追放されたので魔術開発して平和に暮らす

午前の緑茶

東雲は力を目覚めさす

東雲は禁術を口にした。


直後、東雲の身体強化の魔術が消え、シーンと時が止まったように静かになる。

刹那すぎる時間。

そして黒い魔力がオーラとなって東雲の体から一気に飛び出し、人形を飲み込み、半径30メートルの半球を描くようにすぐさまに広がる。


本来、魔力とは目に見えないものであり、魔術として使用することで初めて視認できるものである。

しかし、怒り、感情の高まりそして生存本能によって極限にまで高められた魔力はその濃度ゆえに、視認が可能となる。


「っく…」

東雲は心臓が軋むほど激しく動き、苦しそうに左胸を抑える。


魔力増強は心臓を強制的に動かすことで血液を循環させることで魔力を増加させるものである。

発動時間が長過ぎれば、心臓に負担がかかり死に至る。まさに命を燃やす禁術なのである。


人形と言えども、東雲の変化に何かを感じたのだろう。東雲に攻撃しようと一気に加速し近づく。

あまりの速さに砂によって粉塵が機械人形の移動した後に舞い散る。


この術によって東雲は2つの変化を手にした。


1つは魔力増加による身体能力の向上。

身体中を巡る魔力の増加により、素早さ、パワーが格段に上昇する。すでに、東雲は人の領域は超えており、単体で並みの機械人形なら、千体は余裕で倒せるほどの身体能力を手に入れていた。


もう1つはこの溢れ出る魔力による空間である。


元々この魔力自体が東雲のものであるがゆえに、この空間内での動き全てが知覚可能となる。
わずかな空気のふるえでさえも。


今、東雲は人類の頂点に立つほどの強さを手に入れたのである。


発射された不可視の人形の攻撃を瞬時に知覚し、即座に体を捻り避ける。

それどころか人形の動きから次の動きまでさえ読み、背後に周りこんで白い機械人形の頭に蹴りをを入れた。


通常、人間がどんなに身体強化の魔術を使おうとも、所詮は人間の力で限りがあり、普通は武器を強化することで人は機械人形と戦うのである。蹴りでは破壊することなど到底叶わない。


しかし、そんな常識をあざ笑うかのように、ドンっと音が一帯に響き渡り、東雲の蹴りは正確に人形の頭を捉え、吹き飛ばす。

人形の頭だけ200メートル以上は吹き飛び、体だけがそのまま残り崩れ落ちる。

常人の感覚では捉えきれないほどの極微の時間。コンマ1秒以下の時間で、一体の機械人形は破壊された。


倒し終わった東雲は、ふぅと小さく息を吐き、もう一体の方を向く。


もう一体の機械人形はあの散々東雲と神崎を馬鹿にしてきた八幡を握りつぶそうとしていた。


「だずげ…で…」

八幡は助けを求めようと東雲に乞う。


一瞬で白い機械人形の元へ近付き、今度はパンチで胴体を押し込む。手形の形にめり込んだかと思うと、一瞬でふき飛ばす。

空中を舞い、地面に落下する。ガン、ガン、と地面に何度もぶつかり音を立てながら、40メートルほど転がる。


助かった、と八幡はそばに立つ東雲を見るが

「散々虐めてきておいて、今更命乞い?笑わせんなよ?」
東雲は人としての軽蔑の視線を八幡に向けた。


「……」
八幡は悔しそうに唇を噛み締めて下を向く。


「まあ、いいや、その醜い自尊心と弱者に助けられた屈辱を抱えて生きていけば?俺、別にお前達のこと恨んでないし。」

興味を失ったようにそう言って、八幡を地面に落とし、白い機械人形の方は視線を向ける。


「逃げるなよ?あれだけのことをしておいて。神崎の命はお前みたいな鉄くず1つほど安くないんだよ!」

静かな、だが燃えるような怒りを胸に抱いて、もう一体を睨みつける。


それは普段のやる気のない東雲からは想像も出来ないほどの感情の爆発であった。


吹き飛ばされた白い機械人形は東雲の方を見る。一瞬で東雲の目の前に詰め寄り、剣化した右腕で斬りつけた。いやそのつもりだった。


「これか?」

東雲はそんな機械人形の背後で剣化した右腕を持っている。


その声に気づき、初めて自分の右腕がないことに機械人形は気付く。


「そんな攻撃で俺が当たるとでも?」

そう言って、ガシャと音を立てて、その腕を地面に捨てる。


「こいよ、お前の四肢全部もいでから、頭飛ばしてやるからよ」

東雲はさらに挑発する。


ゼロから一気に加速し、東雲に近づこうとする。

空刃エア・スラッシュ

そう小さく言い、術を放つ。


本来、空刃は初歩の魔術である。だが、無尽蔵とも呼べる膨大な魔力によって、その威力は極限にまで高められ、機械人形の胴体を2つに切り離した。


機械人形は下半身を失ったことでバランスを崩し、地面を転がる。


「おいおい、まだ壊れてる場合じゃないだろ、しっかりやれよ。これじゃ敵討ちにならないだろ?」

そう言いながら、転がった機械人形に近づいていく。


「ふざけんなよ、こんな鉄くずになんで、神崎が殺されなきゃならないんだよ!返せよ!責任とれよ!」

東雲はどうにもならない事と理解していながらもやり
きれず怒鳴り声を出す。


ドンッ、ドンッ、地割れを起こすほどの威力で何度も何度も踏みつける。


「ざけんな、なんであいつが死ななくちゃならないんだ!」

もう帰ってこないことを理解していながらも、怒りをぶつけ続ける。何度も何度も何度も。


繰り返し踏みつけるごとに、東雲の心の中は怒りを通り越し、虚しさで埋め尽くされ始める。そして虚しさでいっぱいになり、攻撃が止まる。


「はあ、もう良いや」

そう言って白い機械人形から離れる。


それを察知し、逃げようと機械人形は空間に消えようとすると、


「逃がすわけがないだろ」


白い機械人形が逃げるよりも速く東雲は手を広げて前に突き出し、詠唱を完了する。


完全なる消失ロスト・オーバー


それは、これまでの魔術の歴史に存在しない術式、いや術とさえ呼べはしない。なぜなら、東雲はイメージの力でだけで、この世から消失する魔術を発動させたのだから。


詠唱の直後、人形の周辺5メートル四方の範囲が消失する。まさに消失。人形が消え、地面が消え空気が消え、光が消え、重力が消え全てがなくなる。


魔術が発動し終わったあと、そこには何もなく、空気が消えたことによりその中心に向かうように風が吹くだけであった。


「…っがぁ!」

あれだけあった魔力も強引な魔術により全て失い、魔力増強の術も解ける。


(なあ、神崎、倒してやったぜ。ちゃんとお前の仇討ってやったよ。俺ももうすぐそっちに行くよ。)


ただでさえ魔力ランクが低く、さらに禁術を使用した事で、東雲の心臓は酷使され止まったことにより意識を失い、その場で崩れ落ちる。


シーンと静まり返って、八幡はハッと今までの展開についていけず手放していた意識を戻す。全てが終わったと思い安心したのか、普段通りに戻る。


「ははは!雑魚のくせに、よくも俺のこと笑ってくれたな。まあ、多少は役に立ったじゃないか。結局雑魚は、俺様を助けるために命を捨ててれば良いのさ!」

東雲が倒れ死んだと思い、八幡は笑い出す。


そんな八幡の目の前で、ザッと音がし、八幡は音の方向に目を向ける。

「ヒッ!」

目の前にいたのは、青い機械人形であった。
あまりの恐怖に八幡は悲鳴をあげる。


青い機械人形は八幡を殺そうと詠唱を始める。


その時だった。


加速運動アクセルブースト

聞き慣れない詠唱が響き、青い機械人形が吹き飛ぶ。


急な出来事に、八幡は驚き、声の方に目を向ける。
そこにいたのは死んだはずの神崎であった。

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