契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

15

 タカオ達がユミルの家に着くと、食事はもう始まっていた。トッシュはもうお酒を呑みながらライルと話し込んでいる。子供達もそれぞれに食べたいものをよそい、空になった大皿もいくつかあった。

 イズナは空になった大皿をみつめて、残念そうに呟いていた。

「タカオを迎えにいってなければ……」

 レノはイズナに気が付くと、キッチンからイズナ用のお皿を持ってきた。色々な料理が一つのお皿に収まっている。色とりどりに飾り付けられていてとても美味しそうだった。

「イズナだけずるいー!」

 ジェフがうらやましそうにそう叫ぶ。レノは楽しそうに言う。

「あら、みんな同じものを食べたでしょう?」

 みんなとは違うものがいくつかあったけれど、タカオがいることに気が付くと、ジェフはそんなことは忘れてしまった。

 イズナは満足そうに、用意された飲み物と料理に手をつけた。

「タカオ!やっときた!明日が最後なのに、どこにいってたの?」

 ジェフがかけよると、シアもタカオのそばに行った。タカオはあの不思議な鍵を服の中にしまいこんでいたので、あの場にいた者以外は、鍵については気が付かなかった。

「そうだよ!楽しみに待ってたのに、来ないからもう食べ始めてたんだから!ほら、これ食べて。ユミルさんとママが用意したの」

 そう言ってジェフとシアに挟まるようにタカオは席についた。

 トッシュもタカオに気が付くと、酔っぱらってフラフラなのに立ち上がった。ライルはトッシュが倒れないか心配そうにそわそわとしていた。

「おお!ついにきたか!それじゃあ、やっと始められるな!みんなお酒を……子供達はジュースを!わかってるな!それじゃあ…………乾杯!!」

 もうだいぶ酔っぱらっているようで、トッシュはそう言ったあと椅子に座り、そのままお皿の上に顔を突っ込んで寝てしまった。ライルとは反対側のトッシュの隣に座っていたコダは迷惑そうな顔をしている。

 みんなの笑い声があたりを包んでいた。

 気が付けば、周りの庭でも食事が始まり、ユミルの家の近くの水の上では、ランタンを灯したボートの上でそれぞれに宴が始まっていた。誰かが音楽を奏で、それにあわせて歌声が響く。ルースとウィルもそこに混ざって楽しそうだ。

 みんなボートの上から声をかけたり、それぞれの料理を交換したり、デザートや、お酒もボートからボートへ、ユミルの庭からボートへと移動する。

 それぞれの家の料理を食べながら、「なんて幸せなんだろう」とタカオは呟いていた。風は冷たいけれど、そんなことを忘れるくらい、楽しかったのだ。

 コダもグリフも、なんだかんだで楽しそうだし、イズナは食事をしながらデザートを選んでいるし、ジェフとシアは自分達の話を延々とタカオに話していた。

ーー明日、グリフ達は森の奥に向かう。

 そのことさえ考えなければ、どれほど素晴らしいだろう。タカオはそう思いながら、この楽しい夜のことを、絶対に忘れないと心の内で誓っていた。

「契約の森 精霊の瞳を持つ者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く