契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

37.

 ルースは新たな覚悟を抱いて、シアを見つめている。


 ライルはシアにゆっくりと近づく。柔らかな風に巻き込まれながら、ライルとウィルは不安げな表情を隠せない。


「シア、説明してくれ。どうして風の力を使えるんだ」


 シアは風の力を使うのをやめる。あたりは静かになって誰もがその答えを知りたがっていた。シアの視線は、ライルを通り超したルースに向かっていた。ライルもウィルもそれに気がつくと振り返る。


「ルースが、何か関係してるのか」


 ウィルは眉間に皺を寄せている。
 シアはルースを見つめたまま話し始めた。


「最初は、もしかしたらって思ってただけだったの。でもシアンが戻ってきてから、すぐに気がついた」


 そう言うと、首から下げていたルースから貰った石を取り出す。


ライルはすぐにその石を手にとる。ウィルが息を飲む音が微かに聞こえていた。


「どこでこれを?シアとシアンには、ウッドエルフのお守りのことは話してないんだ」


 ライルはシアに聞きながら、同時にウィルにも話しかけていた。ウィルに振り返ると、彼はさらに眉間の皺を深くして何か言おうと口を開きかけている。その顔は見るからに怒りが沸き起こっている。


 ライルはその瞬間に、ウィルがルースに怒っている理由をやっと気がついた。


 ウィルよりも先に、声を上げたのはシアだった。


「あの戦いのなかで、私は心を失いかけてたの。でもルースが私にその心をくれた。信じる心よ」


 シアはその石を大切そうに握りしめて、首からその石を外す。


「でも、これは返さなきゃ。ルースがどれだけ大切にしていたものなのか、すごく伝わるの。きっと、ルースだけじゃない。もっとたくさんのウッドエルフの想いが込められてる。この石から生まれる風は、風の精霊様だけの力だけじゃないと思う。だから、シアンの起こす風とは全然ちがう」


 話を聞くうちに、ウィルの顔からは怒りが消えていた。今は、ずっと昔にみた光景を思い出しているようだった。


「それは、俺の親父がじいさんから受け継いで、じいさんはもっと前のじいさんから受け継いで、そうやって、繋いできたもんだ。ウッドエルフの中でも、うちは随分古くからある」


 シアはウィルの言葉に頷くと、ルースの元へ行き、石を差し出す。


「ルース。ありがとう。この石がなかったら、きっと私、精霊様のことを信じられずに、ウッドエルフではいられなかったかもしれない。でももう大丈夫だから」


 シアは笑顔でそう言う。けれどルースは首を振る。その瞳の中には、石を目の前にしてどちらをとるかまだ揺れているようでもあった。けれど、ウィルを見つめて、その答えを決めたようだった。


 ウィルはルースの様子をみて、何を言い出すか分かったのか、怒鳴り声を響かせる。


「ルース!!シアから石を受け取るんだ。それは代々伝わる……」


 けれど、ルースの心はもう揺れない。


「それはシアにあげたものだ。返してもうらう必要はないよ」


 ウィルが怒鳴りながら近づくなかで、シアは困惑しながら、もう一度石を差し出した。


「でも、これは大切なものでしょ?もらえないよ。これはルースの心そのものだもん。これを貰ってから、この石と一緒にルースの大切な心まで私に渡しちゃったんじゃないかって心配なの」


 そう差し出すシアの手から、ウィルは自分で奪おうと手を伸ばす。


 けれどルースが差し出しされたシアの手を握りしめた。



「契約の森 精霊の瞳を持つ者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く