十の学院と略奪者

悠希遥人

episode7

「ただいまー」

「あ、悠人。おかえり〜」

 悠人が家に帰ると姉である棗が出迎えて来た。
 徹夜明けのせいかやや窶れた表情をしていたがこれはよくあることなので問題ないだろう。
 勝斗や沙耶、香織と談笑していた悠人はあの後、担任と顔合わせや軽い自己紹介をして帰宅していた。

「学院の方はどうだった?」

 悠人がリビングのソファーに座ると棗が台所でコーヒーを淹れながらそんなことを聞いてくる。

「まぁ、一言で言えば退屈しない場所って感じかな」

「そ。それは良かった……はい」

「ありがと」

 棗はそれ以上特に何かを聞くこともなく、先程淹れてきたコーヒーを悠人に渡して隣に座る。
 そして暫くの間リビングではコーヒーを飲む音だけが鳴り響いた。

「そういえばさ……」

「ん?」

「会えたよ。六花の一人に」

「良かったわ」

「……」

 棗の言葉が気に入らなかったのか悠人は僅かに顔をしかめて棗をみる。
 事前に姫百合について話さなかった事に対しての不満だろう。
 当の棗はと言うと悠人の視線に気づいているものの特に反応することは無い。
 悠人は棗が何も言うつもりがないのを分かったのか、その後特に追求する事は無かった。

  〜〜〜

「悠人は学院内で何かやんのか?」

 入学式から数日が経ち、学院生活も落ち着いてきた頃、悠人の友達である勝斗はそんな事を悠人に聞いていた。
 悠人達がいる場所は学院に一つだけ設置されている学院食堂。
 達、と言うのは悠人と勝斗の他にも二人の女生徒、沙耶と香織もいるからである。

「いや、特に何かをやるつもりはないな」

 悠人は本心を告げる。

「そうなのか。俺は入りたいとこがあってだな……それがーーー」

「「闘術部」」

 勝斗の言葉を遮るように悠人と沙耶の言葉が重なる。
 まさに阿吽の呼吸とも言えるタイミングであった。

「うぉ ︎何故それを ︎」

 勝斗はまさか二人から正解が導き出されるとは思ってもいなかったのか驚きの声を上げる。
 しかし、悠人と沙耶はというと、どちらも微妙な顔をしていた。

「いや、まぁ……勝斗の性格とその異能上、そこが妥当だと思っただけだ」

「えぇ、あんな異能……あんたにピッタリだわ」

「あはは……」

 悠人と沙耶がそう答え、香織はそれに苦笑い。

 因みに闘術部と言うのは主に肉体のみで行う格闘技である。身体強化以外の異能の使用は禁止されている為、必然的に身体強化持ちの生徒のみが加入するのである。

……まさにアンタに相応しい異能だわ」

「だよな!俺も気に入ってるんだ!この異能はよ」

 そう言ってはなを鳴らす勝斗。
 勝斗のそんな態度に沙耶は呆れたように重い溜息をついた。

 身体強化と一口に言ってもその種類は様々。
 例えば勝斗であれば筋肉そのものを強化して身体能力を向上させている。

「でもよ、それを言うなら悠人だって向いてるんじゃねぇか?闘術部」

「確かに悠人君の異能は意外だったわね。」

「そうか?」

 勝斗の言葉に珍しくも同意を見せる沙耶。

「あぁ。まさか俺と同じの類の異能だなんてよ」

 悠人の異能は身体強化系統と周りには周知のされている。
 尤も悠人の異能はのだがここにいる生徒にそれを知るすべは無い。

「どっちにしろ部活にも委員会にも入るつもりは無いな」

 この話はこれで終わりと言うように悠人は配膳されている昼飯を食べ進める。

「そっかぁ。残念だがそういうことならしょうがねぇな」

 勝斗は素直に引き下がる。こういう潔い所も彼の魅力の一つなんだろう。

「あのー、すいません相席いいですか?」

 四人が一度会話を打ち止めて昼食を食べはじめると女の子らしき声がかかる。

「あぁ……俺らは別に構わないが……って」

 勝斗はそれを了承するようにその女生徒の方へ振り向き驚愕する。

「Aクラス ︎」

 そう、その女生徒は白のブレスレットを左手に付けた、Aクラスの生徒であった。

「突然すいません……嫌なら断って貰っても構わないのですが……」

「嫌ってわけじゃないが……」

「なんで私達のところにわざわざ……それにこの娘どこかで……」

 勝斗と沙耶は困ったように顔を見合わせる。
 その女生徒は超が付くほど美少女だった。
 当然それ程の美少女を一度見たら忘れる筈も無い。
 その少女は甘栗色の髪を肩口まで伸ばして一部をサイドテールにして結っている。ヘーゼルカラーの瞳はまるで宝石のような煌めきを放っていた。

か。どうしたんだ?」

 勝斗と沙耶が対応に困っていると、突然悠人がその少女の名前を呼んだ。

「お前 ︎この可愛い娘と知り合いなのか ︎」

「姫百合って……まさかあの ︎」

 勝斗と沙耶はそれぞれ別の意味で驚いていた。

「久しぶりっ!て程でもないかな」

「そうだな。入学式の時以来だからな」

「悠人くん、全然私とあってくれなかったじゃん!私何度も悠人くんの近くに行ったりしていたのに……」

 そう言って悲しそうに眼を伏せる。

「そうは言ってもな……俺らが話しているところを他のAクラスの生徒が良しとしないだろ?」

「そ、そんな事ないよ!Aクラスの人も分かってくれるって!」

「いや……」

 それは厳しいだろう。
 そう思った悠人だがそれは口には出さなかった。

「とにかくこれからはもっとお話を……」

 姫百合は隣の机と椅子を悠人達の席と繋いで着席しようとする。
 しかし、その行動を良しとしない者がここで待ったをかけた。

「姫百合さんっ ︎」

「あっ……厚木くん……」

 まるで怒鳴ったかの様な声に姫百合が僅かに怯えたような声を上げる。
 それを意に返さず、厚木と呼ばれた生徒は姫百合の方に近づいていく。よく見ればこの厚木と言うか生徒はあの時、悠人と姫百合が一緒にいることに対し、文句を言っていた金髪の生徒だった。
 厚木の後ろにはその取り巻きの生徒が五人ほど控えていた。

「こんな所で何をしているんですか?姫百合さん。私達との食事を断ってまで何か用があるのでは無かったのですか?」

 僅かながらに怒りを孕んだ声で姫百合を諭す様に口撃する厚木。

「ごめんなさい厚木くん。さっきも言った通り私はここでこの人達とご飯を食べる事になってるから」

 姫百合はそう言って頭を下げる。
 しかし、姫百合の言葉が気に入らなかったのか厚木は血相をかえて悠人達を睨む。

「姫百合さん……まさか私達よりこんな落ちこぼれ共を優先すると……?」

「別にそういうわけじゃ……それに悠人くん達は別に落ちこぼれなんかじゃ……」

「何故、そいつの呼び方が下の名前なのかも納得でき無いな……?そう言えばお前……入学式の時に姫百合さんと一緒にいた奴だったな?」

「そうだが?」

「二度と近づくなと言ったはずだが?忘れたのか、落ちこぼれ。どうやら落ちこぼれの知性は鶏程度の様だな」

 鋭い眼光で悠人を射抜く厚木。
 その眼には強い憎悪が宿っていた。

「俺は別に姫百合に近づいたわけじゃない。姫百合から近づいてきたんだ」

「そんな嘘が通用すると思っているのか?落ちこぼれ……どうやら立場を分からせる必要があるよだな?」

 厚木は左手につけるブレスレットに触れる。

「やめて!厚木くん!本当に悠人くんは悪くないから!」

「辞めませんよ姫百合さん。この男は早めに排除するのが得策だ。姫百合さんの為にも……そしてこの俺の為にもなぁ!」

 ブレスレットに搭載されている赤いボタンが押される。
 すると厚木が持つブレスレットから赤い光が射出され悠人のつけている黒色のブレスレットに吸い込まれる様に向かっていった。

「これは……?」

「決闘だよ、落ちこぼれ!今日の放課後第三競技場に来い!そこで俺が勝てばお前はこの学院を自主退学して今後二度と姫百合さんに近づかないと約束しろ」

 とんでもない要求が突き付けられる。

「……そんなリスクの高い事をわざわざ了承すると思うか?」

 しかし、当然悠人がこの件をわざわざ受ける義理もない。

「別に断ってもいいが……その場合はそうだなぁ、お前の友達のその三人を退学にしてやってもいいな」

 そう言ってニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

「そんな権限がお前に……」

「あるんだよ!決闘は一度申請されれば学院側に記録が残る。もし受諾されなかった場合、その決闘は受諾しなかった者の負けと見なされペナルティーが課せられる。そのペナルティーは本来ならばそこまでの事は出来ないが……生憎俺の父はこの学院とも繋がっていてな、少し無理を言う事も可能なんだよ!」

「……」

 悠人ら黙って姫百合の方をみる。
 すると姫百合は苦い顔をして重々しく首肯する。

「……厚木くんのいうとおり、厚木くんお父様はこの学院の統括理事会の一人。だからもしかしたら……」

「そうか……」

 悠人は顎に手を当て思案する。
 そこで今まで黙っていた勝斗が口火を切った。

「なぁ悠人。それなら俺が代わりに彼奴の相手を……」

「アンタねぇ……相手はAクラスなのよ!アンタ見たいな馬鹿が勝てるわけないでしょ!」

「むぅ……」

 勝斗が、代わりを担おうと提案するが沙耶の一言でそれ以上何も言えなくなる。

「みんな悪いな。巻き込んで」

「別に気にしてねぇよ。俺ら友達だろ?」

「そうそう。早かれ遅かれこういう問題には直面してたと思うしね」

「そうですよ。別に悠人さんは悪くないです」

 三者三様に悠人を励ます。
 すると悠人は少しばかり笑みを見せ「ありがとう」と短く礼を言った。

「悠人くんごめんね……こんなことになっちゃって……」

 姫百合が申し訳なさそうに悠人に謝ってくる。

「別に気にすることじゃない。こうなった以上引き下がるわけには行かないしな……それにいい機会だ……」

「え?」

 最後の言葉は姫百合に聞こえなかったのか悠人の顔を見上げるが悠人は既に厚木の方に向き直っていた。

「今日の放課後だったな。必ず行く」

「あぁ、逃げるなよ?尤も、逃げれないだろうがな。ククク……」
 楽しそうに笑って厚木は食堂から去っていく。
 その後ろ姿を悠人は眺めながら、

「まぁ、なるようになれ、だな」

 と呟いた。

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