契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

3

 見れば見るほど、それは本当に手だった。けれど、見えるのは手だけで、あとは草木に覆われている。

「うそだろ」

 そう呟いたとき、ようやく、この状況を受け入れるしかなくなった。覆われている草木の中から、うめき声が聞こえるのだ。

「だ、大丈夫か!?」

 タカオは声をかけながら、草木をどかそうとする。けれど、どかしたところに新たな草木が一瞬で現れる。何度やってもそれを繰り返すだけだった。これではきりがないと思った時だった。

「コズエか。弱っているみたいだな」

 顔を上げると、ウェンディーネが泉に現れていた。

「コズエって、たしか、森で生活しているってコダが話してた……」

 タカオは、ルースとコダが話していたことを思い出していた。

 ウェンディーネは草に覆われたままのコズエに何かを囁く。すると、声が聞こえたようで、草木の中から驚いたような声が響く。

「ウェンディーネ!」

 草木はあっちにいったりこっちにいったり、時々絡まってどうにもならなくなったりしながら、元の場所に戻ろうとしている。今はコズエの真っ赤な髪が見えたところだ。

 コズエの真っ赤な髪は、短くぼさぼさで、その髪から耳が見えている。

ーー耳が尖ってる。

 そう驚きながら、タカオは確認するように自分の耳を触る。いつもの耳の形だったので、内心ほっとしていた。

 タカオは初めて見たコズエに興味津々だった。草木が完全になくなると、コズエの体の大きさにも驚いていた。とても小さくて、タカオの頭一個分ほどの大きさしかない。

 コズエはふらふらとしながら立ち上がった。小さな顔や小さな手に似合わず、何枚も着込んだように洋服はもこもことしている。

ーーコズエは妖精なのかな。あの服なら転んでもクッションになりそうだから安全だ。

 目が離せないほど、コズエは可愛らしかった。それと同時にどこか弱々しい印象もあって、タカオは勝手に心配をしはじめていた。

 コズエはウェンディーネを見上げてほっとしたような顔をして言った。

「よかった。近くまで行くつもりが、途中で動けなくなっちゃって」

 コズエは痛そうに耳を触ると、その手に赤い血がべたりとついていた。見れば、頭の横の辺りを怪我しているようだ。

「いったいどうして、こんな怪我をしたんだ?もしかしてレッドキャップに……」

 タカオは驚いてそう言いかけた。

 近くにくるようにウェンディーネが手招きすると、コズエはウェンディーネに倒れこむように身を任せた。彼女はすぐにその傷を治していく。

 こんなに小さくてか弱い妖精まで襲うとは、なんて卑劣なんだとタカオが考えていると、コズエはぱちりと目を開けて答えた。

「グレイス・コダ。あいつにやられたんだ」

 タカオは聞き間違いかと思ったけれど、ウェンディーネの驚いた顔を見るかぎり、聞き間違いではないとすぐに理解した。

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