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ノベルバユーザー268960

第3滴「現代社会と契約書」

気がついたときにはすでに私は既にバカ二人を玄関前で捕まえていた。二人の頭には丸々としたたんこぶがひとつずつできていた。多分、私が無意識のうちに殴って捕まえたのだろう。そう察し、私は二人を引きずって出来るだけ早く理事長室に向かった。




「雛って結構暴力的だよね」



隣に座っていた美那が唐突にそういった。手には氷水をいれたビニール袋を持って、それをたんこぶに何度も押し当てている。理事長室のソファに寝かせた途端、急に目を覚ましたからビックリしたものだ。が、起きたらすぐに私を非難その精神力も大概だと思う。




もう一人、私が気絶させた人は、生徒会長の鮠川 小百合はいかわ さゆりという人だ。容姿はしっかり見てないため評価しづらいが、紺色に近い髪を後ろに束ねているのが簡単に言える特徴だ。
あと胸が平らなことだけ。
成績トップ、運動神経抜群、数々の賞を取得などの、名誉をほしいものにしたまさに完璧超人がまさか、こんなにバカなことが好きなどうしよもない人だとは一年生の時なら信じられなかったと思う。しかし、美那はすぐに目覚めたが鮠川さんはまだ気絶しているところから、鮠川さんが柔なのかそれとも美那が頑丈すぎるのか、まぁ多分少しは頼れる人だろう。雛はそう思い込むことにした。




「理事長、そろそろ本題に入りませんか」




「私のことはスルーなのねそうなんだね」




美那はわざとらしくオロロ~ンといいながら泣いている振りをしているため、私はそれもスルーすることにした。




「わかった。単刀直入にいうぞ」



今さらだが、理事長が私を読んだ理由ってどうなんだろうと緊張する。
息を飲む。しかし、飛び込んできた内容は予想の斜めいくものだった。




「江風。お前、生徒会に入れ」




「.....は?」




「いや、すまん。表現が少し違うかな。秘密裏に入れ」




「もっと簡単に説明してくれませんか?具体的には到った経緯とかを」




また積もりつつある自分のストレスを吐き出ないようにしていたが、少しくぐもった声を出してしまった。




「わかった。どうしてお前を呼んだのかの経緯を話そう。と言っても、私その時会議でいなかったから美那、説明ヨロシク☆」




「えぇー!私説明下手ですよ!?それでもいいんですか!」




「いいからやれ」




「普通は理事長直々に言うべきことでしょ。これ.....」




と、美那の愚痴が耳にはいった。
美那、アンタも見えないところで結構苦労してるのね。少しながら同情するわ、心から。美那に慰める言葉を送ると反面、とか言いながらやるのね、と
ツッコミを加えた。




「まずこれは昨日決めたことなんだけど、雛はいじめはどうやって起こるかは知ってるよね」



まさかの予想だにしない質問に私は慌てるが、少し考えて





「大半は何気ない一言や、妬み.....とかよね?」



「まぁ、大袈裟に言うとそれだよね。詳しくは言えないけど、イジメっていわば起こす人によって引き金が違うということが言えるんだと思うんだ。だって一例として、イジメ防止教室でもよく通話系アプリで打ってしまった何気ない一言からいじめに発展してしまう映像をよく見せられるでしょ?後は、好き嫌いや面白半分がよくあることだと思ている人が多いと思うんだ。じゃあ質問なんだけど、いじめってどうすればなくなると思う?」




アンタ、説明下手くそだって自分でいってたくせに普通にうまいじゃないの!今後ろ向いてみなさい!理事長があんぐりと口を開けて唖然してるわよ!
雛の声にならない言葉が磨姫と同じ表情で現れる。
しかし、美那はそれに気づかず雛の返答待ちと言わんばかりに私を見つめてくる。私は自分の思っていることをそのまま伝える。



「そんなの、無くなるわけないでしょ。だってどれがイジメに繋がるトリガーなのか、誰も知り得ないんだから。」




「そうなんだよ、そうなんだよね。人間は誰だって好き嫌いや好みがある自意識の塊だからね。それこそ、規制するなど、なんでもしない限り止まりにくくなるのが目に見えてる。」



「けど、例え厳重な規則を作ったとしても、それを守らないのもまた人間だ。それは、毎日のニュースでもみてればすぐにわかることだ」




「理事長の言う通り、罪を犯してこそ人間は存在すると私は思ってるもん」




「私も同感。それでも、罪を犯してそれを学習し、二度と同じ間違いをしないようにするのも人間のいいところよ」




「それも言えるね。少し話はそれるけど、雛は友達はどんなものだと思ってる?」



──友達....ね。それる以前にイジメの概念を話していたうちにすでに脱線していたけど、そうねー。
雛は今まで考えたことのなかったことを考え込む。自分が感じてきた想いを頼りにし、自分らしい答えを見つける。




「私にとって、友達は気軽に話せる仲間。ぐらいにしか考えられないわ」




至って平凡な回答だが、私にとって、それは最善の答えだと思っている。何故ならそれも考えの違いで全てが決まるもの。つまり、前に話し合った概念の問題が浮上してくるから。




「私と同じ考え。だけど、少し期待はずれかも」




「どうして?」




「雛ならもっと、『友達?そんなの、私にとっては快楽を補うためのおもちゃよ』とか言ってくれると思ったんだけどな~」




「私はそんなに最低なやつじゃないぞ!風評被害もはだはだしいものだ!!」




コイツ、一発殴っても良いんじゃないか?天誅してもいいんじゃないの??私の脳裏に不穏な単語が嵐のように訴えてくるが私はもう少しの辛抱だと言い聞かせて怒りを我慢する。




「まぁ、この二つの話題を観点別でまとめていってくれ。美那」




磨姫が早く終わらせろとばかりに催促をする。




「まとめると、友達同士の問題は学生の力で解決できるもので、イジメなどの問題は先生断ち後からを借りないと解決できないという、ひとつの点で分けることができるわけね」




「簡単にまとめるとそれね。私たちにはイジメに対抗する手段は先生に相談するしかない。けど、それが昨日決まった方針と何が関係してるの?」




「一応、理事長にも相談して決めたことだから可能ってことだけは先に伝えとくね」




「わかったわ。さっさと教えてくれない」




「聞いて驚け!江風雛!たった今から貴女を、」




形からはいった美那の声に会わせて、しのぶさんが携帯のアプリでドラムロールの音声を再生する。終わると同時に再び美那の口が開く。




「『生徒会特別関係相談執行部』、訳して『SKS』の第一人者として迎えます」




「......は?」




「聞こえなかった?じゃあもう一回宣言しようか?」




「止めて。それだけは止めて。すでに許容量をオーバーしていた脳に更に負担をかけるのは止めて」




美那は少し残念そうな顔をして、私のとなりに座り込む。それと同時に立ちっぱなしだったしのぶが磨姫のとなりに座り込んだ。




「理事長。その、『SKS』?ていうのは、どんなことを具体的にはするんですか?」



素朴な疑問をぶつけてみる。多分、自分が求めていそうな回答は帰ってこない気がしていたが。




「私たち教師でもお前たち生徒にプライベートでの問題をサポートできることは最低限、いやそもそも関われないことだ。それに、普通は私たちには相談しようなんて思わない。小さなことだから自分で、自分達で解決するしかないっていう、私たちには言えない想いや悩み事を抱えている生徒も少なからずはいるだろうと思う。
これをなんて表現すればいいか.....。そうだな、迷惑をかけられないって思っているんじゃないのかってこと。
もしそうなら、それは違うといってやりたいところだな。確かに高校は最終的には自立できるように手伝いをする施設のようなものだ。自分で解決できる範囲のものは自分で解決しないといけない抑圧心みたいなものが働いているんだろう。
それでも、お前たちはまだ子供なんだ。例え小さなことでも相談してくれるだけでも嬉しい教師はいるはずだ。もとい、私もその一人だけどね。
少し私情を挟んでしまったが、簡単にいうとプライベートで小さな問題を抱えた生徒の相談と、できるだけの解決への促進を頼みたい」




理事長の言いたいことは何となくわかる気がした。確かに教師はイジメに対しては、話してくれれば絶対的な抑制剤になってくれるのは常識だ。けど、それは学校内での話に過ぎない。プライベートとは法律でも守られている個人の自由の象徴だ。
例えば警察でも逮捕状や家宅捜索願いがない限り捜査できないと、刑事ドラマでもよく見かける。大まかにいうとそれと同じで生徒の間に大きな異常が見かけられない限り、話し合いすら相手の承諾がないと行えないことだと私は感じている。
プライベートは今の時代にはもっとも必要な存在だ。それを取り払うなんていう意見はこの先でも出てくることはないだろう。
だけど、プライバシーの必要以上の詮索はマナー違反でもあり、




「人によってはお節介だと感じでしょ」




無意識にそんなことを口走ってしまった。しかし、これは私にとっては起点だ。ちょうどその事についても聞きたかったのだから。




「そこら辺は大丈夫だ。お前が聞きたいのはプライバシーの詮索は社会常識ではマナー違反だっていいたいんだろ?
ちょいとしのぶがアプリの製作を進めてくれてるから、来週にはできる予定のはずだ」




磨姫がそうだろ?としのぶに聞くと、何回かうなずいて返した。
それよりもしのぶさんがアプリを製作できることに驚きを隠せずに唖然してるでしょう。




「説明は終了だ。質問は受け付ける。というわけで、この契約書にサインを頼む」




「質問です。どうして私が契約書を書いてまでしないといけないんですか?私の他に適役はいるでしょ?」





今度は苛立ちを隠さず私が思っている疑問をぶつけた。




「生徒会内で推薦があったからだ」




「誰が!」




「桜堂とワタシだ」




「アンタたちか!」




わかっていた。そんなことはわかりきっていた。推薦があった時点で、私の接点のある美那と理事長ぐらいしかいないのは当然だったのに考えられなかった。それぐらい私は混乱と疑問の沼に嵌まっていたのだろう。
それを認識した途端、全身が汗ばみ、動悸がいつもの数倍早くなるため体温も上昇していく。しかもここは換気をしていない密閉空間のため息を吸う空気すら暑く感じた。




「あ、明日じゃダメなんですか?」




この状況を打破する最後の頼みの提案を磨姫にする。
しかし、ダメだの一言で叩ききられてしまった。
どうにかしないと、と考え、模索してもいい案は思い付かない。脳回路を今まで休みなしで動かした代償なのか、少しずつ視界に靄がかかるようになってきた。それでも、この場を乗りきるために考えるのを止めなかった。




「これに入ってくれれば一般人が叶えられる程度のことを叶えてやってもいい」




唐突に磨姫は雛に提案をした。そこまでして入ってほしいのか。
最初はそう思って再び考え込もうとしたが何処か引っ掛かる。叶えられてもお金がかからない範疇だろう。そうとしか思えなかった。
けど、もしかしたら本当に願いを叶えてくれるかもしれない。そう考えると私の心が揺らぎだした。
ふと、私の家訓のひとつにこんなことが書いてあることを思い出した。
そして、私は決断した。




「理事長。本当に叶えてくれるんですか?私の願い」




「いいぞ」




当たり前だと言いたげに気前よく答えた。
ふふ、後悔しても知らないぞ!




「私はコーヒーメーカーとの交換ならば入ってもいいでしょう!」




宣言するように私は胸を張って願いを伝えた。
私は大のコーヒー好きで毎朝コーヒーを飲むの小学三年生以来から日常になっているほどにだ。勿論周りは絶句しているだろう。
私は何故か溢れ出す勝利の余韻に満ち足りていた。しかし磨姫は




「何だ。そんなのでいいのか?もっと欲しいヤツはないのか」




とまたもバッサリ切り捨てしかも設定金額の値上げすらしてくるほど強気だった。いや。これは強気や痩せ我慢でいっていることじゃない。
本当に高い奴でも構わないと宣言していると今更ながらに察した。そこまで来ると私は小さい恐怖心を憶えた。ついでにいうと私は自分が思ってもいなかった返しが来ると




「──え。え、えあ、えっと.....」




慌てやすいタイプなのだ。まるで壊れた機械のように定まらない口調で答える。頭を再び働かせようとしても、余韻のせいでかうまく働かない。
そしてそのまま流され、




「理事長の、お気に入りの喫茶店があるなら、教えてく、ださい。──異論は認めません!」




と損しかないことを口走ってしまった。
父さん御免なさい。家の家訓四条、『奪えるなら、できるだけ奪え』マモレナカッタ。私は極度の考えすぎか、脳がパンクし、家訓に謝りながら視界と共に意識も目を回しホワイトアウトを迎えた。

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