契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

3.

 村の奥には、ウェンディーネの湖に続く道がある。道は細く、両側から草花が生い茂り、草を避けるか、手でどけるかしないと通ることはできない。


 つい最近まで、その道に続く門は閉ざされていた。誰もその道を通ることは許されなかった。闇の者が待ち受けている可能性があったためだ。


 今ではウェンディーネの力によって、村同様に守られている。それでも、好き勝手に通ることができるわけではない。門の鍵はトッシュが持ち、決められた者以外は相手にもされない。


 ただし、例外はある。たとえば、その門を飛び越えてしまう者には、トッシュの決まりごとなど、なんの意味もなかった。


「楽勝だな」


 コダはそう言うと、自分の身長の倍はある門の横の塀をよじ登って超えていく。塀の向こうに着くと、道にはうっすらと霧がかかっていて視界が悪い。道から外れれば村に戻ってくることは難しいだろう。コダは冒険心を抑えて、道なりに進むことにした。


 コダが先へ進もうとすると、ちょうど目の前にグリフが降りてきたところだ。音もなく着地すると、コダに気がつく。


「お前もか」


 グリフがそう言う中、コダはグリフよりも先に歩いた。道幅は1人分しかない。


「俺はただの探検だ。こっちから湖に行ったことないからな。で、お前は?」


 コダは足取りも軽く進んで行く。グリフは何も言わずにそれに続く。


「聞くまでもないか」


 何も言わないグリフに、コダはそう言って、手でよけた草から手を離す。草は元の場所に戻り、グリフの目の前をふさいだ。


「俺も探検だ」


 グリフは不機嫌そうに言って、雑に草をどけると、にやけ顔のコダが振り返っていた。


「ウソつけ」


 コダは振り返ったまま歩き、そう早口で言う。


「余計なこと考えてると転ぶぞ」


 グリフは呆れながら言う。コダは木の根に足を取られて微かに転びそうになりながら、相変わらず振り返ってはにやにやしている。


 グリフは面倒くさくなったのか、コダの前から姿を消した。


「あれ、おーい」


 コダは後ろ歩きをしながら、今来た道のずっと向こうまで見るけれど、グリフの姿はない。前に向き直ると、グリフは道の先にいるのがうっすらと見えた。


「おい!俺が先だろ!」


 そう言うとグリフを追いかけて、追い越そうとする。けれど道幅は狭く、草や枝が飛び出て追い越せない。


「お前が遅いのが悪いんだろ」


 グリフも手をだして先へ行かせまいとする。どちらが先に行くかでもめながら、しばらくケンカしながら歩いた。1人しか歩けないはずの狭い道を、結局2人で歩いているせいで、2人の通ったところはあたりの草と奥の木々までゆれて騒々しい。

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