神様にツカれています。

こうやまみか

第一章 2

 受験料を支払ってくれただけでも有り難いと思っていたのに、学費まで出してくれるのは感謝しかなかった。
 何しろ、高校の友達は専門学校希望が多かった上に、塾や予備校に通うのも面倒くさかったので「自分で勉強出来る!」と言い張って両親を説得した上に、今思うと何故そんなに自信満々だったのか、過去の自分をグーで殴りたいほどだ。名門私学を受ければ合格すると根拠もなく思い込んでいたのだから。
 唯一合格通知が届いたのが「大阪国際経済法律大学」という、ネーミングセンスもFラン以下という体たらくだったのも自業自得だ。
「そうです。その『大阪経済法律大学』に通っています」
 御祖母さんの間違いを訂正する気にもなれない。しかも微妙に自分でも間違っているようだがその辺りは気にしないでおこう。
「ふーん、そんな大学あるんかいね。知らんかったわ」
 信号待ち――歩道橋も存在するが、もう遅刻は決定的だ。そして今日の講義の担当教授は遅刻イコール欠席扱いをすることで有名だった。
 誠司の大学も「情報」という名前に唯一恥じないように、学生証をカードリーダーに通すことで出席状況が大学側にも分かってしまうシステムなので誤魔化しは効かない。
「あるんですよ。知っている人の方が少ないんですけど」
 六車線もあるような国道の信号待ちをしながら何となく会話を続ける。
 御祖母さんにはバリバリの国立の「大阪大学」と間違われなかっただけでも良しとしよう。
 あんな超難関大学に通っていると誤解されたら「賢い」とか言われてしまうだろうし、悪気はないと分かっていても軽く凹んだろうから。
 信号が青に変わって、御祖母さんが右手で杖をついて歩き出したので、左側に回り込んで腕を持って歩きやすくした。
「親切にありがとさん。孫にも大阪法律情報経済大学を勧めておくさかいに」
 国道を渡りきった時にそう言われた。感謝の気持ちからの言葉なのは分かったが「いやいやいや。絶対に勧めないほうがいいと思います」と心の中で全否定してしまった。
 御祖母さんと別れた後、国道沿いのファミレスの駐輪場で自転車がドミノのように全て倒れているのが気になって、乗りかかった船というか毒を食らえば――その続きは覚えていない――の気分で自転車を元に戻す作業に勤しんだ。
 この時間はランチタイムなので店員さんも店の外まで面倒を見切れないだろうし。


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