紅葉

Pman

プロローグの続き

まだ初期症状もなにも異常がないからって、無理をし過ぎている気がする。
でも、体力は徐々に落ちているし、食欲もあまりないみたいだ。
コンビニに行く、といったのは久しぶりすぎて、びっくりした。安心した。彼には、できるだけ元気でいてほしいから。最期まで。栄養をちゃんとってほしい。
「本当にそれだけなの?」
レジ袋から取り出した、一つの缶コーヒー。
「なんか、飲みたくなっちゃて」
彼は、はにかんで言った。隙間から見える歯が、その笑顔がかわいらしくて、幸せを感じた。
「じゃあ、私来る必要なかったじゃん」
「だから、来なくてもいいよ、みたいなの言ったじゃん」
「急にいうから、おっきいものでも買うのかと思って」
彼は、ありがとう、といって私の頭を触った。
「ちょっとやめてよ」
「別にいいじゃん。一口、いる?」
差し出された缶コーヒーに私は、頬を膨らませて、
「いる!」
半分くらい飲んでしまった。
「ごめん」
「もうこんなけかぁ。じゃあ、あれかってよ」
指さされたそこには、駅前の大通りでひっそりとやっている、ケバブ屋さんだった。
「今から食べるの?」
もうご飯前だよ、私がそう言うと、彼は、
「本当は、これが目当てだったんだ」
「わかったよ。二人分?」
「うん」
「じゃ、待ってて。買ってくる」
「わかった」


「はい」
「うおっ。ありがと。意外とおっきいね」
肉厚、肉汁たっぷりのそれを見て彼が言った。
「たべたことなかったの?」
「ここ一、二年は、ねー、なかったねえ。忙しかったし」
またコンビニ前の駐車場に戻ってきて、適当なところに座った。道路を越えた、反対側の、さっき行ったケバブ屋さんにお客さんが集まっている。五、六人の女子グループが、店員のお兄さんを囲んでいた。
「そうだね。サークルみんなで集まってわいわいしてたし」
「そっか。時が過ぎるのは早いね」
「あのさ、一つ言いたいことがあるんだけど」
「うん?何?」私は、熱いのを我慢して飲み込んだ。
「天文サークル、やめたいんだ」
彼はすでにテニスサークルを辞めていて、まあ、それは当然のことで、でも、天文サークルは、体を使わないから……。いろいろなことを考えたが、やはり、頭に浮かんだいろいろなことはすぐ消えて、
「そっか」
悲しげに同調することしか私には出来なかった。
「まだ、続けてほしかったな」
「うん。でも、あと少しだけ。あと少し」
その少しにとてつもなく重い意味が込められているようで、いや、実際に込められていて、徐々に私の瞳には涙がたまっていった。

















          

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