契約の森 精霊の瞳を持つ者
5
「復讐ってそんな……わざとぶつけたわけじゃないんだ。コダもきっと、このことを知れば反省するから」
タカオがコダをかばおうとするけれど、コズエはそんなことは聞いていなかった。
「そうと決まったら、あいつらの後を追わなきゃ。どうせ向かう途中だったんでしょ。よし、行くぞ!タカオ!」
コズエはタカオの名前も知っていたようで、意気揚々とそう言うと、座るのをやめて、タカオの頭にしがみついた。
「いや、でも」
タカオは何か言おうとしても、コズエはまったく聞いていない。鼻歌を口ずさむばかりだった。
ーー本人に直接謝らせるしかないかもしれない。
その謝罪をコズエが聞くか、それが一番の問題だけれど。
ーーコズエ達って、どれくらいの数を集めてるんだろう。
聞いても答えてくれそうにないので、タカオは仕方なく、サーカス墓場を目指すことにした。まずは倒れた大木を探すために歩き出す。
しばらくすると、鼻歌を口ずさむことに飽きたのか、頭の上でコズエが声をかける。
「たしか、旅には連れていってもらえないんだよね?なのになんで、タカオはこそこそ、後を追ってるんだ?まさかタカオも、復讐か!?」
コズエは同志を見つけたと思ったのか、嬉しそうにしている。タカオは、コズエは本当に何でも知っているんだなと驚くばかりだった。目の前をふさぐ木々の枝を押しのけながら、やっとのことで答えた。
「違うよ。復讐じゃない。一緒に旅はできないみたいだから、後を追って、ピンチになったら助けようと思うんだ!何ができるかは分からないけど」
それを聞くとコズエは感心したようにうなずいた。
「なるほど、背後を狙うってことか。なんて姑息なんだ。でもその手は使えるな」
「だから、そうじゃないって」
タカオがどんなに否定しても、コズエはもう復讐をすること以外は頭にないようだった。タカオは諦めて先を急ぐ。
何かあった時に助けるために後を追うつもりが、なぜか、復讐を企む者を頭に乗せて近づくなんて、どうかしている。そうは思ったけれど、コズエを頭から振り払うなんてことはできそうになかった。とても可愛らしかったから。それに、コダはちゃんとコズエに謝るべきだとも考えていたからだ。
ーー今できることがあるとすれば、復讐ということから少し離れないと。
「なぁ、コズエは、森の記録をとってるって言ってたけど、誰よりも森に詳しいってことなのか?」
「僕たちはどんなことでも知っている。でも、知らないこともある。エントだって知らないことがあるのと同じだ。エントの知らないことを、僕たちが知り、僕たちの知らないことを、エントが知っている」
そう言うと、コズエは悲しそうにぽつりと言った。
「昔はよくエントと話をした。今はもう、できない」
タカオは正直、コズエの言っていることがよく分からなかった。とにかく、エントと話ができないことを悲しんでいるということだけは理解した。
ーーあんな遠いところにエントがいたら、簡単におしゃべりしに行けないもんな。
タカオはそう思っていた。
「エントとのおしゃべりは楽しいだろうな。エントは昔、どんな話をしてたんだ?」
「色々なことだよ。エルフ達のこと、精霊達のこと、ドワーフのこと。僕たちの見聞きしたことと照らし合わせて、それを記録していく。でもここ100年は、僕たちの見聞きしたことしかない」
コズエは途中まで楽しそうに話していたけれど、後半はまた、悲しみに暮れているように、声が沈んでいく。
タカオは慌てて、楽しそうに話していた部分に戻ろうとする。
「それじゃあ、よかったら教えてくれないか?エルフ達や精霊のこと」
コズエは少し考えたあと、「復讐を手伝わせるし、それくらい、いっか」そう言って話し出すことにした。けれど話し出す前にこう付け加えた。
「ただし、僕の話の邪魔をしたら、大変なことになるからな」
そう言って、歯をがちがちと鳴らす。どうやら噛みつくつもりらしい。タカオは絶対に口を挟むまいと、うなずいた。
タカオがコダをかばおうとするけれど、コズエはそんなことは聞いていなかった。
「そうと決まったら、あいつらの後を追わなきゃ。どうせ向かう途中だったんでしょ。よし、行くぞ!タカオ!」
コズエはタカオの名前も知っていたようで、意気揚々とそう言うと、座るのをやめて、タカオの頭にしがみついた。
「いや、でも」
タカオは何か言おうとしても、コズエはまったく聞いていない。鼻歌を口ずさむばかりだった。
ーー本人に直接謝らせるしかないかもしれない。
その謝罪をコズエが聞くか、それが一番の問題だけれど。
ーーコズエ達って、どれくらいの数を集めてるんだろう。
聞いても答えてくれそうにないので、タカオは仕方なく、サーカス墓場を目指すことにした。まずは倒れた大木を探すために歩き出す。
しばらくすると、鼻歌を口ずさむことに飽きたのか、頭の上でコズエが声をかける。
「たしか、旅には連れていってもらえないんだよね?なのになんで、タカオはこそこそ、後を追ってるんだ?まさかタカオも、復讐か!?」
コズエは同志を見つけたと思ったのか、嬉しそうにしている。タカオは、コズエは本当に何でも知っているんだなと驚くばかりだった。目の前をふさぐ木々の枝を押しのけながら、やっとのことで答えた。
「違うよ。復讐じゃない。一緒に旅はできないみたいだから、後を追って、ピンチになったら助けようと思うんだ!何ができるかは分からないけど」
それを聞くとコズエは感心したようにうなずいた。
「なるほど、背後を狙うってことか。なんて姑息なんだ。でもその手は使えるな」
「だから、そうじゃないって」
タカオがどんなに否定しても、コズエはもう復讐をすること以外は頭にないようだった。タカオは諦めて先を急ぐ。
何かあった時に助けるために後を追うつもりが、なぜか、復讐を企む者を頭に乗せて近づくなんて、どうかしている。そうは思ったけれど、コズエを頭から振り払うなんてことはできそうになかった。とても可愛らしかったから。それに、コダはちゃんとコズエに謝るべきだとも考えていたからだ。
ーー今できることがあるとすれば、復讐ということから少し離れないと。
「なぁ、コズエは、森の記録をとってるって言ってたけど、誰よりも森に詳しいってことなのか?」
「僕たちはどんなことでも知っている。でも、知らないこともある。エントだって知らないことがあるのと同じだ。エントの知らないことを、僕たちが知り、僕たちの知らないことを、エントが知っている」
そう言うと、コズエは悲しそうにぽつりと言った。
「昔はよくエントと話をした。今はもう、できない」
タカオは正直、コズエの言っていることがよく分からなかった。とにかく、エントと話ができないことを悲しんでいるということだけは理解した。
ーーあんな遠いところにエントがいたら、簡単におしゃべりしに行けないもんな。
タカオはそう思っていた。
「エントとのおしゃべりは楽しいだろうな。エントは昔、どんな話をしてたんだ?」
「色々なことだよ。エルフ達のこと、精霊達のこと、ドワーフのこと。僕たちの見聞きしたことと照らし合わせて、それを記録していく。でもここ100年は、僕たちの見聞きしたことしかない」
コズエは途中まで楽しそうに話していたけれど、後半はまた、悲しみに暮れているように、声が沈んでいく。
タカオは慌てて、楽しそうに話していた部分に戻ろうとする。
「それじゃあ、よかったら教えてくれないか?エルフ達や精霊のこと」
コズエは少し考えたあと、「復讐を手伝わせるし、それくらい、いっか」そう言って話し出すことにした。けれど話し出す前にこう付け加えた。
「ただし、僕の話の邪魔をしたら、大変なことになるからな」
そう言って、歯をがちがちと鳴らす。どうやら噛みつくつもりらしい。タカオは絶対に口を挟むまいと、うなずいた。
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