現在進行形で取り憑かれそうになっているオレ

水無月六佐

現在進行形で取り憑かれそうになっているオレ

「……」

 やべえ、すっげえ睨んできてるよ。やっべえなこれ。オレも睨み返してみようっと。


「……で、どうすんだよ」

 話しかけてきたよ! およそ10分程の硬直状態を物ともせず話しかけてきたよ!

「えーっと……状況を確認したいんだけど」

「はぁ? 状況も何もここで俺がお前の身体を乗っ取っておしまいじゃねーかよ」

「もう一声!」

「値切るノリで頼んでんじゃねーよ……ったく、しゃーねーなー」

 めんどくさそうにポリポリと首を掻いてはいるが、了承してくれた。案外こいつは優しいのかもしれない。

「えーっと、まずは場所だな、旧校舎の男子トイレの個室だ」

「洋式ね、洋式!」

「で、お前はその辺の好奇心旺盛な男子高校生だ」

「双子座ね、双子座!」

「……で、俺は幽霊、この高校の元生徒だ」

「顔怖いね! 顔!」

「さっきからやたらとうるせーなお前! 早いとこお前の身体を頂いちまってもいいんだぜ!?」

「さーせん!」

「ったくよぉ……10分間睨み合ってたけど話すのは今が初めてだろーが。少しは礼儀ってもんをよぉ……」

「それが大便中に突入してきた人の言うことですか」

 なんかこう、扉からぬぅっと出てきたと思ったらずっと俺の前に立っているんだよね。

「ほら、もう俺、人じゃねーし、礼儀ってもんは人と人の間で成り立つもんよ」

「今からオレの身体で人として生きていくんじゃないんっすかパイセン」

「パイセン言うな。……ったく、説明に戻るぞ。お前は今、大便後のチョースッキリした状態でーー」

「あ、もう少し出しまーす」

「出しまーすじゃねーよ、何平然と俺の前で出してんだよ。臭いが分からなくてよかったわ」

「ふっ! で、パイセン……ほっ! パイセンの、はっ! 死因は……くっ! 何すか? うっ!」

「気張るか話すかどっちかにしろや。……ってか、死因とか、言いたくねーし」

「恥ずかしい死に方なんっすね」

「ばっ、ちげーよ馬鹿!」

「じゃあ言ってみてくださいよ。『大便器で頭打って死亡』とかでもない限り、笑わないっすから」

「よし、お前速攻殺すわ」

 まさかの図星だった。出会ってから一番の笑顔のまま身体は震えている。

「なるほど、だから顔から血を流しているんすねー」

「……そうだよその通りだよ! とにかく、そんな恥ずかしい死に方をした俺とはおさらばして、お前の魂を抜き取ってお前の身体の中に入って第二の人生を始めたいって言ってんの!」

「可哀想っすねパイセン」

「同情はいらねーから身体よこせ、ってかもう待ってやんねえ。今からもらうからな!」

 そう言って俺の首に腕を伸ばすパイセン。魂が抜けていくのが何となく分かる。しかし、苦しさは感じない、寧ろ心地良さを感じるくらいだ。

「……あ、ちょっとタイム。まだ拭き取ってないっす」

「構うことかよ! 後で俺が拭くわ!」

「いやいや、それは駄目っすよ、パイセン。RPGとかで、物語が始まってからすぐにメニュー画面を見たら『勇者 状態:毒』とか嫌じゃないっすか。正常な状態から始めろよって話っすよ。それと同じように、今パイセンがオレの身体を乗っ取ったら『パイセン 状態:クソ』から第二の人生が始まるんっすよ!」

「なかなか嫌なスタートだがよ、ここでお前を逃がすよりはマシだよな」

 ニヤリと笑ってパイセンは腕の力を強めた。オレは……



 俺は目を覚ました。……よっしゃ! 成功だ! ……っと、まずはケツを拭かねーとな!

 俺の第二の人生のスタートだ! はい! 頑張りましょうねパイセン!

 ……ん? 今、アイツの声が聞こえたような……

 あー、オレの魂がちょっと残ったみたいっすね。まあ、パイセンと話すのは結構楽しかったんで結構嬉しいっす! これからよろしくっす! パイセン!

 ……マジかよ。


 その後俺はやりきれない気持ちに押しつぶされ、一時間程トイレに引きこもっていました。

 まさに糞みたいな始まりっすね!

 ……はあ。

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