通りすがりの殺し屋

Leiren Storathijs

予測こそが最高の戦術だ

仲間になったハッカーは、俺にUSBメモリを渡すと、倉庫前にいる警察達に放送する。

「警察の諸君。騒ぎは収まったかな?僕は無事だ。恐らく何らかの原因でドラム缶の中に入ったガソリンに引火してしまったんだろう。それと、殺し屋はどうやら違う依頼に向かったようだ。だから今日中には来ないだろう。僕はこれから移動を始める。これより誰も僕の部屋に入らないように。見られたく無い物なんて、誰にだってあるだろう?」

放送を終えると、ハッカーはこちらを向く。

「そんなんで良いのか?」
「十分さ。この部屋が監視されている以上、時間稼ぎにしかならないけどね。じゃ、さっさと此処を脱出しよう。後全ての防犯カメラは停止させといた」

こうして俺らは倉庫の裏口から警察の警備を掻い潜り、安全な場所へ移動を開始した。

移動中、ハッカーは、手持ちのPCを開きずっと何かを操作していた。

「お前、中学生の癖に、暇な時間はずっとPCか?」
「聞き捨てならないな。僕の暇潰しは、凡ゆる人の銀行口座に侵入し、僕の口座に送る事だ」
「趣味でハッキングか……俺と似ているな」
「ふふ、成り行きで容赦なく人を殺す君には言われたく無いね。ところでさ、君の後ろに突っ立ている三人の子達は一体何なのかな?さっきから凄く目障りなんだけど……」
「おい餓鬼……誰か目障りだぁ?」
「ふふふ、年下だからって舐めない方が良いよ?君達が殺し屋と同行している事、長期間監禁されて事、全部学校の生徒達のSNSに広める事だって簡単な事なんだから……そんなえげつないレッテル貼られちゃいつか学校に戻ってもまともな学校生活は送れないだろうね」
「っち!……」
「その辺にしておけ。俺は貴様らを殺す事はいつでも可能だ」
「あははは……そうだったそうだった……」


俺は隣の街へ着くと、とあるホテルを拠点とした。

「さて、殺し屋君はこれからどうするんだい?ギャングを潰す?それともいつもの依頼?」
「当たり前だ。ギャングを潰す。これからボスに連絡する」

俺は携帯を開き、ボスに電話する。

「よぉ、ボス。元気か?」
「貴様……今どこにいやがる?」
「そうか。ハッカーがいなくて情報不足なんだろ?」
「……!何故それを!?」
「ハッカーはもうこっちの味方だ。お前は裏切られたんだよ」
「なん……だと?ククク……ハハハハハ!ふざけやがって……絶対ぶっ殺す……お前はどうやら完全に俺を怒らせてしまったようだな……どんな手段を使っても殺してやる!」

そこで電話は切れた。

又、ソファーに座って盗聴していたハッカーは大笑いする。

「あははは!聞いたか?今の子供の様な叫びを!僕も子供だけど。あれほど馬鹿な返しは初めて聞いたよ!でもね……少しは注意した方が良い……ああなったボスはもう誰にも止められない。今だってこのホテルが、爆破で木っ端微塵になっても可笑しく無いんだから」
「そこまでやるか……」
「でも君ならどうするんだろう?」

『どんな手段を使っても』か……。そのどんな手段とは本当の意味でルールが無いんだな……。

「ハッカーよ。いま、『ああなったボスは誰にも止められない』と言ったな?それは部下の注意も振り払うほどなのか?」
「そうだよ?過去にあのボスは警察と完全に敵対した事があってね。そりゃ良くある抗争なんてレベルじゃなかったさ。普通なら警察の武力行使なら圧倒的な差が付くけど、ボスの支配力の方が、警察の武力を上回ったんだ」

武力より支配力が上回った?どういう事だ?武力で制圧してしまえば手も足も出ないだろうに。

「うーん支配力もあったけど、部下達の異常な程の忠誠心もあったのかな?武力行使によってボスは確保され、組織もバラバラになり解散……かと思いきや、元部下達は立ち上がり、そこから複数の組織が再結成され、警察と小規模組織がぶつかったんだ。まぁ、戦況は言うまでもないけど、警察側は何度も攻められ、遂には対処が仕切れないとして、ボスを解放し、そこで抗争は治ったんだ」

俺は話を聞いて、度肝を抜いた。ボスだけを殺しても意味がない。完全に潰さなくてはならないと確信した。

「ただ幾らなんでも全ての部下を殺すには骨が折れるぞ?」

ハッカーは俺の言葉を聞いてまた大笑いする。

「あっはっは!君は本当に敵を殺す事しか脳に無いのかい?今話したのは、昔の話であって、ボスの脅威を教えただけさ。ボスの排除は君に任せるとして……部下が立ち上がらない様にするのは、僕に任せてくれ」
「っち……まぁ、部下も全て片付けなくてはならない事は間違っていないようだな……」

ハッカーは座りながらPCを持ち、人差し指だけを立てて言う。

「方法は簡単さ。ギャング達が警察を買収したと言ってもそれはほんの一部であり、警察との敵対関係は未だに変っていない。だ、か、ら、僕が現在手に入れている全てのギャングの情報を、買収されていない警察にぶち撒ければ、もう勝ち確定だよ」
「しかし、警察は部下の攻撃に降参したんだよな?」
「あれは、警察が部下の動きを想定していなかっただけ」
「ふっ……なんでもかんでも想定さえしていれば解決できる……か」
「そう言う事。ま、病死とかは流石に分からないけどね」
「じゃあ俺はボスの排除の方法を考える事を専念しよう」

ギャングの完全解体の作戦が決まった所で、ずっと黙っていた女が口を開く。

「な、なぁ私らは何してりゃ良いんだよ……」
「そ、そうだよ。これじゃあまるでまた軟禁状態……」

ハッカーは悪戯気味ににやりと笑い、俺も同時に口を開く。

「「お前らは此処にいろ」」
「今更気づいたのかい?僕も殺し屋も犯罪者なんだよ?そんな人達に殺すとまで脅されて、自由を奪われているなんて軟禁の他に何がある?」
「安心しろ死ぬ前には必ず学校に戻してやる」
「それっていつなんだよ!」

そうして、いつ戻れるか分からない女の中の一人が、絶望にひれ伏し、泣き崩れ始める。

「私達っていつになったら戻れるの?悪い人に捕まって助けて貰ったと思ったら殺し屋で、何度も人が死ぬ姿を見せられて、もう限界だよ……」

この姿を見てハッカーは深い溜息を吐くが、俺は泣き崩れた女の元に歩み寄り、頭を掴み後ろへ床に叩きつける。

「泣き止め、五月蝿い」
「ははは……君って本当に鬼畜かよ……」
「ぐぁっ……あぁあ……」
「お前らはいつでも殺す事が出来る。全く助けずにあそこでついでに殺せば良かったな……」

その光景を見る生意気な方の女は激怒する。

「てめぇ!良い加減にしろぉ!何がいつでも殺せるだぁッ!」

助走を付けて、女の頭を床に押し付ける俺を蹴ろうとするが、俺は女の足を即座に撃つ。

「ああぁあッ!……」
「もうお前らは、依頼人でも無くターゲットでも無い。金も払えないのなら、文句を言うな……俺は気に入らない奴も自分で殺す。だが、何故お前らをいつでも生かしているか分かるか?」
「くっ……何でだよ……」
「お前らはまだ犯罪を一度もやってないからだ。あの誘拐から救出後、お前らが死体処理を本当に手伝うと言っていたら、今ならころしていたかもな……俺は幾ら何でも、無抵抗無罪の者は殺さない。俺は殺す相手を選ぶ」
「くっそぉ……」

そうして女共はやっと今の状況を理解し、降参する。

「俺はこれからボスを殺しに行く。ハッカーは女の手当てとサポーターを頼む」
「え"、僕がやるの?全く手を焼く人だ……あ、あとコレ!これで君と話すから」

そう言ってハッカーは、俺に片耳イヤホン型の無線機を投げる。

「良し行くぞ」

コメント

  • さすらいの骨折男

    7話だけ題名に『。』が付いてますけど、他の話と統一させた方が良いんじゃないでしょうか?

    0
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