らぶどりっぷ to you!

ノベルバユーザー268960

第2滴「ツッコミが追い付かないとはまさにこの事」

本来なら、中庭から理事長室まで、3分かかる道を僅か1分で雛と美那は踏破した。切らした息を整えて、部屋をノックする。ゆっくりとした勢いでドアノブに手をかける。後はドアノブをゆっくり下げて押すだけの簡単な作業だ。けと、手が動かない。動かないのだ。




イヤイヤイヤ。たかが扉を開けるだけなのよ。いい?扉を開けるだけなんのよ?言い聞かせようとするが効果はないどころか、手汗や脂汗が滲んでくる。ここまで来るとビビっているんだと認識せざるをえない。認識したらで手足も微弱だか震えてきた。雛にとってここまで恐怖するのは嫌なこと前触れのひとつだという絶対の確信を持っている。覚悟を決めて、過去の恐怖に打ち勝つ気持ちでドアノブを下げ、そして、ゆっくりとドアを開けた。



キィィィ。最近改築したばかりのはずなのに....へんな音しないで!極度に高められた心拍がさらに加速し、雛の緊張を煽る。多分今心拍計ったらすごいことになってそう。




「し、失礼しまー.....す」



顔を覗かしながらゆっくりと入っていく。それについで美那も理事長室に足を踏み入れた。前を向きながら器用に扉を閉め、何が起きてもいいように感覚を鋭くする。中は殺風景で応接用に黒を貴重にしたソファと机のセット。木製の大きい机の奥にはプラスチック製の椅子。近くに花瓶とパソコン等を置き、赤いカーペットを敷いてある位しかインテリアのない部屋だ。そこは前にきたときには変わっていないと記憶していた。



けど、決定的な変化に雛と美那は入った瞬間に気づいていた。



「誰も.....いないわね.....」



「失礼だな。ここにいるぞ」



「え?何処?何処にいるんですか!?」



「まぁまぁ落ち着け。そう身構えるな。こっちが逆に殺られそうになると思うよ」



「今絶対殺られるって言いましたよね!?私は誤字だと信じますよ!?」



私ってそんなに殺気を出してるの?そう自分でも疑問に思ってしまういや、思いたくなかった。私は美那よりは容姿端麗ではないけど、性格はいいほうだと自負しているから、野蛮なイメージはついてほしくないと雛は小学校からそう信じてきた。



「取り敢えず、ソファに座れ。そこじゃ長話もあれだし」



声だけの存在に誘われるのもしゃくだけど、この声の主は知り合いだからそんなに嫌気はそこまで指さなかった。雛は警戒しながらも指示通りにソファに座り込む。適度な弾力を含んだソファはなんとも言えない気持ちよさで、雛の気分を少し緩める良い機会になった。




「で?話ってなんでしょうか?.....」




「そうだな。本題っと言いたいところだが、遅れた理由をまずは説明してくれないか?まぁ、大体の原因はわかるがな.....。桜堂がまたなんかやらかしたんだろ?アイツどこか抜けてるから」




「まぁ、そんな感じです。後、もうそろそろ姿を見せてくれませんか!?」




「わかったから落ち着け。桜堂を座らせたら私も姿を見せるし、本題も話す」




「何をおしゃっているんですか?美那ならここに....っていないじゃん!美那~こっちにこーい.....!?」



どうせ、極度の緊張で扉の前で小動物みたいに隠れているでしょ、そんな軽い気持ちで体を捻り、扉の方を向く。しかし、そこに待ち受けていたのは私が想像していた優しい世界ではなかった。




そこには頭すらを縄でぐるぐる巻きにされ、扉の前に吊るされているミノムシ状態の美那の姿があった。しかも逆さ吊りだから頭に血が上って後々痛くなる奴だこれと雛は悠長にそう考えたかったがそんな考えはできなかった。




「え.......っと......。ツッコミ入れるのやめて良いですか?」



頭の回転が追い付かず、雛はこの場の終息の促進を放棄しようとする。




「自分の役割を放棄するな。お前はツッコミを入れなきゃ入れない」




それを否定する声が聞こえ、聞こえた方を向く。そしてなぜかうつむいた。




「やだですよ!...というより、いつからここにいたんですか!?」




下から声がしたと思ったらそこには、理事長代理の鳥海 磨姫とりうみ まきがいた。身長は140cmあるかないかの判断しにくい高さである。髪型はストレートで黒髪。艶がすごく、その体格から想像できないほど流麗な後ろ立ちをしているため、初見では見とれてしまうほどだ。そして、この黒河学園の現理事長の鳥海 猛とりうみ たけるの孫娘。いわば、この学園の跡取り娘でもある。




しかし、解説で気をまぎらわそうとしても、受け入れがたい現実が次々と雛の精神をごりごりと削っていく。美那はいつのまにミノムシにされていたのか、いつからそこにいたのか、そして何より、私はどうして呼ばれたのかという疑問だらけの場所にどうしているのかと混乱が続けば、倒れれると確信をもてた。




「早く出てこい!これ以上なんかやらかしてもらうと、こっちの話も進まない」




なにもない空間になぜか磨姫は、一喝を入れる。しかし帰ってくるのは静寂だ。それも当たり前のこと。だってこの空間には私と理事長とミノムシがいるだけだからだ。




それよりも、理事長のほうが話を進ませないようとした元凶では?と、ツッコミを入れる気はないのに脳が勝手に、台詞を作ってしまうのは職業病だろうかと、場違いな考えを深める行動に出てしまう始末だ。



「なるほど~、そっちにが出てこないなら...引きずり出すしかないな!」



そう、いいながら投球の構えを取り、どこから取り出したのか知らないが扇子を一発入魂の気迫と共に壁に向かって投げた。黒い扇子が空を滑らかに切り裂くようにして、壁に向かって飛んでいく。途中ミノムシの縄を掠め、そして壁に激突!.....するはずだった。そのまま扇子が壁を貫通し、




「......イタッ!」



その奥で誰かとぶつかり、扇子だけが壁の中から戻ってきた。それと同時に人影も壁の中から少女が飛び出してきた。服装は私たちと同じ制定のブレザーを身に付け、髪はポニーテールにしてきれいにまとめている。暑くないのか、春なのに赤いマフラーを身に付けている。白い髪、白い肌は私はを白猫のよう、と詩人らしい例え言葉を漏らすほどの美しさだった。




「出てこないの方が悪いぞ、しのぶ」




しのぶ、という少女は......もうちょっと加減して。とあからさまに額を何回も撫でながら磨姫に抗議をした。それにしてもどうやって隠れていたのかを知りたかったのだが、まずは美那の拘束を解くのを優先しようと、辛うじての状況判断を脳は下した。しのぶが出てきたと同時に落ちてきたミノムシの多分頭部の方の縄をゆっくりとほどいていく。しかし、ほどいてる途中にあることに気付き、雛は美那の拘束を解くのを中断して、磨姫としのぶという少女が会話している場面に介入する。




「ん?どうした江風。なんにかあったか?」



「ねぇ、しのぶさん.....。美那はどこなの」




磨姫との会話をやめ、しのぶはこっちを向く。




「......ふっ。いつからあなたはミノムシが桜堂さんだと勘違いしていた?」




「何処にいるの」




「......会長さんが誘拐したの。私は時間を稼げって言われたから」




「連れ戻してきてくれないかしら?」




「......やだ。めんどくさい」



脅しをかけるが、彼女はまるで小さい子供のようにふてくされ、そっぽを向く。




「もうここまできたら、たとえ先輩でも殴っても良いや。言わなかった本人が悪いから」



これ以上は通じないと悟った雛はやけくそになり、力ずくでもいかせようと考えていた。




「マテマテ。暴力を振るうのはよくないぞ。それに、お前の拳はドワーフの拳と同格なんだから止めておけ」



雛のかんしゃくを落ち着かせるために磨姫が、話に割って入ってきた。





「なんですかそのドワーフの拳と同格って?」



「最近、前のアニメを見直すことにしてたことを今思い出したからそういっただけだ。気にしなくて良いぞ。それ以上ツッコミしたら胃に穴が開くかもしれないぞ?」




「へんな脅しをしないでください。私だってこの年でストレスで胃腸をやられたくないんですから。その言い方だと後は先生が何とかしてくれる流れになってますけど大丈夫ですか?」




「もといそのつもりだ。大丈夫、扱いには慣れてるから」




死亡フラグにしか聞こえない捨て台詞だったが胃腸がやられたくないがゆえに、雛は磨姫に任せることにした。




「しのぶ、お前に依頼を頼みたい」




言い方を変えるのは一瞬その手があったと思い知ったが、完全にふてくされている彼女がそう簡単に応じてくれるはすがないと雛はそう悟った。





「......報酬は?」




彼女の一言で今までの流れが変わった。例えるなら適当に買ったスクラッチの宝くじから一万が当たるぐらいの....あれ?これ変わったと言えるか?.....まぁ、いっか。なぜか食いついたし。後、もう考えたくないから。雛は表情一つ変えないで、ただ話を聞くだけにした。




「そうだなぁ~.....鰹節一個でどうだ」




「......駄目。もう会長さんから鰹節貰った」




「アイツ、そんなにカネ持っていたか~?」




磨姫は少し困惑した表情をしたが、なにかを思い付いたらしく、口許をにやけさせていた。




「しのぶ。お前が取引でもらったのは、スーパーでよく売ってる市販の鰹節じゃないのか?」




「?......そうだけど。それがどうした?磨姫ちゃん」



雛は、あー。ソウイウコトネ。この茶番のオチが察したが、しのぶのほうは理解できていないようで、首をかしげてわからないと伝えている。




「おいおい、忘れたのか?アイツの場合は一袋だが、こっちは一個といったんだぞ」




「????」




しかし、伝わっていない様子だ。ここまで来ると正直に頭が悪いのか?と、今までのストレスの一部として、愚痴を漏らしてしまいようになるが、我慢をする。




「ハァー。簡単にいうと、私が渡すのは市販のではなく、限定品だ」




流石に磨姫も呆れたらしく、少し前は優しく教えるはずが今じゃ、渋々説明をしている図に成り果てていた。しのぶは、やっと言葉の意味に理解できたようで目が少し見開かれていた。




「......限定品.....。......!それってまさか!」




「いやぁ~。手に入れるのに結構苦労したんだぞ~」




「......引き受ける!引き受けるからそれをチョーダイ!」




今までの態度が嘘のように対応がコロッと変わり、泣き寝入りの役が逆転してしまった。あからさまに胸を張ってどやる磨姫、そして涙目になりながら、磨姫の肩を揺らし懇願するしのぶは、.....まぁ、滑稽だった。と雛はは自分の語彙力のなさを恨むながらこの状況を見届けることにした。




「引き受けてくれるんだな?」




「......うん。先に報酬をくれたら」





「ちっ!前払いとは現金な奴だな」




「......任務終えて、やっぱ渡さないって状態に陥らないための保険」




一応、しのぶさんも考えているのね。少しは見直すかな。
今までの行動が子供だった彼女に、少しは考えを改めることが必要かもしれない可能性を与える良い要因かもしれないと、雛は変な風に考えている。




舌打ちをした磨姫はなぜか窓際の机に移動し、そこにあったパソコンを操作し始めた。怒濤の勢いでタイピングを行い何かに打ち込み終わると、今度は私たちの間の床が開きそこから小型のショーケースが白い煙と共に現れた。
わたしはその光景に呆然し、内心どこぞのスパイ映画のワンシーンとしてとらえてしまったが、ここはいったいどんな反応をすれば良いのか困ったところだ。




磨姫は、私たちの顔を一度みて残念そうな顔をしてから、話を再び始めた。




「ねぇ、もうちょっといい反応示してくれないかな~雛たち?」




それは単なる雑念まみれの要求だった。わかってた。正直、内心では何かしらの文句が飛んでくるのはわかってた。けど、話を遅らせている張本人から、しかも要求を受け入れないには十分な要素だった。しかし、これに答えないとさらに状況が悪くなると感じ、私は先生の話に合わせることにした。




「ヤダといいたいですけど、そもそも状況をつかめていませんしそんな反応になるのは必然だと思いますが?」




「そんなものか?」




そんなものなんですよ人間は!と雛は内心、ツッコミをいれた。これ以上はしないと違うストレスでいに穴が開くかもしれないととった行動だった。





「話を戻すがしのぶ、このショーケースの中にある私が大枚叩いて買った土佐でとれた鰹節の塊でどうだ」 




「......グー!」




忍は右手で大きくサムズアップを見せる。




「よし、交渉成立だな」




長かった。只それだけしか私の中から出てこなかった。理事長が遠回りをさせ更にしのぶさんのせいで話は混沌を極めるなどの波乱があった。が、これでやっと進めると思えば涙が出てきそうになるが堪える。そして安心感に満たされながら話を聞く。



「しのぶ。あのバカを捕まえてこい」




「......鮠川さんなら扉の前で美那ちゃんと覗いてるよ」




はぁ?今なんていったあの人。美那たちがこっちをみてた?私は事の真相を確かめるために体を急速に反転させ扉のほうを確認する。確かに閉まっていたはずの扉が少し空いており、その間から二つの人影が見えた。




「しのぶ!早くあのバカを捕まえ.....」




「ミーツケタ」



私は磨姫の言葉を遮る形でゆっくりと言葉を発した。美那たちだと思われる人影を視認したとたん、堪忍袋の緒が侍が居合いをするかの如く滑らかにそして綺麗に断ち斬った。途端に怒りが立ち込めた。もう周囲の音も声も、そして光もない只、美那たちを見つけ尋問するのが目的の機械に脳の機能がシフトしていた。そして、予備動作なしに走り出した。




少し開いた扉を体で強引で開き、右左を確認する。左側の階段で一瞬制服が見えたのを見逃さなかった私はそのまま追いかけるようにして走り出した。
これは後日談だか、その時私は無意識に「テンチュウー」を連呼していたそうだ。

   ※ ※ ※
「一種のホラーだろ、あれ」




磨姫は呆れながらそういった。





「んで、お前はどうしてここにいる。しかも、どうやってショーケースを破って鰹節にかじりついてる」




「......ほへほほへほほへ」




「まずはかじりつくのをやめろ」




「......ボタンがあったから押したら開いた。行かなかったのは鰹節の魔力に負けたから。はむっ.....うま、うま」



そう答えたらすぐに鰹節にかぶりつく。その姿はまさにネコそのものだった。内心、下顎をいじりたいいたずら心がよぎったが我慢することにした。




「......ねぇ、磨姫ちゃん」




「なんだ」




「.....これから楽しくなる」



この鰹節に夢中にかぶりついているネコがどうしてこんな意味深な言葉をいったのか私には到底理解できないことだが、これだけはわかったかもしれない。




「そうだな」



ただ純粋に楽しんでることだけだ。




それよりも今の私カッコよくない?磨姫はしのぶに比べてものすごく不純な心を持っていることを焦燥として感じた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品