先輩の、大きな継ぎ目と隠し事

水無月六佐

先輩の、大きな継ぎ目と隠し事

 僕が所属しているボランティア部は部員三名、その内一人は不登校児の幽霊部員であるという、極めてギリギリの状態で成り立っている部活である。


 活動内容は、校内外の清掃、土日に街で行われているイベントの手伝いに稀に行ったりとか、まあ、そんなところだ。……あ、そうそう、何でも屋みたいな事もやっていたりする。と、いうか、それが主な活動である。 


 部室の扉の前で深呼吸をする。今日は先生への質問のため職員室に寄っていて、遅くなったわけだが、先輩、怒ってないだろうか。怒ると怖いんだよな、あの人……『わざわざ職員室に行ってまで質問しなくていいだろ』って人だし……


「はあ? なでなでしてほしいだぁ? ……しゃあねーな、ほら」


 先輩の声がする……うん? なでなで?


「あ、ありがとうございましたぁー! キャーッ!」


「おわっ!」


 部室から出てきた女子生徒にぶつかる。……まさかダッシュで出てくるとは思わなかった。


「あ、すみません……」


「あ、ううん! 私こそごめんね! それじゃ!」


 また全速力で走っていった……何だったんだろう?」


「はあぁッ!? なでなでさせてほしいだぁ!? ふざけんな! なんでアタシが自分の頭を撫でさせなきゃいけないんだよ! それにお前、男じゃねえかよ!」


「それなら、おれの頭を撫でてくだ」


「うっせー! ウチはそういう部活じゃねえんだよ! そんないかがわしいことができるかぁ! っていうかお前、彼女居るだろうが!」


「いや、アイツは彼女ではなくて一方的に……」


「言い訳無用! 出てけぇー!」


「はーい! すみませんでしたぁぁぁぁぁ!」


 またダッシュで出ていったが、今度はちゃんと避けたぞ!


 たしかあの人はこの学校で一、二を争うほど有名な、成績優秀者の先輩だよな。……センター試験ももうすぐなのに、大丈夫なんだろうか。ってか、先輩、上級生にもあの態度なんだよなぁ。いつか喧嘩とかにならなければいいけれど……あ、彼女らしき人に捕まってる。……顔真っ青だなぁ。……寒さの所為かな、うん。雪も降り始めているし……


「お、なんだよ、来てたなら言えよー! ……どうせお前の事だから、質問にでも行ってたんだろ?」


 寒いといえば、先輩、最近元気だな……夏はすっごいだらけていたのに。


「ええ、まあ……」


 よかった、怒られはしないようだ。……とりあえず、席に座ろう。


「……全く、お前はもう」


 ……ため息を吐いてはいるが。


「あ、そういえば先輩、どうしたんですか? なでなでがどうこう言っていましたけど」


「ああ、それなんだがな、最近流行ってるゲームの影響でさ、頭を撫でられたい女子とか、頭を撫でたい男子が増えてるみたいなんだよ。……お前もCMか何かで一度は観たことがあるゲームだと思うけど。……ってか、やってそうだけど」


「ええ、もちろん知っていますし、やっていますよ」


 当然だ。可愛い女の子が出るゲームは一通りやっておかねばならない。アクションやRPGならば尚更だ。ファンタジーな世界の女の子とか、最高だもんなぁ……


「やっぱそうか……お前だもんな」


 その言い方は少し気になるが、事実なので仕方あるまい。


「……それで、撫でてほしいとか、撫でさせてほしいってお願いされていたんですか」


 先輩は美人だからなぁ……気持ちはわかる。


「ああ、そうだ。……ったく、ウチをなんだと思ってるんだ」


「雑用係兼気軽に頼み事ができる集団、ですかね。二人ですけど」


「で、お前はどうなんだ? そういうの、やってみたかったり、やられたかったりすんのか?」


 無視されたー。……まあ、返事を求めていなかっただけなのだろうけど。


「……どうですかねー。相手にもよりますよ。そりゃ」


「ああ、そうか、そうだな。……うーん」


 何やら考え込んでいる様子の先輩。……綺麗だな。真正面から見ていると、なんだか照れくさくなって目を逸らしたくなるほど、綺麗だ。


 艶やかな黒髪、初対面だと気を遣ってしまいそうになるほど青白い肌、小顔で顔のバランスも絶妙で、特にそのパッチリとした大きな目……少しだけツリ目なところが先輩の性格にうまくマッチしている。


 まさに完璧な美少女なのだが、初対面の時から一つ、気になっていることがある。


 先輩の額の、傷跡だ。いや、正確に言うと、傷跡というよりは、継ぎ目だ。顔面と頭部を繋ぐ継ぎ目……フランケンシュタインの怪物のような。


 何があったのかは、未だに聞けていない。あんなに目立つところにあんなに大きな継ぎ目があるんだ。先輩も気にしているだろう。……話していいようなことなら、もうとっくに話しているはずだと思うし。


「お? なんだ? アタシの顔をジロジロ見て? ……! ひょっとして! アタシの頭を撫でたいのか!?」


「へ? いや、その……」


 そんなことは一言も言っていない。


「……アタシの頭は絶対撫でるなッ!! ズレちま……いや、何でもない。とにかく、撫でちゃだめだッ!!」


 ……ん? ズレ? ……え? ズレるの? ……頭が!?


「い、いや、心配しなくても大丈夫ですから、撫でませんから! 先輩、撫でられるの、嫌そうでしたし」


「そ、そうか、それならいいんだ。うん……」


 先輩は笑っていたが、口元が歪んでいた。……何か気に障ることでも言ってしまったか?
























 冗談なのに……冗談なのに……本当は撫でてもいいのに……別に、撫でられたくらいじゃズレないし。


 ほら、お前がアタシの額をずっと見てたからさ、笑わせようと冗談を言ってみただけなんだよ! うー……


 だいたいお前! 職員室に質問しに行ってるけど! アタシに聞けばいいだろ! ってか、前に言っただろ! 『わざわざ職員室に行ってまで質問しなくていいだろ』って! アタシがいるんだから! アタシに聞いてくれよ! アタシを頼ってくれよ!


 それにお前、いっつもいっつも女の子女の子言ってるけどな、お前好みのファンタジーな女、目の前にいるだろうが! 正真正銘のファンタジーな女の子だよアタシは!!


 ……はあ、心の中では好き勝手に言えるのに、口では何にも言えないんだもんな、アタシ。


 いつか、言えるかな? お前が好きだってことも、この、額の継ぎ目のことも、アタシの、ことも……


 お前は、受け入れて、くれるの、かな……


 クリスマスデートに大晦日デートにお正月デート……行きたいなぁ。

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