神殿の月

こうやまみか

54

 最初はファロスの提出した案については懐疑的だったが、二国同盟という単純に言えば兵力が倍になる戦さにおいて「力に任せて」という戦略の立案は無理なことが分かった瞬間に思考を切り替えるという柔軟さをも兼ね備えていた王様だったので。
「神殿では禊以外にも良いことがあったと見える……」
 不意に話を変えられて、首を竦めてしまった。ファロスが聞きたいことも当然含まれていたので。ただ、王は戯言めいてはいたものの、目は鋭い光を放っていた。
「神殿とは、そして聖神官様とはどういったものでございますか?
 実際に赴いてみて初めて分かりました。その上戦さを左右する情報の数々を集めているとしか思えない……」
 玉座に座った国王陛下が突然立ち上がった。同時に将軍も先ほどの作戦の成功を寿いでいた感じのカロン将軍も笑顔ではなくなっている。
 やはり、何かが――そして限られた者しか知らされていない――あるのだろうなと思わせるには十分だった。
「その件を話すのは、戦さで勝利を収めた時にしたいと思うのだが、良いな」
 先程の笑顔とは打って変わったような厳しい表情を二人ともが浮かべている。
 そして「今」その話をするのは許さないといった雰囲気を充分以上に醸し出している。
 ただ、先王の時代から「戦さ」を司ってきたカロン将軍と、そして王家にまつわる光と闇の歴史を恐らくは学んできた国王陛下が揃ってこのような反応を見せるということは、逆にファロスの「もしかして」という考えを裏付けるものに他ならない。
 ただ、今は戦さのことだけを考えるしかないだろうとはファロスにも充分過ぎるほど分かる。
「しかと承りました。
 では、私は私の部下がどのような働きをしているのかをこの目で確かめて参ります。
 全軍出陣まで少し猶予が有りそうですので」
 首尾よく両国の捕虜を得たと言っていた。ロードを始めとするファロスの命令を受けた部下達は今頃その捕虜の中に紛れ込んでいるだろう。
 ある一定の信頼関係が築けなければ、実しやかなウソでも信じて貰えないだろう。ただ、ファロスの部下達のことを案じたわけではなく――心配せずとも充分以上の働きをすることは疑ってはいない。それよりも国王陛下や将軍が顔色を変えるほどの神殿の謎を知っていると思しき二人と共に居れば聞いてしまいたくなる欲求が抑えられないからだった。

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