通りすがりの殺し屋

Leiren Storathijs

この世に絶対は存在しない

俺の狙うギャングとはどれだけ大きい組織何だろう?俺は基本複数の依頼を掛け持ちする事は無い。だからこのギャングが片付くまでは、他の依頼は受けないだろう。一応この事をネットに投稿しておくか。

俺はギャングの部下から知った高層ビルに向かう途中、携帯からネットを開き、適当な所に今の状況を報告する。

「皆さんこんにちは。いつもご利用ありがとうございます。殺し屋です。現在、結構ヤバイギャングの組織に狙われている為、この件が片付くまで、依頼は受け付けませんのでご了承ください」

これで良いだろう。何処にいるか分からない、最早存在しているのかも曖昧な殺し屋が、こんな投稿をしたらどんな反応をするだろう?

まぁ、馬鹿にされるのがオチか……。


目的地に向かう途中、携帯に非通知の着信があった。恐らくギャングのボスだろうか?

「はっはっは!俺の尾行を巻く事は、そこは計算内と言っておこう。お前の活躍はいつも、お前がどういう馬鹿な考えを持っているか分からんが、ネットの反応で良く聞いているからな。だが侮れるんじゃあ無いぞ?お前が狙っている尾行の隊長は、俺にとってそこまで重要では無いがさて、お前に始末できるかな?」
「最初の一言がそれか。もっと簡潔に話してくれ。お前と話すと気が散る。切るぞ」

わざわざ向こうから忠告してくれるとは、なんて優しいボスなんだ。

まぁ、そんな事は分かっている。相手は、俺の場所を特定し、移動ルートまで把握してきた者だ。居場所が高いビルと言っても、既に今の移動も見られているかも知れない。細心の注意を払っても良いだろう。

さて、高いビルと教えられたが、周りに高いビルが多すぎて、一番高いビルとは見分けが付かない。

こういう時は、マップで見れば早いだろう。俺はまた携帯を開き、この街のマップを立体表示する。

そこで、最も高い建物を探すと、やっぱりみんな似たような高さを持っている。しかし、まさかと思うが一番高い建物だと街の中央にある電波塔がそれに当たる。

俺が今居る場所からでは、はっきりとは見えないが、電波塔の先端が少しだけ頭を出しているのが分かる。

俺はしばらくその電波塔の先端を見つめていると、一瞬だが、先端だけ強い白い光を放ったのを見た。

その光は、ヘリや飛行機へ低空飛行の限界を知らせる光の可能性もあるが、あんなに白く光る事は無い。本来なら赤く点滅する筈だ。

もし先端に人が居ると考えても、テレビで見た事しか無いが、人が座ったり立ったりするようなスペースがあると感じた事は無い。

俺は、わざと道の中央を歩いていると、電波塔の先端はまた強い光を放った直後、俺のすぐ真隣に風邪を切る音と共に鉛の弾が着弾した。

「マジでいんの?」

これ程の精度がある事を考えると、恐らく俺への警告だろうか?本当に舐められたものだ。

わざわざ警告の為に弾を外すとは、つまり敵を殺す事に若干の躊躇があるという事だ。もし躊躇が無ければ、顔を掠らせても良いだろう。

俺は、当たるとは思っていないが、試しに部下から奪った、まだ五発残っている銃で、電波塔の先端を狙って撃ち、すぐに影に隠れる。

すると俺の携帯に非通知の電話が掛かった。声を聞くと、ギャングのボスでは無い。

「無駄な抵抗はするな。お前が何処に隠れようが、次の一発で必ず仕留めてやろう」
「本当にそんな事が出来……」

電話は、俺の反応を聞く前に切れた。今の俺の発砲で直後に電話がかかって来たという事は、当たってはいないが、撃たれた事に気付いたのだろう。

いや、あの距離からして、どんな手段を使っても俺の発砲音が聞こえる事はあり得ない。近くに弾が通過しない限りは。

これは面白い。今までやってきた依頼より一番面白い。いつもの依頼は例え俺の存在が知られても、逆に俺の命が危うくなる事は無かった。

これはいつものように余裕を噛ませば、気づかぬ内に俺の眉間に風穴が開くだろう。だからと言って慎重にやるつもりは無い。


相手は、居場所と球の精度からして、高い確率でスナイパーだろう。しかしそんな彼には二つ欠点がある。

まず俺と彼の居場所の距離は余裕に一キロメートルは離れている為、スコープを除く事は必須だ。どんなに視力が良くても、例え視力が二以上だとしても、スコープ無しでここまで正確に撃つことは最早人間では無い。

実際、千メートル以上離れた所からスコープ無しで数十人の頭を撃ち抜いた伝説の狙撃手も存在する。しかしそれは、『千メートル以上』というだけで、それ以上を更に大きく上回る距離では無い。

そしてもう一つは、高さと距離の問題だ。距離においてスナイパーにはその者の腕が試されるが、ただ高い場所にいれば見晴らしは良いが、段々対象が近くなると、銃を下へ下へと向けなくてはならない。

その分、身体に掛かる銃の反動も抑え辛くなり、況してやあんな狭く高い所では、反動でバランスを崩す事も可笑しい事ではないだろう。


さて、俺は、今入り組んだ路地を選びながら、スナイパーの死角から段々距離を縮めている。

そろそろ真下に着いても良い頃だ。今や電波塔は、はっきりと大きく視界に映る。しかし、ターゲットはやはり見えない。

だがこの位置と距離なら、俺の銃は当たらない事も無い。俺は試しに、電波塔先端に向けて銃を撃つ。これで残り三発だ。

すると、電話が掛かってきたどうせスナイパーだろう。

「貴様、俺が狙撃銃しか持ってないとでも考えたのか?残念ながら、その考えは間違いだ」
「んな訳ねえだろ。敵を殺す事において例え敵が一人であろうとも、武器を一つしか持たない奴は、想定外の出来事に対処出来ない馬鹿だ。又は、相当の自信を持った奴だな?俺は、そんな自信は持っていない。だって警察には重要指名手配されて、更にはでけえギャングの組織に追われてんだぜ?こんな状況で俺は絶対死なねえとか思ってる奴は正気の沙汰じゃない」
「確かにそうだな」
「確かに?お前言ったよな?次の一発で必ず仕留めるってよ。その根拠は一体何処にあるんだろうなぁ?」
「今に見てろ」

そう言うと、空から飛んでくる銃弾は、俺の真横に大きく外れる。

「はい残念!お前の必ずは信用ならねぇなぁ?あ、まさか狙撃銃以外は扱いに慣れていないとか?まぁ、この俺でも外したんだから、当たらねえのも普通か」
「黙れ……!」
「おっと、あんまり取り乱すと足をすくわれるぜ?」

その瞬間、俺の携帯から焦りの声が聞こえる。

「なっ!?……クソ!そんな馬鹿な!この俺がバランスを崩すなど!あり得なっ……!」

電波塔の上を見上げると、男が上から落下し、背中を思いっきり地面に叩きつける。

「がはッ!……あ、あ……」

地面に倒れるスナイパーは、奇跡的にまだ意識があった。

「おいおいマジかよ。あんな高さから落ちてまだ生きてんのか?なら教えてくれよ。もう声は出せねぇと思うけど、どうにか教えてくれ」
「はーッ……はぁ……」

スナイパーは、弱々しい動きで腕を胸ポケットに乗せる。

もう死ぬ瞬間まではギャングに肩を持たなくても良いと思ったんだろう。俺はスナイパーの胸ポケットを探ると、そこから紙のメモが出てきた。

「なるほどね……さ、そんな状態で苦しみながら死ぬのは嫌だろ?俺がすぐに楽にしてやる。じゃあな」

俺はそこから立ち上がり、銃でスナイパーの頭を撃ってからその場を離れた。

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