紅葉

Pman

パンケーキ「2」

そんな無駄話をしているだけで、一時間は経った。
「二名様でお待ちの横倉サマー」
「はい」
店員の指示に従って中に入ると、甘い匂いとごはん系の臭いが鼻腔をかすめた。良い匂いだった。やはり、女の子ばかりで、彼は少し委縮していた。店内の装飾も、ピンク系統が沢山使われており、彼にはあまり合わない様子だった。
二人掛けの席に相向かいの状態で座ると、彼がメニューを渡してくれた。
「結局、どれにするんだ?」
「横倉は、このホイップとチョコソースがかかったやつにするんだよね?ね?」
念押しで聞くと、
「よこせって言いたいんだろ。わかってるよ。なら、水野は、このハンバーグのロコモコパンケーキな」
逆に彼の好みを押し付けられて、私は何も言い返せなかった。


「はい、こちらロコモコとホイップチョコでーす」
量的には、二つを二人で分けて食べるぐらいがちょうどよく、このデザート系を一人で食べられるのは、真の女子だと勝手に私は思っている。
だいたいで、パンケーキを半分に切り分け、彼の皿に移した。
「いただきます」
二人で手を合わせ、私が食べ始めても、彼は中々食べ始めない。飲み込んで、どうしたの?と聞こうとすると、彼は持っていたナイフを机上に落とした。
「どうしたの?」
彼は、恐怖を顔に露わにした。
そして、恐る恐る、言い始めた。
「最近さ、自分の手が自分の感覚と合わなくなってきてさ。なんか、硬くなったっていうか、手があまり回らなかったりして」
「そっか」
私は、あまり深く考えていなった。手の酷使、それぐらいに考えていたし、そういう考えにしか今となっても至らなかったと思う。テニサーで、彼は忙しくしていたし、疲れていて力が入らなったりするというのはあると思う。それに、先ほどまで先輩に怒られたり、女子だけしかいない空間というのも極度の緊張に繋がるし、それがご飯を食べる、ということで緊張がほぐれたのなら大いにあると思う。しかし、それが彼の言っていた、「最近」にどこまでかかわっているか、に気づけばの話だが。
とにかく、その後、ナイフを変えてもらってから、彼は普通に食べれていたから、彼の言ったことなど、すぐに忘れていた。

          

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