らぶどりっぷ to you!

ノベルバユーザー268960

第1滴「可憐な少女の日常[スプリングバージョン]」

暖かい風が私の頬をくすぐるように吹き付ける。───筈だった...。
四月の陽明な太陽が私を優しく包み込む。───筈だった...。
綺麗に咲いた花が私を見守っている。───造花だけど...。
毎年受け賜るはずの春の恩恵をひとつも感じないまま、江風雛は机に置いてあるひとつの紙と向き合っている。いつも通りなら、適当なことを書いてちゃっちゃと帰るつもりだったが、今回はそうはいかなかった。と言うかしてはいけなかった。



「.....今日じゃなきゃ、ダメですか?」



駄目元で向き合っている二人のうち一人に話しかける。



「ダメだ。今日決めてくれないと困る」



キッパリと断られてしまった。今日決めてくれと言われても.....、未だに決断ができないままでいる。まだここに来て五分しかたっていないのに体感で数十分は経っていると感じられた。雛の脳は限界まで思考を加速させているためパンク寸前だった。遂にはどうしてこうなったのかの経移を思い出し始めた。



~三十分前~



まだ、太陽が真上に存在しない時間、雛は学園の中庭にある大きな木の下で同じクラスの桜堂美那と共に、日向ぼっこをしていた。〇〇学園、高校二年の私と同じ2―Aの生徒。成績優秀、容姿端麗で、端から見たらまさに「天才」「美少女」等を述べるレベルのすごさ。しかしその実態は



「ねぇ~ヒナ~...」



「どうしたの~?」



「何で帰らないの~?」



「暇なら帰れば~」



「帰らないよ~」



「どうして?」



「...忘れた。なにか大切なこと立ったんだけどな~」



「────そう...」



この様に、色んな所が抜けている私たちと同じ凡人だ。二十度とぽかぽかした気候が小さい欠伸と共に、私の眠気を誘ってくる。



春の魔力というべきか、私たちはその魔力の影響でしゃべり方はおろか、やる気すら起きないまま十分間を過ごしていた。もう眠ってしまおうかな。っと思い始めたときだった。突然美那は上半身を上にあげこっちを見下げる。



「そういえば、去年も始業式の終わりは今日みたいにここに来て日向ぼっこしてるの?」



「始業式だけじゃないわよ。昼休みも放課後もたまに寝に来てるわ。春限定だけどね」


美那に見下げられるのが少し気にくわないので春の魔力を振り払って雛も上半身をあげ、美那と同じ姿勢にする。



「それって暇なだけじゃないの.....?」



「余計なことは言わなくていいの!」



「けど、私が雛を観ているときはいっつも一人なんだもんね~」



「ふぅ~ん。余計なことを言うなっていったのに言う天然の娘は....こいつかー!」


雛は上半身を器用に使い、見事美那を押し倒し、馬乗りに成功した。



「え、え?!なにするの、雛?」



急に押し倒されたことに焦っているのだろう、美那は少し体を丸め込ませている。とはいっても、やることは決まっているのに言葉が決まっていない...ふと雛の脳裏にひとつの文章が浮かんだ。あいつがいってた言葉は使いたくないが、仕方ないか。少しアレンジを加えて...よし、いける。



「ねぇ、何かいってくれない?何で押し倒されたのかわからないから」



「この地に彩りを加えましょう。裏切り者の血と、屈辱の涙で」



「...」



場が凍りつく。押し倒した途端急に、中二病発言されたら誰だって反応に困るどころかできる筈がない。今雛は泣き出す寸前まで顔を赤くし、目は潤いを保ったまま硬直している。手は恐怖で震えている。「これ以上なにも言わないで」と口に出そうとしたときだ。美那の口が動きだし。




「えっ、えっと...そのー...かっこいいと思うよ?」



言葉を発するだけでも泣きたいぐらいなのに、よりにもよって慰める言葉をこの天然娘は送ってきた。それは雛の脆弱な精神をたやすく崩壊させ、誤魔化したいと言う衝動に駆られるのは容易なことだった。



「天誅ーーーー!」



「きゃ、くすぐったい、くすぐったいから...止めって...」



ヒィヒィ言いながらも、やめるように雛を説得するが止まる気配はなく、そのまま雛の気が収まるまで続いた。気が付いたときにはすでに美那はぐったりしていた。雛はすぐさま美那の上からどき、木から遠ざかった。



「ゴメン...」



申し訳ない気持ちが一杯だった雛は、謝罪の言葉を小さい声で洩らした。



「はぁはぁ、大丈夫だよ...。腹筋以外は、はぁ...はぁ」



息を切らしながらも、雛の起こした行動を許してくれた。美那は深呼吸を何回か繰り返して、息を整える。そして口を開いた。



「そんなことより、雛が構ってくれたことが私にとっては大儲けだよ」 



「あんたは構ってくれないと死んじゃうウサギなの?」



いつもの調子で、ツッコミを入れる。



「嫌だな~。ウサギじゃなくて親友っていってほしいな~、江風ちゃん♪」



「...そうね。あんたと私たちは親友よ」



「聞き間違いかな~。今『私たち』って言わなかった?今ここにいるのは私と雛だけだよ。」



「ヒント。私個人として考えるな」



「え?いきなりクイズ?う~ん。個人じゃなく全体...ハッ、そういうことね」



「はいどうぞ」



「雛だけじゃなくて、黒澤さんもいれて、『親友』って意味でしょ。成績優秀者をなめないでよ」



「...」



「おっと~。的中率百パーセントの回答だったから唖然しちゃってるんだね~。それも仕方ない。だって私頭いいから」



違う、そうじゃない。普通の回答過ぎて正直、恐怖を感じた。今までの美那なら、「まさか!前世の私と雛のことだね」とか意味が不明なことしか言わなそうだった。雛が感じた恐怖は言わば、爪の間に針がゆっくり奥まで入り込むような恐怖と等しいことがらだった。しかし、それに鳥肌しかたたない雛も、美那と同じように感じ是ざるを得なかった。取り敢えず、



「全然違うわよ。的中率ゼロパーセントのクソエイムね。自信満々にいって恥ずかしくないの~?」



挑発する口調で、雛のメンタルをブレイクするのを心がけた無慈悲な言葉の弾丸を打ち込んだ。弾丸は見事美那のメンタルをうち壊した。お陰で美那は、顔を限界まで赤くし、目頭に涙を蓄え全身からオーラを発してるように見える姿はまさに「怒り狂う桜堂美那」と名付けてふさわしい状態だった。美那はゆっくりと立ち上がり、



「天誅ーーーー!」



と叫びながら、飛び込んできた。しかし、それは雛には予測通りの行動だった。美那の掴み攻撃を避ける。雛はとっさに巴投げを反撃の一手をうち、



「私のセリフを取るなー!」



と、自分の本音を叫びに近いものになった。美那は自分の予測した飛距離の倍を進んだため体制を崩し、ドサッと背中から盛大な音と共に地面の着地を成功させた。



「グフッ」 



「大丈夫...じゃないよね」



「それ、殺ろうとした本人がいうの?しかも、何か清々しく聞こえるし」



「気のせいでしょ。後、言い方に気を付けてくれない?ヤル気じゃなかったからね。一応」



「...そうだね...」



反論する気が起きないのか、美那はどんよりとした口調で私の冗談を返した。やることもないまま時間を過ごすのは雛の信条に反するため、仕方なく寮に戻ろうと決意し、美那の肩を叩こうとした途端、



「あ。ああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」



「うわぁ!ビックリした―。どうしたのいきなり叫んで?」



「ヤバイよ、マズイよ、バリカタだよー!」



「最後のは気にしないでおくけど、何がマズイの?」



美那がこんなに慌てるのは、中三の卒業式以来だろうか。雛は慌てる美那の前でそんなことを悠長に思い出していた。何故なら、どうせ美那のことだから、私には関係ないことだろうを踏んでいたからだ。だから気にしなくてもい...



「理事長先生に雛と一緒に来いって呼ばれてたんだった。」



...い?今なんていった?理事長が来いって?



「──はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?ちょっ、あんた、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



「雛、驚きすぎだって」



「慌てるもなにもそれ重要なことじゃん!どうして忘れてたの!?いや、そんな悠長に会話してる場合じゃなかった。何時に来いって言われたの?」



「11時には来いって...」



雛は、ポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。そして、なぜか安堵の表情を浮かべ、すべてを悟ったような口調で語り始める。



「雛...まだ大丈夫だった?」



「おめでとう、美那そして私。三十分...遅刻よ」



「え?」



「readyゴー!!!!」



「え、ちょっと!待ってよー!!!」



そうして二人は走り出した。約束を果たすために。青春の始まりはここらへんだということを彼女たちは、まだ知らなかった。

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