十の学院と略奪者

悠希遥人

episode11

「すっ、げぇなぁ!!」

 帰り道、悠人と合流を果たした勝斗がそんな事を言ってくる。
 興奮冷めやらぬだといった表情だ。
 勝斗意外にも沙耶と香織、姫百合がいた。

「そうか?」

「なんだよ、悠人。お前自分がどれだけ凄いか自覚してねぇのか?」

「えぇ、本当に凄い事だと思うわ。だってAクラスに引き分けたんだもの」

「そうですよ。あの反則が無ければ、どうなるかもわかりませんでしたよ?」

 謙遜する悠人に思わぬところから追撃が飛んでくる。

「流石に勝つ事は出来ないと思うぞ。あの厚木の異能は強力だったからな」

 ―――本当は勝てるが
 とは、口には出さない。
 不用意な事を言って目立つ事は避けたいのである。

「でも、悠人くん。まだ本気じゃなかったよね?」

「え?」

「どう言う事だ?姫百合さん」

 突然の姫百合の発言に戸惑いを見せる悠人と勝斗。

「俺は全力だったぞ?」

「そう?ならそう言うことにしておく」
 そう言ってふふふ、と笑う姫百合を尻目に悠人は疑問が残るとともに冷や汗をかいた。

(流石に姫百合の名前は伊達じゃないんだな)

 悠人は心の中で姫百合の事をそう分析したのだった。

 〜〜〜

 時同じくして、とある路地裏で一人。
 男は硬く拳を握りしめ、壁に打ち付けていた。
 四皇帝学院の学生、厚木である。

「くそっ!俺が引き分け?それもCクラスの落ちこぼれなんかに!」

 溜めていたものを吐き出すように叫ぶ厚木。
 悠人との決闘で引き分けたことに未だ不満を覚えていた。

「大体、あの時あの女の邪魔が入らなければ今頃アイツを……」

 あの女、と言うのは生徒会長である四皇帝のことである。

「こうなったら先にあの女を潰すか?……いや、流石にアレにはまだ勝てない……ならばもう一度彼奴に決闘を挑んで……」

 厚木とて無能では無い。
 力量差は分かっている。
 しかし、彼が狙っているそのCクラスの落ちこぼれがどれ程の化け物であるかは厚木が知る由も無いことだが。

「お困り、ですかな?」

「 ︎誰だ!」

 突如、付近から声がして警戒を強める厚木。
 しかし、彼がいくら周りを見渡そうとも声の主は見つからない。

「無駄ですよ。今の貴方の実力では私を捉える事は出来ない」

「っ ︎どこだ!隠れてないで姿を表せ!」

「ふふふ、しょうがありませんねぇ。貴方の要望に答えましょうか」

「なっ ︎」

 不気味な笑い声と共に厚木の目の前で黒い霧が巻き上がる。
 やがて黒い霧が晴れたかと思うとそこには全身を黒い外套で覆った男が現れていた。

「お前は……?」

「私の名前が貴方にとってそんなに重要な事ですか?そんなことよりも……何故、私が貴方の前にいるか……と聞く方が有意義なのでは?」

「くっ ︎それは……」

「まぁ、尤も。私は貴方に用があったのでこうしてお会いしているのですがね」

「何?」

 くくく、と不気味な笑い声を上げる謎の男。
 外套のせいでその顔までは見えないが只者ならぬ男だと言う事は厚木にも分かる。

「貴方……今、誰かを憎いと感じていますよね?」

「 ︎」

 核心をつかれた事により、厚木に動揺が走る。
 その反応を見て謎の男は嗤う。

「くくく。そうですよね?私には分かりますよ?貴方の憎悪が」

「……なんなんだよお前は……?何が言いたいんだ!」

 怒りを露わにした厚木は怒号と共に異能を繰り出そうと動く。
 しかし謎の男は、すぐさま厚木の懐まで潜り込み厚木の左手首を掴み上げた。

「くそっ!離せ!」

「くくく、いけませんねぇ。私に殺意を向けるなんて……けれど貴方では私は殺せませんよ?」

「なんで抜けないんだっ!」

 厚木は謎の男の手を振りほどこうとするがビクともしない。
 力の差は歴然だった。
 だが厚木も諦めようとはしなかった。
 彼から放たれる眼力はそれだけで人を殺める事が出来そうなほど強いものだった。

「おおっと。恐いですねぇ……しかし、その殺意。実にいい……やはり私の目に狂いはありませんでしたねぇ」

 男はそう言って三度嗤う。

「厚木くん……貴方が殺してしまいたいほど憎い相手……としたら?」

「……?」

 厚木の眉がピクリと動く。

「今の貴方の力ではその人には勝てないのでしょう?ならば私が貴方に力を授けましょう……その憎き相手を殺せるだけの力をね」

「……それでお前に、なんの得があるんだ……」

 興味深い話を持ちかけられ、厚木は殺気を弱める。
 その姿勢に謎の男は満足そうに頷くと、厚木の手を離した。

「利害の一致、と言うやつですよ。貴方に力を授ければ私の野望が達せられる日が近くなるので」

「……」

 沈黙。
 しかし、この沈黙は厚木にとっては既に答えを導き出しているようなものだった。
 こんないかにも怪しい男から意味不明な取引を持ちかけられているのにもかかわらず、断ることができていない。

(御し易いものですねぇ……学生というものは)

 謎の男は既にこの取引は成立したものだと確信していた。

「……お前の力を借りれば、本当に殺せるのか?」

「勿論ですとも。それは私の力を目にした貴方になら分かる筈ですよ?」

「……ならば協力してもらおうか……」

「貴方ならそう言ってくれるとおも思いましたよ!ではこれからよろしくお願いしますね」

「あぁ」

「くくく、楽しくなってきましたねぇ。ではこれからある場所へ案内しますので、付いてきてくださいね」

「分かった」

 薄暗い路地裏を二人は進んで行く。

「これで生徒会長も、あの落ちこぼれも殺せる。そして

 後ろを歩く厚木がニヤリと笑みを浮かべる。

(くくく、せいぜい利用させてもらいますよ……としてね)

 その姿を見て謎の男は内心、ほくそ笑んでいた。

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