しゃりしゃりさん【加筆修正版】
しゃりしゃりさん【加筆修正版】
「あっ! 待っててくれたんだ!」
「うん! おねえちゃんといっしょにかえるの、たのしいから!」
「えへへー、ありがとう! うれしいなぁ!」
「さっき、六年生、みんなかえってたから、おねえちゃんもかえっちゃったっておもった……」
「だーいじょうぶ大丈夫! ずうっと一緒に帰ってるんだから、君を置いて帰ったりしないよ! ……ごめんね、今日はちょっと、ね、用事があったんだよ」
「そうなんだ……」
「今度からは下足箱じゃなくてアタシの教室の前で待っててほしいな! ……まあ、もうそろそろ卒業するんだけどね」
「……さみしいよ、おねえちゃん」
「あはは! もう会えなくなるわけじゃないんだよ? 家も近いんだし、中学校も小学校と近いから、これからもいっぱい会えるよ。……もちろん、アタシも君と一緒に帰れなくなるのはさみしいけど」
「……うん」
「……それじゃ、かえろっか!」
「うん!」
「ねー、おねえちゃん! お日さまって、ここから見るとお月さまとおなじくらい大きいけど、ほんとうはお月さまよりすっごくすっごく大きいんだよ! 知ってた?」
「おおー! よく知ってたね! アタシはもう知ってたけど、一年生のときはそんな事全然知らなかったよ!」
「えへへ……」
「……あ、そうだ! 君、ちょっと前に『怖い話が聞きたい!』って言ってたよね! お礼にアタシが知ってる怖い話を教えてあげるよ!」
「ほんとに!? わあい! ありがとう!」
「……えーっと、しゃりしゃりさんって知ってる?」
「しゃりしゃりさん? ……ううん、しらない」
テケテケとか、こっくりさんとか口さけ女とか、すごいはやさでうごくおばあさんとかならしってる。おねえちゃんにおしえてもらったもん。……だけど、しゃりしゃりさん?
「ねえ、それってどんなの? こわいの? おしえて! おねえちゃん!」
おねえちゃんはいろんなことをしってる。ちきゅうが青いっていうことも、ちきゅうはお日さまのまわりをグルグルまわっていることも、ぼくがしらないこわいはなしも、おねえちゃんにいっぱい、いーっぱい、おしえてもらった。
「うん、すっごく怖いんだよ! 夕方より遅くに一人で外を歩いていると、『しゃりしゃり、しゃりしゃり……』っていう音が聞こえてくるんだ。そして、音がする方を見ると、そこには……」
「そ、そこには……?」
「目も耳もない、身体が大きな口だけで出来た化け物がいるんだ。何かを話そうとしているんだけど、しゃりしゃりさんの口の中には砂がたくさん入っていて、うまく話せないんだ。ずっと、『しゃりしゃり、しゃりしゃり……』って音がするだけなの!」
「そ、それで、しゃりしゃりさんにあったら、どうなるの?」
「……食べられちゃうんだよ。しゃりしゃりさんは、人を食べた後、すぐにその人を吐き出すんだ。そのときに、血で固まった砂の塊も一緒に出てくるんだ」
おねえちゃんのこえが小さくなる。……こわい。
「す、すなをだすために、人をたべちゃうの?」
「うん、そうだよ。だけど、砂は全部出てこないから、しゃりしゃりさんはもっともっと人をたべるんだ」
「……でも、ぼくは、おつかいのかえりになんかいも夕がたにあるいてたけど、しゃりしゃりさんにあったことないよ?」
「……忘れ物だよ」
「……え?」
「今までしゃりしゃりさんに食べられちゃった人は忘れ物をしてたんだって。……忘れ物をしたことを思い出して、取りに戻ろうとすると、会っちゃうんだよ」
「へえ! そうなんだぁ! ……あ!」
……わすれもの?
「んー? どうしたの?」
「しゅ、しゅくだい、わすれてきちゃった! ど、どうしよう!」
「んー、取りに戻らないといけないねー」
「で、でも、もう夕がただし、しゅくだいはあしたがっこうで……」
「こら! だめだよ! 宿題は家でしなくちゃいけないんだから!」
そ、そんなにおこらなくても……
「……大丈夫。アタシがついて行ってあげるから!」
いつものおねえちゃんもかわいいけど、わらってるおねえちゃんはもっとかわいい。
「ほ、ほんとう!? ありがとう! おねえちゃん! でも、もうすぐおねえちゃんのおうちなのに……」
「だって、 君がしゃりしゃりさんに食べられちゃうなんて、嫌だもん! もし、しゃりしゃりさんに会ったとしても、アタシが守ってあげるよ! ……じゃ、行こう?」
「うん!」
でも、おねえちゃん、なんでしゃりしゃりさんのことをそんなにしってるのかなぁ……?
「君の手、震えているよ? 怖いんだよね。……手、繋ごうか」
「え!? ……で、でも、恥ずかしいよぉ」
おねえちゃんと手をつなぐのも、ぼくのよわむしなところを見られるのも、恥ずかしい。
「だーいじょうぶ! アタシは気にしないから!」
「……ん、分かった」
……おねえちゃんの手、あたたかい。
……なんでおねえちゃんがそんなにしっているとか、どうでもいいや。
君ももう、中学を卒業かぁ、早いねぇ。……立派に育っちゃって。
友達も沢山いて、人気者の君。楽しそうに喋ってるなぁ……
「それじゃあな!」
ん、ここで皆とお別れかぁ。……さて、と。
「……あ! おねえちゃん!」
「お、今帰ってきたの?」
「うん、部活メンバーで打ち上げ。楽しかったよ! おねえちゃんも、バイト帰り?」
「うんっ! 今日も一生懸命働いたぞっと!」
「あはは、お疲れ様! ……あ、おねえちゃん! 卒業記念に二人で写真撮らない?」
「おっ、いいねぇ! 撮ろう撮ろう!」
「……あっ、やべっ!」
「……どうしたの?」
「スマホ、カラオケボックスに忘れちゃったよ……」
「はは、忘れん坊だなぁ、君は! 昔からそうだよね!」
「……えっと、おねえちゃん」
「分かってるよ。ついて行ってあげる!」
「えへへ、サンキュッ! おねえちゃん!」
……君の手、温かい。
「……ふふ、甘えん坊で怖がりだなぁ、君は」
「おねえちゃんの怖い話の所為だからね! ……特に、アレ、しゃりしゃりさんは怖かったなあ。会う条件とか死に方とかも詳しくて、なんかリアルだったし。僕の周りには知っている人が一人もいなかったから、会っている人は皆死んじゃったんだって思って、凄く怖かったよ。……まあ、そんなの、いるわけないんだけどね」
「あははー! そうだね!」
まあ、『しゃりしゃりさん』はアタシの作り話だからね。
……ねえ、君を思うからアタシはこうするんだよ。
アタシの事を見てほしいから君に面白い知識を与えた。
アタシの事を頼ってほしい。求めてほしい。だから、アタシを求めるように仕向ける話も作った。
可愛い君。君のことは、アタシが守るから。
だから、アタシから離れていかないでね。
……あと三年。三年経ったら、ずうっと、ずうっと、一緒にいようね。
アタシ、待ってるよ。
「うん! おねえちゃんといっしょにかえるの、たのしいから!」
「えへへー、ありがとう! うれしいなぁ!」
「さっき、六年生、みんなかえってたから、おねえちゃんもかえっちゃったっておもった……」
「だーいじょうぶ大丈夫! ずうっと一緒に帰ってるんだから、君を置いて帰ったりしないよ! ……ごめんね、今日はちょっと、ね、用事があったんだよ」
「そうなんだ……」
「今度からは下足箱じゃなくてアタシの教室の前で待っててほしいな! ……まあ、もうそろそろ卒業するんだけどね」
「……さみしいよ、おねえちゃん」
「あはは! もう会えなくなるわけじゃないんだよ? 家も近いんだし、中学校も小学校と近いから、これからもいっぱい会えるよ。……もちろん、アタシも君と一緒に帰れなくなるのはさみしいけど」
「……うん」
「……それじゃ、かえろっか!」
「うん!」
「ねー、おねえちゃん! お日さまって、ここから見るとお月さまとおなじくらい大きいけど、ほんとうはお月さまよりすっごくすっごく大きいんだよ! 知ってた?」
「おおー! よく知ってたね! アタシはもう知ってたけど、一年生のときはそんな事全然知らなかったよ!」
「えへへ……」
「……あ、そうだ! 君、ちょっと前に『怖い話が聞きたい!』って言ってたよね! お礼にアタシが知ってる怖い話を教えてあげるよ!」
「ほんとに!? わあい! ありがとう!」
「……えーっと、しゃりしゃりさんって知ってる?」
「しゃりしゃりさん? ……ううん、しらない」
テケテケとか、こっくりさんとか口さけ女とか、すごいはやさでうごくおばあさんとかならしってる。おねえちゃんにおしえてもらったもん。……だけど、しゃりしゃりさん?
「ねえ、それってどんなの? こわいの? おしえて! おねえちゃん!」
おねえちゃんはいろんなことをしってる。ちきゅうが青いっていうことも、ちきゅうはお日さまのまわりをグルグルまわっていることも、ぼくがしらないこわいはなしも、おねえちゃんにいっぱい、いーっぱい、おしえてもらった。
「うん、すっごく怖いんだよ! 夕方より遅くに一人で外を歩いていると、『しゃりしゃり、しゃりしゃり……』っていう音が聞こえてくるんだ。そして、音がする方を見ると、そこには……」
「そ、そこには……?」
「目も耳もない、身体が大きな口だけで出来た化け物がいるんだ。何かを話そうとしているんだけど、しゃりしゃりさんの口の中には砂がたくさん入っていて、うまく話せないんだ。ずっと、『しゃりしゃり、しゃりしゃり……』って音がするだけなの!」
「そ、それで、しゃりしゃりさんにあったら、どうなるの?」
「……食べられちゃうんだよ。しゃりしゃりさんは、人を食べた後、すぐにその人を吐き出すんだ。そのときに、血で固まった砂の塊も一緒に出てくるんだ」
おねえちゃんのこえが小さくなる。……こわい。
「す、すなをだすために、人をたべちゃうの?」
「うん、そうだよ。だけど、砂は全部出てこないから、しゃりしゃりさんはもっともっと人をたべるんだ」
「……でも、ぼくは、おつかいのかえりになんかいも夕がたにあるいてたけど、しゃりしゃりさんにあったことないよ?」
「……忘れ物だよ」
「……え?」
「今までしゃりしゃりさんに食べられちゃった人は忘れ物をしてたんだって。……忘れ物をしたことを思い出して、取りに戻ろうとすると、会っちゃうんだよ」
「へえ! そうなんだぁ! ……あ!」
……わすれもの?
「んー? どうしたの?」
「しゅ、しゅくだい、わすれてきちゃった! ど、どうしよう!」
「んー、取りに戻らないといけないねー」
「で、でも、もう夕がただし、しゅくだいはあしたがっこうで……」
「こら! だめだよ! 宿題は家でしなくちゃいけないんだから!」
そ、そんなにおこらなくても……
「……大丈夫。アタシがついて行ってあげるから!」
いつものおねえちゃんもかわいいけど、わらってるおねえちゃんはもっとかわいい。
「ほ、ほんとう!? ありがとう! おねえちゃん! でも、もうすぐおねえちゃんのおうちなのに……」
「だって、 君がしゃりしゃりさんに食べられちゃうなんて、嫌だもん! もし、しゃりしゃりさんに会ったとしても、アタシが守ってあげるよ! ……じゃ、行こう?」
「うん!」
でも、おねえちゃん、なんでしゃりしゃりさんのことをそんなにしってるのかなぁ……?
「君の手、震えているよ? 怖いんだよね。……手、繋ごうか」
「え!? ……で、でも、恥ずかしいよぉ」
おねえちゃんと手をつなぐのも、ぼくのよわむしなところを見られるのも、恥ずかしい。
「だーいじょうぶ! アタシは気にしないから!」
「……ん、分かった」
……おねえちゃんの手、あたたかい。
……なんでおねえちゃんがそんなにしっているとか、どうでもいいや。
君ももう、中学を卒業かぁ、早いねぇ。……立派に育っちゃって。
友達も沢山いて、人気者の君。楽しそうに喋ってるなぁ……
「それじゃあな!」
ん、ここで皆とお別れかぁ。……さて、と。
「……あ! おねえちゃん!」
「お、今帰ってきたの?」
「うん、部活メンバーで打ち上げ。楽しかったよ! おねえちゃんも、バイト帰り?」
「うんっ! 今日も一生懸命働いたぞっと!」
「あはは、お疲れ様! ……あ、おねえちゃん! 卒業記念に二人で写真撮らない?」
「おっ、いいねぇ! 撮ろう撮ろう!」
「……あっ、やべっ!」
「……どうしたの?」
「スマホ、カラオケボックスに忘れちゃったよ……」
「はは、忘れん坊だなぁ、君は! 昔からそうだよね!」
「……えっと、おねえちゃん」
「分かってるよ。ついて行ってあげる!」
「えへへ、サンキュッ! おねえちゃん!」
……君の手、温かい。
「……ふふ、甘えん坊で怖がりだなぁ、君は」
「おねえちゃんの怖い話の所為だからね! ……特に、アレ、しゃりしゃりさんは怖かったなあ。会う条件とか死に方とかも詳しくて、なんかリアルだったし。僕の周りには知っている人が一人もいなかったから、会っている人は皆死んじゃったんだって思って、凄く怖かったよ。……まあ、そんなの、いるわけないんだけどね」
「あははー! そうだね!」
まあ、『しゃりしゃりさん』はアタシの作り話だからね。
……ねえ、君を思うからアタシはこうするんだよ。
アタシの事を見てほしいから君に面白い知識を与えた。
アタシの事を頼ってほしい。求めてほしい。だから、アタシを求めるように仕向ける話も作った。
可愛い君。君のことは、アタシが守るから。
だから、アタシから離れていかないでね。
……あと三年。三年経ったら、ずうっと、ずうっと、一緒にいようね。
アタシ、待ってるよ。
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