デンジャラス・ゲーム

水無月六佐

デンジャラス・ゲーム

「やった! 倒れた! 今ならいけるよッ!ジン君ッ!」 


「はあああぁぁッ!」


 思いきり叫びながら、オレは化け物に剣を突き刺す。こうすると力が入るんだ。


 化け物は短く叫び、もう二度と動かなくなる。


「……やったね! ジン君!」


「ああ」


 犬のような顔をした2メートル程の人型の化け物、まあ、所謂いわゆる『コボルト』と呼ばれるクリーチャー、のボスである『キングコボルト』、の死骸から目を離す事なく、オレは返事をした。


「いやぁ、強かったねぇ、『今回の』キングコボルトは!」


 おそらく満面の笑みで、おそらく女の子走りをしながらこちらに駆け寄ってきているであろう少女に目を向ける事もせずに、尚も俺は『キングコボルト』の死骸を見つめている。


「ああ」


 オレは短く答える。


 少女に目を向ける事をしないのではない、少女に目を向ける事が出来ないのだ。


 ならば一旦目を閉じよう。するとどうだろう、先程の激闘が、まるで色あせる事なく鮮明な映像として俺の眼の前に広がる。


「強かった」


 満足、できた。


「ははッ! 久しぶりに『大満足!』って感じ? ……うん、さっきのキングコボルトの行動パターンは全く読めなかったもんね」


 目を開けると、視界一面に美少女の顔が広がる。


 金髪のショートヘア、パッチリとした大きな碧眼で、童顔の美少女。人懐っこい笑みを浮かべながら、俺の顔を覗き込んでいる。


「ああ。今回のは楽しかったな。……さ、素材を拾って帰ろう。千早ちはや


「うん! ……あ! やった! 玉ゲットッ!」


 千早がキングコボルトの死骸に触れると、それは光る立方体に姿を変え、千早の手の中に吸収された。


「そうか、よかったな! これで杖を進化させられる」


 千早の杖、『アクレピオスの杖』を進化させる為に必要な素材は、『合成獣神ゴッドキメラ命玉めいだま×5、凍炎龍神とうえんりゅうじん命玉めいだま×4、闘鬼神とうきじんの杯×1、犬人王けんじんおうの命玉×4』であった。


 この杖の進化素材の中では、キングコボルトがドロップする素材、『犬人王の命玉』の入手難度は一番低い。『簡単過ぎて面白くない』という理由で後回しにしていたのだが、まさか最後にここまで楽しませてもらえるとは思わなかった。


「うん! ……あ、でも、もうこんな時間だから、進化させたらボクはもうオチるね!」


 『オチる』というのはログアウトと同義語で、チャットやオンラインゲームから抜けるときに使う言葉である。


 そう、この世界はオンラインゲーム、それも、VRMMO、仮想現実大規模大人数オンラインゲームの世界だ。


「ああ、そうだな。……オレもそろそろオチるか」


♦︎


「またよろしくな!」


 加工屋の店主の威勢のいい声が辺りに響く。


「えっへへー! どーお? ジン君!」


「ああ、似合ってるぞ」


 進化した杖『人理崩壊の杖』を装備して、クルクルと回転する千早にありふれた世辞を言う。オレは千早のパラメータしか見ていないので、こんな事しか言えない。


 ……直視してしまうと、惚れてしまいそうだからな。


 ……しかし、この杖、こんな名前なのに、回復量とかすっごい上がるんだな。


「……! おい! あの杖!」


「……ああ、すげえな、『人理崩壊の杖』だろ? 実際に見たのは初めてだ」


「ま、待って! あののローブ、『ゼウスのローブ』じゃない!?」


「え、あれは『雷神のローブ』……じゃねえッ! 本当だ! あの子、ゼウス装備じゃねえか!」


「おいおいおい……男の方も見ろよ! アレ、よく見たら凍炎龍神装備だぜ!? 剣も『鬼神エクスカリバー』だ!」


「は!? アレは龍神装備じゃ……うわ! 本当だ! 凍炎龍神装備じゃねえか!」


「『鬼神エクスカリバー』とか、存在するんだな! 『エクスカリバー』でさえ、珍しいのによ!」


「あ、やべえ……おーい、千早」


 加工屋の店前ではしゃぎ過ぎたせいで、種族様々な他のプレイヤー達の注目を受けている。 ……クソ、流石に凝視されたらバレるか。


「え、どうしたの? ……あ」


 オレが呼びかけると、千早も気づいたのか、顔を真っ赤にしてその場に縮こまってしまった。……さっきはあんなにはしゃいでたのにな。


「なあ、もしかして、あの二人……よく噂とかで聞く伝説の……」


「わっかんねえ! けど、そうなんじゃねえか!?」


「ね、ねえッ! 誰か話しかけてきてよ!」


「いや、でもよぉ……!」


「はあ、ここも駄目だな……さ、移動しよう」


「うん、ごめんね? ジン君」


「気にするな」


「わわッ!?」


 オレは千早を抱え上げる。所謂『お姫様抱っこ』というヤツだ。……って! やめろ! 歓声とか上げなくていい! そんなつもりじゃない!


「跳ぶぞ」


 オレは脚に力を集中させ軽く屈伸し、膝を伸ばし力を地面へと放って跳躍した。




♦︎♦︎


「本当に、ごめん、ジン君……」


「いいって。それくらい嬉しかったんだろ?」


「うん……けど。あの街には家も建てたのに」


 三分間の跳躍ののち、地面へと降り立った。千早は跳躍中も降り立った後もずっとこの調子で、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「……いや、ほら、そろそろあの街ともオサラバしようかなとは思っていたんだ。素材も集まったし。……ほら、そういう事だし、ちょうどよかったんだよ」


 正直に言うと、あの街はオレ好みの静かで良い街だった。だが、今はもう違う。だから、これでいいんだ。


「……えへへ、ありがとう! ……でも、これで6回目の拠点移動だね」


「ああ、やっぱり、こんな装備をしていると目立つのは仕方ない。このゲームは色々と配慮してくれてはいるが、やっぱり、バレるときはバレるなぁ……」


「そうだね……うーん、やっぱりボク達、周りの人よりも強過ぎるんだね……」


 周りの人、どころか、どうやらこのゲームで10本の指に入るほどの強さだと噂されている。


「ああ、このゲーム、異常なくらいに俺達に合っているからな……」


 基本、4人パーティで大型モンスターに挑むこのゲームで、オレ達はコンビで、最速ペースでこのゲームを攻略してきた。


 学生の本分である学業も怠らずに、だ。


「……あ、そうだ。千早、そろそろオチないと。授業に支障をきたすだろ」


「あ! そうだね……」


 黙りこくって暗い顔をする千早。……やっぱり、まだ気にしてるのか。


「ほら、拠点探しは明日にしよう……じゃ、おやすみ」


「うん、おやすみ……」


「それじゃあ、また明日。まずは学校でな」


「うん……」


 オチるその瞬間、千早の顔が歪んでいた気がした。




♦︎♦︎♦︎




「おはよう。千早」


「うん……おはよう。……昨日は本当にごめんね」


 二年B組の窓際の隅に千早の机がある。ここでオレはいつも休み時間を潰している。


「だから気にするなって……新しい拠点、何処にする?」


 現実世界での千早も、ゲームでの千早とそんなに変わらない。変わるとすれば、髪色が黒い事くらいだ。


 この世界は、最早全く面白くない。この世界でもなるべくあのゲームの話をして、さっさと帰って、ゲームをしたい。


 いや、しなければならない。


♦︎♦︎♦︎♦︎


当村あたむら君、またあの子と喋ってる……」


「はあ、なんで当村君は、あんな女男おんなおとこと……」


伝仁でんじん君、あのゲームの話ばかりしてる……」


「じゃあほら! 当村君を誘ってこっちでゲーム……『AHO』だっけ? ……の、話をしようよ!」


「いやー、無駄だと思うよー? 実際にそれを実行した子がいるんだけど、『レベル差があり過ぎて話についていけなくて、つまらなそうな顔をしてた』って言ってたもん」


「えー!? じゃあ、あの子は当村君の話についていけるんだ? 根暗なクセに、ゲームだけはやり込んでるんだぁ。うわぁ……」


「ねー! 典型的なオタクって感じ〜」


 ボク、羅荵らにん 千早ちはやは、嫌われている。


 ボクは男の子なのに、ナヨナヨしているから。気持ち悪いから。それなのに、人気者のジン君と気安く話しているから。


 ジン君はゲームでも現実世界でも、イケメンだ。かっこいい。現実世界の黒髪も、ゲームでの銀髪も、すごく似合っている。


 ジン君は自分の女子人気の高さに気づいていない、というか、興味がないみたいだ。……ずっとゲームの話をしている。


「……あ、次の拠点は逆転の発想で、初めの拠点の近くにしない?」


 ……ゲームの話が出来れば、相手はボクじゃなくてもいいのかもしれない。


 けれど、ジン君の話について行けるのはボクだけだ。皆はジン君程のゲームの知識を持っていない。皆もあのゲームをやっているみたいだけど、ボク達程じゃない。ただのお遊びの延長としてあのゲームをやっているんだ。


 ボクにとって、あのゲームは人生そのものだ。こんな世界、どうでもいい。ここではボクは、ただの嫌われ者。だけど、あのゲームの世界では……『AHO』の世界ではボクは。


 ボクは、ジン君と肩を並べられる仲間なんだ。


 ボクは、可愛い女の子なんだ。


 ボクは、ジン君の……!


 ああ、早く、あの世界に……あの世界で……


 いきたい。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「あ! 当村君! 今帰りなの!? 私もなんだ!」


「ああ、そうなんだ……」


「あ、ワタシもワタシも!」


「って! こら! 伝仁君が困ってるでしょ! アタシも仲間に入れてー!」


「結局入るんかい!」


 アハアハとさぞかし楽しそうに笑うクラスメイト達。いつもオレの帰る時間に合わせているようだ。……何が楽しくて、こんな事を。


 本当は千早と一緒に帰りたいが、家の方向が全然違う。


「ほら、出たー! またいつもの当村ハーレムだぁー!」


「羨ましいぞ伝仁! この! このー!」


 同学年の男子に持て囃される。


「ははは……」


 こういったときは愛想笑いでその場を切り抜ける。


 羨ましい? 羨ましいのなら代わってやる。


 確かにこの女の子達は可愛いのだとは思う。いや、十分に美少女と称されてもいいくらいだし、『この学校、顔面偏差値凄まじいなー』とは思っている。


 しかしそれも、千早の可愛さには劣る。


 それに……




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




 VRMMO、『Appear Hide Online』


 通称『AHO』、一部の人間は『アホ』と呼んでいる、なんとも気が抜けるような略称だが、その実態は、現在、全世界で大流行中のオンラインゲームで、そのプレイ人口は実に世界人口の五分の四であると言われている。


 十年前、VRMMOの技術は飛躍的に発展した。新たなる超技術に世界中が湧いた。


 五年前には、酸素カプセルのようなVRMMO用の機械は一家に一台は置いてあると言われていた。


 一年前、ある程度熱が冷めてきたVRMMO業界に、衝撃が走った。


 『保凪村ほなぎむらゲームス』というマイナーゲームメーカーが開発した『Appear Hide Online』。発表当初は全く話題にも上がらなかったそのゲームは、PVや体験会を重ねる度に、熱狂的なファンを増やしていった。


 その圧倒的ヴィジュアル。現実のような質感、音質。


 人々は圧倒された。『ゲームはここまで来たのか』と。


 当初は人体への危険性が懸念されていた。事実、『AHO』までのVRMMOでは、人体的なトラブルが多々発生していたのだ。


 しかし、サービス開始から一年。そういった話は全く無かった。驚くべき事に、ずっとゲーム世界で暮らす事が出来るのだ。現実世界で物を食べなくても、ゲーム内で物を食べれば、何故か現実の人体も栄養を摂取した事になる。その仕組みは未だに解明されていないが、それでもここ一年、何も問題が起こらなかったのは事実だ。


 『AHO』では何でもできた。狩猟、ギャンブル、釣り、芸能活動、料理、建築……そう、人類は、第二の世界を手に入れたのだった。痛覚の無い、第二の世界を。


 VRMMO用の機械は、一家に一台どころか、一人に一台、所有している時代となった。


 『AHO』には大まかに二つの特徴がある。


 まず一つ目の例は、レベルが存在しない、という事だ。


 強いて言えば、プレイヤースキルの上達がレベルアップと呼べるものだろう。


 プレイヤースキルを上げて、強いモンスターを倒し、その素材で強い武器やアビリティを精製する。


 そして二つ目、最大の特徴は、『同種のモンスターに特有の行動が存在しない』という事だ。


 従来の狩猟ゲーム等を例に出すとしよう。例えば、大型モンスターに『デカイゴリラ』というモンスターがいたとする。武器や防具の生産や強化、進化には、モンスターがドロップする一定数の『素材』が必要となる。


 その為、プレイヤーが『デカイゴリラ装備』を作りたいと思ったのならば、何度も『デカイゴリラ』を倒さねばならなかった。


 『周回』と呼ばれるそれは、慣れてくるとパターン化され、プレイヤーのやる事も決まってくる。所詮、モンスターはプログラムなのだ。


 そうすると、飽きてくるプレイヤーが出てきた。ゲームに更なる刺激を求めるプレイヤーが現れた。


 『AHO』はそんなプレイヤーの欲求を満たす事が出来る。対峙する度に行動が違うモンスター。『デカイゴリラ』というモンスターがいたとしても、その行動パターンは決まっていないのだ。そのパターンは、一年経った今でも『無限大』であると言われている。


 初期は賛否両論分かれていたこのシステムだが、反対派の人々も次第に受け入れていった。


 これは余談ではあるが、『AHO』を開発した『保凪村ゲームス』も時折、世間の注目の的となる。


 今や日本屈指の大企業となった『保凪村ゲームス』の保凪村家の令嬢、保凪村ほなぎむら ゆうよわい十七歳が表に出る度に衝撃的な発言をするのだ。


 『自分以外の人間は一握りを除き総じてクズ』だという発言であったり、『ゲームをやっていれば戦争なんて起こらない』発言であったりと、例を挙げればキリが無いが、とにかく、爆弾発言連発であった。


 そんな保凪村 悠の最新の爆弾発言がこれである。


『このゲームは、わたくし一人だけで製作しました』


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 ああ、何を言っているんだあの令嬢は。


 世間に『悪役令嬢』とかいう渾名を付けられて遂に頭が沸いたのだろうか。とオレは思った。


 何が私一人で作っただ。


「どうしたの? ジン君?」


 昨日と同じように、千早がオレの顔を覗き込む。


 現在、新たな拠点を探して放浪の旅だ。……徒歩で。跳躍は面白みがなくなるのであまり使わない。


 初めの拠点の近くという千早の意見も気に入ったのだが、まだまだ世界は広い。もっともっと、遠くに行こうじゃないか。


「いや、ちょっとな……今朝のニュースを思い出して……例の令嬢の発言を」


「ああ、あの悪役令嬢さんかぁ……確かに、あの人は只者では無いオーラを醸し出してはいるけど、流石にアレは無理があるんじゃないかなと思ったよ。流石に、運営可哀想って思った」


「ま、そうだよな……」


「あ、そういえば、ジン君、最近話題になってるPKの事とか聞いた?」


 PK、つまり、プレイヤーがプレイヤーを殺す事である。


「ああ、聞いた聞いた。……特にメリットもデメリットもないんだけどな、アレ」


 強いて言えば、街へと強制送還されるくらいで、他人のアイテムは奪う事が出来ない。まあ、ダンジョン内でなら、宝の取り合いなどの要素が絡み、話は変わってくるのでそれは分かるし、それなら今までも行われてきた。


 だが、今回話題となっているのは街中でのPKである。


「うん、不思議だよねぇ……少し前に話題になってた『超大型モンスターの動きをたった一人で封じ込めて、そのモンスターに何かしていたっていう獣人の女の人』の噂も不思議だったけど、今回のはもっと怖いや……あッ!」


「……とッ! 雑魚敵か。……雑魚敵デカイな!」


 目の前に突然巨人が現れる。……これは、ゴーレムだろうか? 銀色の、ゴーレム? ……ああ、確かに輝いていながら何処か土の匂いがする。ここからでも十分臭う。


「ジン君、ここは任せて! 『滅閃バニッシュ』!」


 千早が光魔法を放つ。光放出型上級魔法『滅閃』は下級魔法が無く、下位互換に光放出型中級魔法『シュ』がある。……ああ、シュってなんだよシュって。と、この魔法を知った当初のオレは思った。流石のオレも『バニッシュ』の『シュ』だとは思わなかった。……上級魔法をここまでのスピードで詠唱し、放つ事が出来るのは、この世界でも数えられる程だろう。


 凄まじい熱を帯びた光の柱がゴーレムを包む。通常の雑魚敵ならばこれで消滅する程の強力な魔法だ。


「……ッ!? ジン君! まだこいつ、倒れてな」


「任せろ」


 と、言い終わった時にはゴーレムは既に真っ二つになっていた。


「わあ! 流石ジン君!」


「まあ、硬くても雑魚敵だ。雑魚敵」


 行動パターンが違っても、一撃二撃で終われば意味がない。


 歩いている途中で何度も何度も金銀鮮やかなゴーレムが現れるが、オレは瞬時に切り捨てる。


 千早の補助魔法と弱体化魔法が効いている。ゴーレムをまるで豆腐のようにスパッと切る事が出来るのは、楽しさと同時につまらなさも感じる。


 大型モンスターと戦いたい……アレは何度戦っても飽きがこない。ただ純粋に、楽しい。


「!?」


「ひゃッ!?」


 なんて考えていたら、地面に穴が空いた。


 オレたちは落ちて、


 そこにはボスがいた。


「え……いやいやいや……」


「初見殺し、ここに極まるって感じだね……!」


 そう、このゲーム。毎度的の行動パターンが変わったりもするが、ボスとの初見遭遇でも結構驚かされるのだ。


 ゲーム初めの方の洞窟にて何気なく宝箱を開けたら全裸のおっさん(クソ強いオーク)が入っているというイベントは、まだ新人であった全プレイヤーを恐怖を植えつけたトラウマとして余りにも有名である。今でも『12ちゃんねる』などで『アレは開発途中に公然わいせつ罪で捕まったスタッフだ』だのと、そういう根も葉もない噂が耐えない程人気も高いようだが。


 さて、ボスの話に戻ろう。


 こいつはオレ達が今まで見た事がないボスだ。その姿は一言で『スーパーロボット』と言えば、想像しやすいだろおわッ! ロケットパンチかよッ! すげえ! ……こほん、最近のロボットというよりは、昭和の香りを思い出す、超合金だとか勇者だとか、そういう単語を連想する感じの何だか硬そうなロ


「じ、ジンくーん!? 回復かけるね! 『天使癒ラファエ』!」


「う……サンキュー千早!」


 痛みは感じないとはいえ、無感というわけではない。少しクラクラとして視界が揺れる。


「ま、まさかロケットパンチが戻ってくるなんてな……油断してた」


 しかし、なかなか面白い。こんなロボットと戦うのは子供の頃の夢だった。……これをやるとすぐに終わる可能性もあるが、オレも久しぶりに全力でいこう。


「千早! アレやるぞ! 自動回復かけてくれ!」


「うん! わかった! 『癒天リラファ』!」


血沸けっぷ!」


 身体がボッと熱くなる。今なら光よりも早く動けるような感覚に、何でも破壊できるような錯覚に陥る。


 血沸は常に自分のHPが減り続ける代わりに全ステータスが急上昇するアビリティである。しかし、HPの減少率は千早の『癒天』と殆ど変わらない。いや、装備の強化で、回復量の方が上回っている。これにより、オレはデメリットがなく、これを使用可能となる。


「ッ!」
 一瞬の間もなくロボットに近づき
「でやぁッ!」


 一刀両断。


「……『モーセ』」


 技名を言い終わると、ロボットは綺麗に真っ二つに割れた。


「ふう、やっぱり、これを使うと呆気ないな……やっぱり封印だ、封印」


 血沸の解除まで後三十秒……身体が無駄に熱い。


「ひゃあああッ! じじじ、ジン君んんんんッ!」


「え、どうした……おわあああああああああッ!?」


 真っ二つになったロボットが切断面を上にして、クソでかい人間の生脚を生やし、まるでゴキブリのようにこちらに這ってきた。


「うわああああッ!」


「き、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃぃぃぃぃッ!」




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




「……と、まあ、大変だったんだぞ。なんだかんだで楽しかったけど。……次の拠点も決まったし」


「うん、知ってるよ。見てたし」


「あ、そう……」


 コンピュータで埋め尽くされた、眩しいほどに明るい部屋。


 オレはここで一人の少女と話している。図体だけはでかくて、精神は子供のままの幼馴染と。


「まったく、面白い仕掛けを考えてくれるよなぁ……お前は」


「えっへっへーッ! そうでしょーッ!? 好きだろうなーって思ってぇ! ……ジンちゃん、絶対にあの技を使うだろうなって思って、ギミックを用意しておいたんだぁ!」


 昔、オレは幼馴染の少女と狩猟ゲームをしていたときにこう言った。


「こうやって、モンスターの動きがパターン化すると、面白くないな……つまらない」


 普通は受け流されるであろうこのセリフを、幼馴染の少女は覚えていたんだ。


 幸か不幸か、オレの幼馴染は天才だった。それも尋常じゃない天才だ。天才にランク付けがあるとするならば文句無しに最上位だと言える程の。


 オレの為に、こいつは一人である一つのゲームを作った。


『Appear Hide Online』


 ……あのゲームの正体は、ある種の異世界転送なんだ。


 幼馴染のこいつは、手段は不明だが、異世界を見つけ出し、なんと、現実世界と繋げる事に成功したのだ。


 VRMMO用の機械をスキャン用に使い、スキャンによって得たコピーを異世界で実体化させる。そして、痛覚以外の感覚をコピーと共有させる。


 これが、『AHO』の真実。


 幼馴染の少女は、異世界をゲーム用のマップに変えてしまった。


 そこの原住民は、NPCへと変貌を遂げ、原生物はモンスターと呼称された。


 それだけでは飽き足らず、幼馴染の少女は、モンスターに対して改造を行ったのだ。


 そもそも、生物の行動というのは、パターン化されていて、当然なのだ。それが同種と言うのなら、尚更だ。同種の生物ならば、その行動が似通ってくるのは、当然だろう。


 一体一体、行動パターンが違う? ああ、それならば、改造を行ったのだろう。一体一体、違った行動をするように。


 それがどんな改造なのかは、幼馴染の話だけだと正確には想像できないが、あまり聞いていて気持ちのいい話ではなかったと断言できる。


 まあ、重要なのは、幼馴染が『一体一体違った行動をするモンスターを創り出した』という事実である。


 オレが望んだような、モンスターを。


 オレはこの話を初めて聞いた時、涙が止まらなかった。


 嬉しくて、嬉しくて嬉しくて嬉しくて。


「あ、今度、タウン戦っていうイベントを開催しようと思うんだぁ。大人数のプレイヤーが、街の防衛をするってイベントで、街の損壊度を競うイベントだよ! きっと楽しいよ!」


「ああ、そうか、それは楽しみだ。……ところで、悠」


 オレはわざと声を低くして、幼馴染の名前を呼んだ。


「ふぇ? ど、どうしたの?」


 身長183cm、オレよりも背の高い、緑髪の美女があからさまに動揺している。……これが演技ではないというのは、オレがよく知っている。


「何が、『わたくし一人だけで製作しました』だよ……言ってる事は正しいけど、オレがいなけりゃ、お前は作ったりしなかったんだろ? 『AHO』」


 オレの言葉を聞いて、身体を震わせて怯えていた悠が『にへぇ』とニヤつく。


「にぇへへぇ……! だって、そう言えばぁ、ジンちゃん、ヤキモチ焼いてくれるかなぁ……って、思ったんだぁ! にへへぇー! ゆーたん、嬉しいよぉ! ……ぎゅーッ!」


 フニャフニャの表情で、自分の喜びを語った後に、悠が抱きついてきた。


「はは、そうかそうか」


「にへへぇ! 今回のぎゅーは凄いんだよぉッ! 久しぶりだからぁ! ぎゅーぎゅーするんだぁ! ジンちゃんがぁ、『男だけど女』と仲良ししてるのを見せられたからぁ、ぎゅーぎゅーがぎゅーぎゅーなんだぁ!」


「大丈夫だって。オレはいつまでも悠一筋だから」


「うん! 知ってるぅ! にぇへへぇッ! 愛してるよぉ、ジンちゃん!」


 ……ああ、これだから、ゲームはやめられないんだ。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




 二人が世界の狭間はざまで愛を語らう。


 この瞬間のためだけに『AHO』は存在する。




 これは、彼と彼女が語らっている間に報道されたニュースである。


「本日未明、×県◯町の商店街にて、無差別殺人が行われました。犯人は駆けつけた警察に取り押さえられ、逮捕されました。犯人は『ゲームと同じように人を殺したかった』と、供述しています。……続いてのニュース……只今、速報が入りました。全国各地で無差別殺人が行われており、いずれの殺人も、『現実とゲームの区別がつかなくなった』犯人による犯行だとされています」


 二人が己が欲求を満たす為に作ったゲームが、他人の『隠れた本性を露わにさせ』破滅に導いた。


 彼と彼女にとってはどうでもいい事であった。


 しかし、彼女はこうなる事を予期していた。


 保凪村 悠は理解していた。VRMMOは人間の隠れた本性を露わにするという事を。


 いつか、このような事件が起こるという事を。


 全ては、彼女の掌の上で転がっていたのである。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


『VRMMOの影響による無差別殺人事件』が問題となり、一部の人々が『AHO』から離れていった。


 しかし、『AHO運営』は何時ものようにお知らせを配信していた。


『AHO運営より、大型アップデートのお知らせ』


 AHOプレイヤー全員に届いたメールには、ゲームのアップデート内容が。


 書かれていなかった。


 この日、世界人口のおよそ五分の四の人間が、消失した。









「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます。わたくしがこのゲームの開発者、保凪村 悠ですわ。皆様にお集まりいただきましたのは他でもない、今回の大型アップデートの詳細を説明する為です。……なーんちゃってッ! 説明なんてしません! ゆーちゃんはここに、宣言をしまぁすッ!」


 ざわつく民衆。いつの間にか『AHO』に『ログイン』していたプレイヤー達だ。中には、三、四日前に『AHO』から離れていった人々の姿も見られた。民衆の声は次第に収まっていき、開発者を名乗る様子のおかしい一人の美女に視線を浴びせていた。


「えー、只今よりー、ゆーちゃんとジンちゃんの、楽しい楽しい、ステキなステキな異世界生活が始まりまぁす! さあ! クズ共! お前らはもうログアウトは出来ません! ゆーちゃんの『下僕げぼく』になりましたぁ! さあ! さあさあさあさあさあッ! 精々頑張って、ゆーちゃんとジンちゃんの世界を賑やかにしてねぇ! 盛り上げてねぇッ!」


 『にぇへッ』と、猫耳を生やした緑髪の美女は短く笑った。

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