男女比1:599

黒羊 鈴

第4話

そうここは地獄なんかじゃない。むしろ天国天国だったのだ。と頭の中のもう一人の自分がガッツポーズをしている。いかんいかん。
こんなことで喜んでしまったら。と俺は我に戻り前髪をかきあげて一言。
『今は恋人いないよ』
俺は15年間生きてきた中で過去最高に低い声で世にいうイケボというやつで言った。
『きゃぁー!かっこいい!連絡先交換しよ!』
馬鹿でよかった。中学生活3年間学年最下位の座を1度も譲らず頑張ったかいがあった。この学校に来てよかった。勝ち組だ。
俺は入学初日で高校生活の勝利を確信した。
『仕方ないなぁ、じゃあQRコーd』
ガラガラガラ
『おーい、席につけー。』
タイミング悪く担任が来てしまった。
『入学初日にスマホを使うとは何事だ!』
しまった、この学校ではスマホを使ってはいけないという校則があるらしい。
『誰だー?最初に出したやつは手を挙げろ』
あちゃー、、、いや待てよ?ここで俺があえて身代わりになり自首すればさらに好感度が...完璧だ。あ、あ、よし、イケボの準備はできた、
『あ、あの澤部先生!』
『なんだ?』
よし完璧な滑り出し。あとは正直に言うだ...
『こいつです先生』
後ろから予想もしてない声が聞こえた。女子にしては低い声の主は続けた。
『小坂 光君が連絡先を教えるためにLINEを開いてましたー』
『よし、分かった、小坂ちょっと来なさい』
そう担任に言われたがそれどころではない。誰だ。俺は後ろを振り返り声の主である犯人を探した。しかもあいつ俺の名前をなんで知ってるんだ。
『なに?文句ある?』
半笑いで俺に向かって言ってきた。いや俺はこいつの顔をどこかで見たことがある。
『やっほー久しぶり』
思い出した。中学2年生の時にクラスメイトだった志田ナナだ。しかも志田は当時俺をさんざんいじめてくれた憎いやつだ。毎日自分の残飯を嫌というほど食わされ宿題をやらせて荷物をもたされ...
『なんでお前が...』
『知らなかったの?私勉強できないの♡だからこの学校に来た。私以外にもう一人同じ中学から来ると聞いてたけどまさかあんたとはね』
笑い事ではない。天国だと思っていたこの空間がたった一人の女のせいで一瞬で地獄へ変わった。
『とりあえず行くぞ。』
俺は担任に首根っこを捕まれ職員室へ向かう。聞きたくもない志田の笑い声が廊下まで鳴り響いていた。

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