修羅道 ~レベルを上げたいだけなのに~
第20話 チンピラと聖騎士と。
俺は考えた、強い武器が必要だと。
何故ならば闘うからだ。今もこれから先も……。
資金力の乏しい俺が強力な武器を手に入れる一番の近道はスキルに頼ることだ。
スキルで創ったものならば量産可能で使い捨てることも出来るし、なんなら売ってしまうことも出来る。
形状や材質もある程度コントロールすることが出来るのは、これまでの経験と実験が実証していた。
最初にスキルで創った武器は棍棒だった。この時は何を考えていたっけ。
――「スキル[武装作製:壱]を獲得」いつもの声が聴こえてきて武器を作るスキルなんだなというのは理解できた。
その時は兎に角、石は嫌だと思ったのだ。そんなことにスキルを使うのはもったいないと。
そうして棍棒が出来た。[武装作製:壱]で創れるのは棍棒だけ、そう確定したのだ。
この[武装作製]というスキルは弐も参も俺が望めば手に入るはずだ。
何故ならば今までのスキル全般は、レベルアップした時に望んでいたものが与えられてきたし、これからもそうであると考えて良さそうだからだ。
そうして強い武器の為にレベル9では[武装作製:弐]を取得して。
[武装作製:弐]では切羽を創ってみることにしたのだ。
……しかしこれには紆余曲折がある。
当初は部品ではなく、いきなり日本刀を創ろうと考えていた。
何も無いところから刀を取り出す。――ロマンだ。今でも即応性という観点でこの案はアリだと思うが、却下した。
[武器強化:壱]で補強したとして、これからの戦いで使い物になる気がしなかったからだ。
俺の上がり続ける力に耐え、尚且つ万物を切断せしめる性能が求められる。
――レベルが上がり、いつもの音声が[武装作製:弐]の取得を告げる。
ここで俺は、いくつかの思案していた実験を試みた。
まずはビームソードだ。荷電粒子の刃ならば、あらゆる物質を切断可能だろう、これをスキルで創れるのか?
光の繭は混沌たる渦のまま形になろうとしない、強力な銃や魔剣を想像するがそれらもスキルは受け付けてはくれなかった。
なるほど、そこまでご都合主義じゃないらしい。
どうする?ひとまずは日本刀を創って。次からは強化スキルでも伸ばしてみるか?
――そこに天啓とでもいうべき、ひらめきが脳裏に迸る。
脳裏の稲妻が全身を駆け巡り、確信が、狂喜となり俺はそのひらめきに従った。
これまでひとつのスキルで、いかに強力な武装をつくるか模索していたが、そうじゃあない。
スキルのリソースを全て使い、部品を形成するのだ。
日本刀をパーツ毎に創造し、それを合体させることで、強力な一つの刀にすることにしたのだ。
ダメそうなら途中でやめて別の方法を考えればいい。
実験の結果は今のところ概ね良好だ。
スキルで創られた切羽は刀に関する専門の職人の一つである白銀師の技術を完全に再現しており。申し分ない出来栄えだ。
レベル10では次の部品を創ってもいいが違うものにした。
部品を完成させても組みつけが素人には難しいのである。
前世で日本刀が好きだったこともあり、知識だけは豊富だが自身の手で組み付けることに不安を覚えた俺は、そこもスキルに頼ることにしたのだ。折角なので、あらゆる物を正確に組み立てるスキルを願った。
結果としてこれは失敗し、得る事が出来たのは[刀の手入れ、組み付け]という非常に限定されたスキルだ。
……長い目で見れば有用だと思いたい。
……そして決勝には間に合わなかった。
まぁいい、レベルはあがっているし前回優勝者との戦いはかなり楽だった。
自分自身が強くなったことで、武闘祭決勝も苦戦はすまい。
街の盛り上がりは最高潮だ、俺とユリウスの戦いに、世界の全てが注目しているような錯覚をする。
もっとも、聖騎士と戦うチンピラである俺は、完全に悪役だが。
なーに、かまわんよ。どの道勝つのは俺だ。
腕を組んだキャサリンだけが俺に笑顔を見せてくれる。2人で闘技場に入り通路で別れる。
「ほんじゃ、優勝してくるわ」
「うん、信じてる」
俺は控え室、キャサリンは客席へと向かった。
◇ ◇ ◇
聖騎士ユリウスは、怒りに震えていた。
部下からの報告を聞き、惨状を確認して検分した。
証拠はない。
犯人は不明。
確信。それだけがあった。
そしてそれで十分だった。
「貴様だけは、貴様だけは……」
呪詛のように言葉を吐き捨て、ユリウスは己の大儀と正義に心を振るわせる。
報告をかねて、試合開始前の挨拶を敬愛する王にすませる。
「我等がロアーヌの偉大さと強さ、王の慈悲深さと正義を悪に示してまいります」
何があったのか報告を聞いた王は驚きに眉を動かすが、いつもの穏やかな口調でユリウスに言う。
「あやつは得体がしれん、お前が負けることは万に一つもないが、油断だけはするな」
「ハッ ありがたき御言葉、油断なく今日は……」
ユリウスが聖剣の鞘に手を添わせ言外に、聖剣を抜くことを宣言した。
控え室で磨き上げられた鎧を装備する。
「ユリウス様……御武運を」
「へっ 我等が聖騎士様なら楽勝だって。ユリウス様、あやつの悪行オレ達も許せません、コテンパンにしてやって下さい」
トーナメントが始まってからというもの、何も命令などしてないのに非番の騎士が毎日手伝いにやってくる。
男騎士の手には、ユリウスが控え室に来る直前まで、鎧を磨き上げたのであろう布が握られていた。
女騎士は始まる前からもう涙目だ。
騎士たるものが感情を出すな――とは思わない。しかしこれは少し違うのではないか、今度鍛えなおしてやろう。
そう内心で感謝とともに決定すると、兜を深くかぶり、聖剣と同じく国宝である盾を装着した。
「2人ともありがとう、では行ってくる」
チンピラと聖騎士。ムサシとユリウス。
闘い方も、生まれた世界も、秘めた想いも異なる。ふたり。
武闘祭最後の試合、決勝が始まろうとしていた……。
何故ならば闘うからだ。今もこれから先も……。
資金力の乏しい俺が強力な武器を手に入れる一番の近道はスキルに頼ることだ。
スキルで創ったものならば量産可能で使い捨てることも出来るし、なんなら売ってしまうことも出来る。
形状や材質もある程度コントロールすることが出来るのは、これまでの経験と実験が実証していた。
最初にスキルで創った武器は棍棒だった。この時は何を考えていたっけ。
――「スキル[武装作製:壱]を獲得」いつもの声が聴こえてきて武器を作るスキルなんだなというのは理解できた。
その時は兎に角、石は嫌だと思ったのだ。そんなことにスキルを使うのはもったいないと。
そうして棍棒が出来た。[武装作製:壱]で創れるのは棍棒だけ、そう確定したのだ。
この[武装作製]というスキルは弐も参も俺が望めば手に入るはずだ。
何故ならば今までのスキル全般は、レベルアップした時に望んでいたものが与えられてきたし、これからもそうであると考えて良さそうだからだ。
そうして強い武器の為にレベル9では[武装作製:弐]を取得して。
[武装作製:弐]では切羽を創ってみることにしたのだ。
……しかしこれには紆余曲折がある。
当初は部品ではなく、いきなり日本刀を創ろうと考えていた。
何も無いところから刀を取り出す。――ロマンだ。今でも即応性という観点でこの案はアリだと思うが、却下した。
[武器強化:壱]で補強したとして、これからの戦いで使い物になる気がしなかったからだ。
俺の上がり続ける力に耐え、尚且つ万物を切断せしめる性能が求められる。
――レベルが上がり、いつもの音声が[武装作製:弐]の取得を告げる。
ここで俺は、いくつかの思案していた実験を試みた。
まずはビームソードだ。荷電粒子の刃ならば、あらゆる物質を切断可能だろう、これをスキルで創れるのか?
光の繭は混沌たる渦のまま形になろうとしない、強力な銃や魔剣を想像するがそれらもスキルは受け付けてはくれなかった。
なるほど、そこまでご都合主義じゃないらしい。
どうする?ひとまずは日本刀を創って。次からは強化スキルでも伸ばしてみるか?
――そこに天啓とでもいうべき、ひらめきが脳裏に迸る。
脳裏の稲妻が全身を駆け巡り、確信が、狂喜となり俺はそのひらめきに従った。
これまでひとつのスキルで、いかに強力な武装をつくるか模索していたが、そうじゃあない。
スキルのリソースを全て使い、部品を形成するのだ。
日本刀をパーツ毎に創造し、それを合体させることで、強力な一つの刀にすることにしたのだ。
ダメそうなら途中でやめて別の方法を考えればいい。
実験の結果は今のところ概ね良好だ。
スキルで創られた切羽は刀に関する専門の職人の一つである白銀師の技術を完全に再現しており。申し分ない出来栄えだ。
レベル10では次の部品を創ってもいいが違うものにした。
部品を完成させても組みつけが素人には難しいのである。
前世で日本刀が好きだったこともあり、知識だけは豊富だが自身の手で組み付けることに不安を覚えた俺は、そこもスキルに頼ることにしたのだ。折角なので、あらゆる物を正確に組み立てるスキルを願った。
結果としてこれは失敗し、得る事が出来たのは[刀の手入れ、組み付け]という非常に限定されたスキルだ。
……長い目で見れば有用だと思いたい。
……そして決勝には間に合わなかった。
まぁいい、レベルはあがっているし前回優勝者との戦いはかなり楽だった。
自分自身が強くなったことで、武闘祭決勝も苦戦はすまい。
街の盛り上がりは最高潮だ、俺とユリウスの戦いに、世界の全てが注目しているような錯覚をする。
もっとも、聖騎士と戦うチンピラである俺は、完全に悪役だが。
なーに、かまわんよ。どの道勝つのは俺だ。
腕を組んだキャサリンだけが俺に笑顔を見せてくれる。2人で闘技場に入り通路で別れる。
「ほんじゃ、優勝してくるわ」
「うん、信じてる」
俺は控え室、キャサリンは客席へと向かった。
◇ ◇ ◇
聖騎士ユリウスは、怒りに震えていた。
部下からの報告を聞き、惨状を確認して検分した。
証拠はない。
犯人は不明。
確信。それだけがあった。
そしてそれで十分だった。
「貴様だけは、貴様だけは……」
呪詛のように言葉を吐き捨て、ユリウスは己の大儀と正義に心を振るわせる。
報告をかねて、試合開始前の挨拶を敬愛する王にすませる。
「我等がロアーヌの偉大さと強さ、王の慈悲深さと正義を悪に示してまいります」
何があったのか報告を聞いた王は驚きに眉を動かすが、いつもの穏やかな口調でユリウスに言う。
「あやつは得体がしれん、お前が負けることは万に一つもないが、油断だけはするな」
「ハッ ありがたき御言葉、油断なく今日は……」
ユリウスが聖剣の鞘に手を添わせ言外に、聖剣を抜くことを宣言した。
控え室で磨き上げられた鎧を装備する。
「ユリウス様……御武運を」
「へっ 我等が聖騎士様なら楽勝だって。ユリウス様、あやつの悪行オレ達も許せません、コテンパンにしてやって下さい」
トーナメントが始まってからというもの、何も命令などしてないのに非番の騎士が毎日手伝いにやってくる。
男騎士の手には、ユリウスが控え室に来る直前まで、鎧を磨き上げたのであろう布が握られていた。
女騎士は始まる前からもう涙目だ。
騎士たるものが感情を出すな――とは思わない。しかしこれは少し違うのではないか、今度鍛えなおしてやろう。
そう内心で感謝とともに決定すると、兜を深くかぶり、聖剣と同じく国宝である盾を装着した。
「2人ともありがとう、では行ってくる」
チンピラと聖騎士。ムサシとユリウス。
闘い方も、生まれた世界も、秘めた想いも異なる。ふたり。
武闘祭最後の試合、決勝が始まろうとしていた……。
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