竜と女神と

水無月六佐

訪問する少女

「行ってきます!」
「行ってらっしゃい。……それにしても、今日は随分と早く出るのね」
「『随分と』って……いつもと二十分しか変わらないよ。お母さん」
「……あっ! 分かった! 燐斗君をお迎えに行くのでしょう?」
「……うん」
「ふふ、そんなに恥ずかしがらなくていいじゃないの。昔から仲が良いのですから分かりますよ。……ほんっとうにはるちゃんは燐斗君の事が」
 わぁーっ! わぁーっ!
「もー! そんな事一々言わなくていいよ! じゃあ、行ってきます!」
「あっ! 陽ちゃんちょっと待っていて!」
「今度は何……あ、行っちゃった」
 ……お母さん、ずっと女の子みたいだなぁ。同い年みたい。
 ……燐斗、驚くかなぁ。でも、今度燐斗の家に行くって言ったもんねー!
 ……あ、戻ってきた。
「……陽ちゃん! はい、これ!」
「……お菓子? こんなに沢山?」
「そうよ。……ほら、昨日の夜に御祖母様おばあさまが御旅行から帰っていらしたじゃない? 燐斗君にお土産ですって」
「燐斗、御祖母様のお気に入りだもんね……」
 日本舞踊をあんなに頑張ってようやく認めていただいた私と同じくらい可愛がられているし。
「ふふ、御祖母様ったら、陽ちゃんと燐斗君が結婚すればいいのにっていつも言っていらっしゃるのよ?」
 ……もーっ!
「行ってきます!」
「はーい、行ってらっしゃい! ……あ、またたまにはウチに遊びに来るように燐斗君に言っておいて! 御祖母様もきっと喜ぶわ」
「分かったぁ!」
 ……燐斗がウチの婿に、かぁ。
 きっとそうなるんだろうって、思ってた。お父様も、お母さんも、御祖母さまも、皆、燐斗の事を可愛がっているし、私も、その……好きだし。
 ……あの二人が。
 あの二人がいなかったら、ずっとそう思っていたんだろうなぁ。……あの二人がいなかったら。
 ……やめやめ! こんな事考えていてもしょうがないよ! いつか燐斗が言ってた『ヤンデレ』みたいじゃない!
「……ふぅ」
 緊張する。……何でだろう、この間までは何も思わなかったのに。
「…………」
『はーい』
 ……燐斗だ。
「……私だけど」
『……迎えに来てくれたのか。ちょっと早いような気もするけど、今開けるよ』
 驚かなかった。……まあ、こんな時間に呼び鈴が鳴ることって殆どないもんね。
「おはよう、ハル」
「……なんで頭だけ出してるの?」
「出来れば聞かないでほしいんだけど、それ……」
 ……もしかして、見られたくないものが中にある?
「それじゃ、御邪魔しまーっす!」
「へ!? ちょっ!」
 ふふ、焦ってる焦ってる。……あ、そうだ。
「はい、これ! 御祖母様からのお土産!」
「……え、あ、うん」
 ……よし! 侵入成功! ……? あれ? 今、後ろからも『よしっ』って声が聞こえてきた気が……
 ううん、今は気にしちゃダメ!
「まずはリビング! ……あ」
「あ、初めましてー。ルナですよー」
 ……綺麗。
 遠くから見ていた時だって、綺麗で可愛い子だと思っていたけど、正直、私が思っていた『綺麗』を軽々と超えてる。
「あ、う、うん、初めまして。私は倉科くらしな はる……です」
 近くで見ると、この子のオーラ、凄い……!
「ほほう、これはこれは。……よろしくです! 握手しましょう! 握手!」
 お、思っていたよりも人懐っこいというか、何というか……
「俺、トイレに行ってくる。ちょっと待っていてくれハル。……ルナ、一定の距離感を保ってくれよ」
「むー! 分かってますよー!」
 何でルナちゃんにそんな事言うんだろう? ……も、もしかして! 『ユリーカ』ではああ言っていたけど、本当は私とルナちゃんが友達になるのが嫌だ、とか?
「ね、ねえ、燐斗……」
「……えーっと、ハル」
 ……へ!? り、り、燐斗! 顔が近いってば!
「……黙っていたけど、ルナは女性に対しての肌の触れ合いが激しいから気をつけた方がいいぞ」
「……え」
 えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品