Right Way
4話 息止めの脱出
 月は真上に昇る夜分ながら、ガヤガヤと騒がしい大通り。
「緊張してきたかい?」
 ザンは被ったフードから、口だけを覗かせニヤリと笑う。
 ロイはその笑みに、すこし不気味なものを感じる。
「べ、別に。 でも、あの壁を越えるってことはなにか考えがあるんだろ?」
 ロイは少し遠くに見える十mの石壁を指差し聞いてみた。
「ここに来る時もあの壁を越えてきたんだ、そのあたりは心配しないでくれ」
「やっぱり、魔法なのか?」
「半分正解で半分不正解だ」  
 ロイは壁を越える方法がなんなんのか、訪ねようとしたがザンが少し急ごう、と足を速めるので、尋ねるのをやめた。
 賑やかな大通りを抜け、静かな壁の真下まで来る二人。
  壁と星空の切れ目を眺めながら、ロイが静かに喋り始める。
「それでこれをどうやって乗り越えるって?」
 壁の上には、大きな謎の機械と赤く光る空中線が何本も置かれている。
 いかにも脱出阻止のための機械らが並んで置かれているなか、とてもじゃないが乗り越えるのは不可能だとロイは察する。
「逆だよ、乗り越えるんじゃない。 潜り抜けるさ」
 潜り抜ける、とは。
 塗装された石道と、頑丈な石壁の間には外に出れるような土竜の洞穴的な何かは見当たらない。
「ん? あ、それも本当だったりするの?」
「いや本当だし!」
  ザンの言うことはどれもこれも胡散臭い、ロイはそう思いつつも彼を信じざるを得なかった。
 すると、ザンは何かを言い忘れていたかのように話し始める。
「そうだ、潜り抜ける前に!」
 ザンが高らかな声で、ロイに近づく。
 ザンが右手を握りしめたかと思うと、その瞬間ロイの腹を下から上に力一杯に殴りつけた。
「っっっ!!!!」
 声にならない痛みに歯を食いしばり、地面に膝をつくロイ。
 何が起こっているのか把握ができていない様子で、地面に這いつくばりながら殴った本人を見返す。
「なんのマネ……だ」
 ザンは動じない様子でロイの黄金色の前髪を掴んで、上にあげた。
「すこし我慢してくれ」
 静かな声でそういうと、前髪を掴んだ手とは反対の掌をロイの額に押し付ける。
「チャウト」
 ロイの額に当てたザンの掌が赤く光ったかと思うと、ロイの額から煙があがる。
「熱っっ、おい!! 離せ!!!!」
 肉が焼けるような音がロイの額から数秒間続く。
 嫌がるロイの前髪を離そうとせず、躊躇なく額を焼き続けるザン。
 
 ついに命が果てたかのようにぐったりと力を抜くロイに、ザンは前髪と掌を彼から離して、ロイを地面に仰向けに寝かせた。
「ロイ、ごめん少し待って」
 ザンが掌を押し付けていたロイの額からは、尋常じゃない血が吹き出る。
 ザンは急ぐような素振りで、カバンから透明な瓶を取り出して、蓋を開ける。
 すかさずザンは、瓶の中に入っている水色の液体をロイの額に優しく掛け始めた。
 それを掛け始めた途端、ロイの額の傷は癒え、一瞬にして血が止まった。
「おい、ロイ!! 生きてるか」
 仰向けのロイを乱暴に揺さぶり、目を覚まさせようとする。
「てめぇザン!! 俺に何を……」
 ロイは喋りながら額を触る、血の感触と痛みを感じないことを不思議に思い、言葉が詰まるが最後まで言い切る。
「何をしたんだ」
「ごめんごめん、おでこのチップを焼いただけだよ。 暴れられたらどうしようって思ってね」
 ロイは足を振り上げた反動で、仰向け状態から起き上がる。
 そして、立ち上がりザンに目線を合わせる。
「いや、聞きたいことが多すぎる」
「一つずつ聞いてくれ」
「チップを焼く流れになってたっけ? 今じゃなきゃダメだったの?」
 少しキレ気味で聞くロイに、ザンはそうだ言い忘れてた、と微笑んでロイに許しを乞う。
「そのチップには、ミゾノの外に出ると位置情報が送られるみたいな機能があるって聞いたことがあるから、念のためだよ」
「それで脱出直前に焼いたわけか……。 いきなり!!」
「あ、反省してます」
 舌を出して可愛げに謝るザンにロイはもう一つ質問をする。
「さっきの一瞬で傷が治った薬は何?」
「あー、あれは怪物が作る貴重な薬品だよ」
「怪物……? ザンみたいな?」
 聞きたいことが多すぎるロイがザンに質問攻めをする。
「いや、私は怪物じゃないよ」
 ザンはそういうと先ほどの瓶をカバンにしまいながら、聞こえるか聞こえないかほどの小さな声で、呟いた。
「まぁ、間違ってはないけど」
 ザンのボソリと呟いた一言に、ロイはなんて言ったのか聞き返すが、ザンはもうそろそろ壁の向こうに行くよ、とカバンの中からまた怪しげな道具を取り出した。
 黄金色をしたネックレスのような見た目で、中央には緑色の石が嵌め込まれていた。
 ザンはそれを自分の首にかけて、淡々と説明を始めた。
「これは息を止めてる間はなんでも通り抜けれるようになる首飾りだ!」 
「なにそれ」
 ザンは説明するのが好きなのか、聞いてもないのにどんどん説明をし始める。
「私がこの首飾りをしながら、ロイに触れていればロイにも首飾りの効果が適用されるのだ」
「それでこの壁を通り抜けるってこと」
「そのとーり!! 勘がいいじゃないか」
 いや、勘もなにも、それしか考えられないのでは?と、ロイは思ったりもしたが、そこは突っ込まないであげた。
「しかしながら、息を止めている間にしか通り抜けはできない!! もしも、壁の中で息をしてしまったら、窒息死ということになる」
「え? 俺たち死ぬかもなの?」
 ニコニコしながら怖いことを言うザンに、ロイはビクビクして後退りをしてしまう。
「それじゃあ、手を繋ごう。 そして、この壁の向こうに」
 固く結ばれた二人の手は、仲良くなれた二人の絆のようでもあった。
「緊張してきたかい?」
 ザンは被ったフードから、口だけを覗かせニヤリと笑う。
 ロイはその笑みに、すこし不気味なものを感じる。
「べ、別に。 でも、あの壁を越えるってことはなにか考えがあるんだろ?」
 ロイは少し遠くに見える十mの石壁を指差し聞いてみた。
「ここに来る時もあの壁を越えてきたんだ、そのあたりは心配しないでくれ」
「やっぱり、魔法なのか?」
「半分正解で半分不正解だ」  
 ロイは壁を越える方法がなんなんのか、訪ねようとしたがザンが少し急ごう、と足を速めるので、尋ねるのをやめた。
 賑やかな大通りを抜け、静かな壁の真下まで来る二人。
  壁と星空の切れ目を眺めながら、ロイが静かに喋り始める。
「それでこれをどうやって乗り越えるって?」
 壁の上には、大きな謎の機械と赤く光る空中線が何本も置かれている。
 いかにも脱出阻止のための機械らが並んで置かれているなか、とてもじゃないが乗り越えるのは不可能だとロイは察する。
「逆だよ、乗り越えるんじゃない。 潜り抜けるさ」
 潜り抜ける、とは。
 塗装された石道と、頑丈な石壁の間には外に出れるような土竜の洞穴的な何かは見当たらない。
「ん? あ、それも本当だったりするの?」
「いや本当だし!」
  ザンの言うことはどれもこれも胡散臭い、ロイはそう思いつつも彼を信じざるを得なかった。
 すると、ザンは何かを言い忘れていたかのように話し始める。
「そうだ、潜り抜ける前に!」
 ザンが高らかな声で、ロイに近づく。
 ザンが右手を握りしめたかと思うと、その瞬間ロイの腹を下から上に力一杯に殴りつけた。
「っっっ!!!!」
 声にならない痛みに歯を食いしばり、地面に膝をつくロイ。
 何が起こっているのか把握ができていない様子で、地面に這いつくばりながら殴った本人を見返す。
「なんのマネ……だ」
 ザンは動じない様子でロイの黄金色の前髪を掴んで、上にあげた。
「すこし我慢してくれ」
 静かな声でそういうと、前髪を掴んだ手とは反対の掌をロイの額に押し付ける。
「チャウト」
 ロイの額に当てたザンの掌が赤く光ったかと思うと、ロイの額から煙があがる。
「熱っっ、おい!! 離せ!!!!」
 肉が焼けるような音がロイの額から数秒間続く。
 嫌がるロイの前髪を離そうとせず、躊躇なく額を焼き続けるザン。
 
 ついに命が果てたかのようにぐったりと力を抜くロイに、ザンは前髪と掌を彼から離して、ロイを地面に仰向けに寝かせた。
「ロイ、ごめん少し待って」
 ザンが掌を押し付けていたロイの額からは、尋常じゃない血が吹き出る。
 ザンは急ぐような素振りで、カバンから透明な瓶を取り出して、蓋を開ける。
 すかさずザンは、瓶の中に入っている水色の液体をロイの額に優しく掛け始めた。
 それを掛け始めた途端、ロイの額の傷は癒え、一瞬にして血が止まった。
「おい、ロイ!! 生きてるか」
 仰向けのロイを乱暴に揺さぶり、目を覚まさせようとする。
「てめぇザン!! 俺に何を……」
 ロイは喋りながら額を触る、血の感触と痛みを感じないことを不思議に思い、言葉が詰まるが最後まで言い切る。
「何をしたんだ」
「ごめんごめん、おでこのチップを焼いただけだよ。 暴れられたらどうしようって思ってね」
 ロイは足を振り上げた反動で、仰向け状態から起き上がる。
 そして、立ち上がりザンに目線を合わせる。
「いや、聞きたいことが多すぎる」
「一つずつ聞いてくれ」
「チップを焼く流れになってたっけ? 今じゃなきゃダメだったの?」
 少しキレ気味で聞くロイに、ザンはそうだ言い忘れてた、と微笑んでロイに許しを乞う。
「そのチップには、ミゾノの外に出ると位置情報が送られるみたいな機能があるって聞いたことがあるから、念のためだよ」
「それで脱出直前に焼いたわけか……。 いきなり!!」
「あ、反省してます」
 舌を出して可愛げに謝るザンにロイはもう一つ質問をする。
「さっきの一瞬で傷が治った薬は何?」
「あー、あれは怪物が作る貴重な薬品だよ」
「怪物……? ザンみたいな?」
 聞きたいことが多すぎるロイがザンに質問攻めをする。
「いや、私は怪物じゃないよ」
 ザンはそういうと先ほどの瓶をカバンにしまいながら、聞こえるか聞こえないかほどの小さな声で、呟いた。
「まぁ、間違ってはないけど」
 ザンのボソリと呟いた一言に、ロイはなんて言ったのか聞き返すが、ザンはもうそろそろ壁の向こうに行くよ、とカバンの中からまた怪しげな道具を取り出した。
 黄金色をしたネックレスのような見た目で、中央には緑色の石が嵌め込まれていた。
 ザンはそれを自分の首にかけて、淡々と説明を始めた。
「これは息を止めてる間はなんでも通り抜けれるようになる首飾りだ!」 
「なにそれ」
 ザンは説明するのが好きなのか、聞いてもないのにどんどん説明をし始める。
「私がこの首飾りをしながら、ロイに触れていればロイにも首飾りの効果が適用されるのだ」
「それでこの壁を通り抜けるってこと」
「そのとーり!! 勘がいいじゃないか」
 いや、勘もなにも、それしか考えられないのでは?と、ロイは思ったりもしたが、そこは突っ込まないであげた。
「しかしながら、息を止めている間にしか通り抜けはできない!! もしも、壁の中で息をしてしまったら、窒息死ということになる」
「え? 俺たち死ぬかもなの?」
 ニコニコしながら怖いことを言うザンに、ロイはビクビクして後退りをしてしまう。
「それじゃあ、手を繋ごう。 そして、この壁の向こうに」
 固く結ばれた二人の手は、仲良くなれた二人の絆のようでもあった。
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