊れ始めている。

「まあ、この事についてはさ、父さんが今のお前と同じ、高校3年生ぐらいの時まで遡るんだがな。父さんが色々と黒魔術とかそんな感じのものを沢山集めているのはお前も知っているだろ?」
「あぁ、それは知っているけど……」
父さんの部屋にはこれ何に使うんだ……?
って思うような、怪しげな道具が沢山ある。
「父さんは、ああいう感じの道具を高校3年生のときに集め始めてな。
んで、その道具の中に異世界に行けるものが偶然あってさ、俺がそうとは知らず、間違って、使ってしまったんだよ。
それで、異世界でおれが着いた位置がちょうど魔物達が魔王を呼び出していた祭壇の上で、そんな時に俺が出てしまったから魔物達は俺が魔王だと勘違いしちまってな。
それで、魔王として、やって行くことになったんだよ」

なんか、壮大なような、しょうもないような不思議な話だなと俺は思った。
「それで、なんでその魔王の座を俺に譲ろうと思ったの?
だってさ、それって、父さんかなりの地位と権力があるじゃん。
それを俺に渡しても得しないでしょ?」
「それはだな・・・。
実はな、最近なんか勇者だとかが出ちまって魔王軍が手痛いダメージを負っちまったんだよ。
四天王のグロウのやつもやられちまったし。もう少しで、王国落とせるところまでいってたんだけどなー。
それでな、その勇者強そうだし、魔王城まで攻めてこられて、負けて俺がやられちまうのも嫌だから、この魔王の座をお前に譲ることにしたんだよ」

「へえ、だから、魔王の座を……

ちょっと待って?その話だと俺父さんの身代わりになるために魔王やれってことじゃん!」
俺が父さんをジト目で睨みつけると、
「ちっ、バレたか・・・」
「いや、バレたかじゃないよ!
何自分の息子を身代わりにしようとしてるの!?」
「つまり、お前は魔王になるってことでいいか?」
「なんで!?
今の話の流れでどうやったらそうなるの!?
絶対俺魔王にならないからね!」
俺は確固たる意思を持って父さんにそう言ってやった!

その俺の言葉に父さんは……
「魔王軍にはかなりのモンスターがいてな、その中には当然可愛いモンスターも沢山いる」
その言葉に俺は少し興味をひかれた。
「例えば、どんなの?」
「サキュバスに、魔女娘のやつに、人魚、さらに最近入ったエルフ族の娘もいるぞ」


うん、俺決めたわ。

「父さん!俺、魔王になるよ!」

魔王になることにしました。

「我が息子ながら、かなり単純だな……
まあ、やってくれるならいいけどよ。」
父さんがなにか言っていたが、その時の俺はそんなことを聞いちゃいなかった。
あぁ、魔王になるってことは、
サキュバスなんかを好きにしていいってことだよね!
それ、最高すぎる!
しかも、魔王になるなんて、俺の好きなライトノベルの世界とかでしか見ないよ!
しかし、そこで、俺は重要なことに気がついてしまった。
「なあ、父さん。魔王になるのはいいんだけどさ、俺、普通の人間だから、全然戦えないんだけど……」
「あぁ、そこら辺は大丈夫だ。
詳しい仕組みはわからんが、たぶんこのクリスタルのおかげで、あっちの世界に行くと相当強くなれるから。
俺が行っている時もそうだった。
普通に魔王やっててもおかしくないレベルまで強くなれる」
・・・・・・マジですか。
魔王チートで異世界に行けるなんて、最高じゃん!
「あと、気になることがもう一つだけあるんだけど、あっち行ってもいつでもこっちに戻ってこれるの?」
そう、そこがかなり重要なことなのだ。
俺だって、こっちの世界でやり残したことは沢山ある。
それを全て残して異世界に行くのは……。
「その点も大丈夫だ。この異世界に行けるクリスタルがあればいつでも帰ってくることが出来る。このクリスタルを持ったまま、行きたい、帰りたいって思うだけでいい。
それに時間の流れがはあっちとこっちとでは違うんだ。
俺も何度か言っているうちに気づいたんだが、あっちでの1日はこっちでの1時間ぐらいみたいだ」
なるほど、それなら、数日行ってもこっちでは、数時間しか経っていないってことか。
「でも、それって大丈夫なのか?
父さんがこっちに1時間いるだけで、あっちでは1日経ってるんだろ?
そんなに長い間魔王が不在だったりして、大丈夫なのか?」
「あぁ、それも大丈夫だ。
これも仕組みはよく分からないんだが、こっちに戻って来て、またあっちの世界に行くと、どんなにこっちで時間が経っていようと、あっちでは、前回あっちの世界からこっちの世界に来た時間からきっかり24時間しか経たないんだ。だからこそ、俺もサラリーマンと魔王の両方とも出来ていたわけだしな」
最高じゃないっすか……。
欠点がまるでない。
「よし、じゃあ、俺今すぐあっちに行くよ!」
「おぉ、行ってくれるのか!
あっちの俺の側近のやつには俺の息子が仕事引き継ぐって伝えてあるからな。
ほいっ!」
そう言って父さんが軽く投げてきたのは、
ゲームなんかで、よく見る透明なクリスタルであった。
光の当て方によって、色が赤や青、緑色に変わっているように見える。
大きさはだいたいおれの手にちょうど収まるぐらい。
「そのクリスタルを使えばすぐ行けるからな!
お前と一緒にお前のつけている持ち物なんかもそのままあっちに行くぞ」
そっか、まあ特に持っていきたいものは無いかな。
また、何か足りなかったらこっちに戻ってこればいいし。
「じゃ、特に持っていくものは無いし、
もう、行くよ」
「そうか、じゃあ、あっちの世界に行きたい。
って願いながら、そのクリスタルを握ってくれ。それで、あっちの世界へ行けるはずだ。俺も初めはそれかなりびびったわ・・・・・・。
異世界って簡単に行けるもんだったんだな」
よし、じゃあ、やってみるか。



早くその世界に行きたい!!!




すると、俺の体が輝き出した!

「あ、一つだけ言い忘れてた!
そのクリスタル絶対に無くしたり、
壊したりするんじゃないぞ!
もし、そんなことをしちまったら、お前がこっちに戻れなーーーーーーー」

その瞬間、父さんの声も聞こえなくなり、
俺は強い光に包まれながら、
この世界から消えた。


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