喫茶店では、珈琲を

ノベルバユーザー292094

カフェのマスター

  開店時間より一時間早くおじいちゃんのカフェについた。もちろん、表は閉まっていたので、裏から回って入った。
「おじいちゃん……」
  中に入ると、そこには誰もいなかった。
「ミャー」
下を見ると、セロがいた。うちにおいてきたはずだが、大方魔法でも使ったんだろう。すると、二階へ上がるための階段を上り始めた。階段が黒いので見失わないようにセロの後を追った。
  階段を上りきると、セロはある部屋の前で座っていた。
「ここに入れってことかな……?」
とりあえず中に入ることにした。ドアを開けると、そこには闇しかなかった。
「克人様、その闇はあまり持ちません。詳細は向こうで説明しますのでとりあえず入ってください」
どこからか女の人の声が聞こえてきた。確かに聞いたことがある声のはずだが思い出せない。
「そろそろ無くなります。とにかく急いで」
 その声は必死そうにそういった。なにが起こるかわからないがとにかくこの闇に入ることにした。怖いことはあまり好まないので一気に入った。
  入ってみると、自分の周りが闇に囲まれていることに気がついた。そして、次の瞬間までの記憶が飛んだ。




  気がついたらベッドのような、でも少し固い台の上に寝かされていた。耳を澄ますと、おじいちゃんとセロの声が聞こえた。
「酔ったか」
「酔っていますね。もう少し早く来ていただければ、多少の説明はしたのですが……」
どうやら、酔って倒れたようだ。まだ目を覚ましたと思われていないようだった。ふと天井を見ると、西洋の木造建築を見ているような天井だった。一本一本の木材は茶色や焦げ茶色と地味な色合いのものが多いが、全体を見ると、綺麗に調和が取れていた。日差しが照りこんでくる窓の方は黄土色の木が、影になる部屋の奥は灰色の木に。
「さて克人、そろそろ起きたか?」
「うん。ごめん、ちょっと前から起きてた」
「だろうな。少し視線を感じた」
  おじいちゃんの方に顔を向けると、セロは窓側にある机の上に乗っていた。
「さて、起きれるか?」
そう言われて、上体を起こす。目に光が入り込んできた。眩しいと感じたのも束の間、ファンタジーの世界のような景色が目に入り込んできた。思わず見惚れていると、おじいちゃんから声がかかった。
「さて、さすがにその格好だと外じゃ目立つから……セロ、適当に見繕ってくれないか?」
 そう言うと、知らない女の人が横に立っていた。
「わかりました、ご主人様。克人様、恥ずかしいかと思いますが、服を脱いでいください」
声を聞いてセロなのかなと思った。だが、この姿は知らない人のものだ。
「おや、なにも言わずに姿を変えたのが原因かな。克人様、私はルーレット。職業は魔法使いというと正確かな。君たち家族からはセロと呼ばれています」
やっぱりと思ったが、頭が追いついてないことがある。女性だが黒の燕尾服が似合い、赤髪の長髪、そして、足が細い。そんな女性を自分は知らなかった。
 「まあ、この格好になるのはあなたの前では初めてですから無理もありません。ささ、時間がもったいないですし、早く着替えてしまいましょう」
そう促されて僕は服を脱いだ。
「そうですねー。平民のようなラフな格好がよろしいかと思いますが、ご主人様。それでよろしいですか?」
 どうやら、セロは僕が着る服を真剣に選んでくれているようだった。
「そこはセロ、お前に任せる」
はぁー。というため息をついて、セロは何着か服を持ってきた。
「それでは、上にはこれを着てください。おそらく、この丈であっているかと」
セロから渡された服を着ると、ちょうど体にあっていた。どうやら、何かの布を切って端を縫っただけの簡単な作りのもののようだ。
「よかったです。さて、それではズボンですが、どれにしますか?長い丈のもの、短い丈のもの、いざ下の丈のものとありますが、私のオススメは克人様の場合は長い丈のものですね。足が細いのでお似合いかと」
「ありがとう。セロ。それじゃあ、長い丈のものを貸してくれない?」
「こちらです」
履いてみると、着心地がいい。そして飾り気はないが、これも体にあっていた。
「お似合いです。ご主人様、用意が整いました」
「それじゃあ、 行きますか」
「え、どこに?」
その問いに対して、さも当然のようにおじいちゃんは言った。
「この世界での身分証明書みたいなものを作りに行くんだよ。あと、職業はアプレンティスでいいな」
アプレンティス?なんなのだろう。そう冷静に考えている場合ではなかった。
「職業?え、どういう」
そう言うと、おじいちゃんは落ち着いた様子でこう言った。
「まあ、話は歩きながらでもできるだろ。とりあえず来い。あ、セロも一応ついてきてくれ」
「はいはい。あなたがあまり説明できていない理由がわかりましたよ。克人様が心配ですし、私も行きましょう」
そう言うと準備していたであろう、革製のバッグを手に提げて扉の方へ向かった。




 セロが扉を開けた先にはのどかな景色が広がっていた。といっても、あたり一面畑というわけではなく、適度に住居やお店が散らばっていた。
「さて、さっきの話の続だが、今からこの国でのお前の身分証明書となるものを作りに行く。まあ、まだお前はこの世界のことをあまり知らないから、見習いアプレンティスという立場にしようってわけだ」
なんでこの世界を知らないと、見習いになるんだと?とおもって、首をかしげた。
「ご主人様、すみませんが、その説明では克人様は理解出来ませんよ」
横から、セロがいや、ルーレットがフォローしてくれた。
「克人様、この世界では、子供の頃から何かしらの職業についているのです。私の場合は従者、ご主人様の場合は魔法使い、カフェのマスターの二つになります」
「え、職業って同時に二つなれるんですか?」
 ルーレットは待ってましたとばかりに答え始めた。
「はい。兼業という言葉があるように可能です。ただし、幾つかの条件をクリアーしなければならないので必ずしもというわけではありません」
 つまり、条件さえクリアーすれば兼業できるわけだ
「そこのところは細かいのでいずれお教えします。さて、おそらく、職業なら何にでもなれるんじゃないかと思っていませんか?確かになれますが、一番オーソドックスなのが、そして一番早く職業を習得できるのがアプレンティス、つまり見習いなんです」
 つまり、見習いが一番手っ取り早いからということか。ルーレットはぼくが納得したような顔をしたからなのかにっこり笑った。
「克人様は物分かりが早くて助かります。あなたが住んでいるあちらでも、こうして話せるといいのですが、向こうではこの姿になれず、声を出すのにも魔力が安定しているところでないと使えないので、できるだけ短い言葉でしか話せないのです」




 その後もルーレットのおかげで幾つかのことがわかった。
まず、この国では、12歳になると魔術学校に入学できること。
そして、カフェのマスターという職業についている人は、この世界には数えるほどしかいないということ。

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