契約の森 精霊の瞳を持つ者
33.
「あれ、ルース?何してんだー!」
コダを引っ張り上げると、壊れた屋根の穴からルースが見え、タカオは声をかける。
「昼飯届けろって言われてさー!」
そう言って手に持った籠を持ち上げる。
コダはやっと這い上がった屋根の上で、息を切らせていた。
「危なっ!危なかった!普通に落ちるかと思った」
そう言って、今では屋根に張り付いている。
「直すとこ、そこだったんだな……」
いまさら修理する場所を見つけて、タカオはそう呟いた。ルースが屋根に上がってくると、同じように開いた穴を見つめて、遠慮がちに聞いた。
「雨漏り、直してたんだよね?」
コダは当たり前だと威張って、ルースから籠を奪う。
「分からないか。直すために壊したんだ」
意味の分からないことを、いつもよりも低い声で言うと、コダは早すぎる昼食をとり始めた。
「へ、へぇー」
ルースは全く理解できない様子で立ちすくし、グリフとイズナは呆れて何も言わなかった。
「実は、コダが暴れて屋根が抜け」
タカオが可笑しそうに言いかけると、コダはものすごい勢いで手に持ったサンドイッチをタカオの口に押し込む。タカオは何も喋れず、もごもごとコダに何かを訴えているけれど、何も伝わらなかった。
「あぁ、そんなに美味いか、美味いなぁ!サンドイッチ」
何も喋れないのをいいことに、コダは適当に相槌を打ちながら、自分もサンドイッチを頬張る。
グリフとイズナはそんなやりとりを横目で見ながら、見事に壊れた屋根から屋根裏をのぞいている。
「コダ……お前って奴は」
タカオがやっと喋れるようになったころ、コダは違う方向を見ながらルースに突然聞いた。
「で、なんで殴られたんだ?ルース」
突拍子のないコダの言葉にタカオはついていけず、一瞬止まったあと、ルースをまじまじと見つめた。もうほとんど腫れは引いていたけれど、片方の頬が赤い。確かによく見ればうっすらと手形のようだ。
「何があったんだ」
タカオはルースの顔と同じ高さになる。痛かっただろうとタカオは心配する。
「別に、大したことじゃないし!腫れならそのうち引くから」
ルースは笑顔でそう答えると、けらけらと笑っている。
「でも……」
頬の手形から見ても、子供同士のケンカとは思えなかった。タカオは自分が殴られたように痛い顔をする。そんなタカオを見て、ルースは話を早々に終わらせようとした。
「もう、終わったことだから。大丈夫」
そのルースの瞳の中には光が溢れて、清々しいほど澄んで見えた。何があったのかは分からないけれど、ルースにとっては、前に進むためのことだったのかもしれない。
そう思うと、これ以上は聞けなかった。
「話したいことがある時は、いつでも聞くよ」
タカオはそう言うのが精一杯だ。ルースは照れくさそうに頷くと、思い出したように話を変えた。
「そういえば、タカオはどこに泊まってんの?今朝、宿に行ったらグリフとジェフしか泊まってないって言われてさ」
宿があるなんて初耳だ。タカオはそう思いながら答える。
「馬小屋だよ」
馬小屋ときいて、ルースは冗談だと決めつけて笑っている。
「意外と快適なんだ……」
そこまで言うと、やっと本当のことだと分かったようで、勢いよく聞き返す。
「なんで馬小屋?!宿にはもう一部屋あるのに」
ルースがそう言うとコダが手に持ったサンドイッチを口に放り込んで、もごもごしたまま話す。
「先客がいたんだ。部屋は一部屋しか空いてなかった」
グリフを見ると、そうだと頷いている。
「コダ以外にも、森を旅する奴なんているんだな」
その先客はコダやグリフのように強いのだろう。でなければ、森を旅するなんて出来ないはずだ。
「森を旅するなんて、ここにいるメンバーか、コズエ達くらいだよ」
ルースがそう言うと、コダも頷く。
「まぁ、あっちは旅っていうか……。森の中で生活してるからなぁ」
「コズエ達って?」
知らない名前が出てきて、タカオはルースに聞き返す。
「じゃあ、誰が泊まってんだろ?」
ルースは大きな疑問に頭をフル回転させているせいで、タカオの声は耳に入らないようだった。
「コズエ達って?」
タカオは再び聞いてみる。すると、何かに気がついたルースは急にタカオ押しのけて、屋根の端まで走っていく。
「あそこにいるの、シアとシアンだ!」
ルースの声は大きく村の中に響いた。下にいた者達は声につられて、タカオ達のいる屋根に注目したほどだった。
コダを引っ張り上げると、壊れた屋根の穴からルースが見え、タカオは声をかける。
「昼飯届けろって言われてさー!」
そう言って手に持った籠を持ち上げる。
コダはやっと這い上がった屋根の上で、息を切らせていた。
「危なっ!危なかった!普通に落ちるかと思った」
そう言って、今では屋根に張り付いている。
「直すとこ、そこだったんだな……」
いまさら修理する場所を見つけて、タカオはそう呟いた。ルースが屋根に上がってくると、同じように開いた穴を見つめて、遠慮がちに聞いた。
「雨漏り、直してたんだよね?」
コダは当たり前だと威張って、ルースから籠を奪う。
「分からないか。直すために壊したんだ」
意味の分からないことを、いつもよりも低い声で言うと、コダは早すぎる昼食をとり始めた。
「へ、へぇー」
ルースは全く理解できない様子で立ちすくし、グリフとイズナは呆れて何も言わなかった。
「実は、コダが暴れて屋根が抜け」
タカオが可笑しそうに言いかけると、コダはものすごい勢いで手に持ったサンドイッチをタカオの口に押し込む。タカオは何も喋れず、もごもごとコダに何かを訴えているけれど、何も伝わらなかった。
「あぁ、そんなに美味いか、美味いなぁ!サンドイッチ」
何も喋れないのをいいことに、コダは適当に相槌を打ちながら、自分もサンドイッチを頬張る。
グリフとイズナはそんなやりとりを横目で見ながら、見事に壊れた屋根から屋根裏をのぞいている。
「コダ……お前って奴は」
タカオがやっと喋れるようになったころ、コダは違う方向を見ながらルースに突然聞いた。
「で、なんで殴られたんだ?ルース」
突拍子のないコダの言葉にタカオはついていけず、一瞬止まったあと、ルースをまじまじと見つめた。もうほとんど腫れは引いていたけれど、片方の頬が赤い。確かによく見ればうっすらと手形のようだ。
「何があったんだ」
タカオはルースの顔と同じ高さになる。痛かっただろうとタカオは心配する。
「別に、大したことじゃないし!腫れならそのうち引くから」
ルースは笑顔でそう答えると、けらけらと笑っている。
「でも……」
頬の手形から見ても、子供同士のケンカとは思えなかった。タカオは自分が殴られたように痛い顔をする。そんなタカオを見て、ルースは話を早々に終わらせようとした。
「もう、終わったことだから。大丈夫」
そのルースの瞳の中には光が溢れて、清々しいほど澄んで見えた。何があったのかは分からないけれど、ルースにとっては、前に進むためのことだったのかもしれない。
そう思うと、これ以上は聞けなかった。
「話したいことがある時は、いつでも聞くよ」
タカオはそう言うのが精一杯だ。ルースは照れくさそうに頷くと、思い出したように話を変えた。
「そういえば、タカオはどこに泊まってんの?今朝、宿に行ったらグリフとジェフしか泊まってないって言われてさ」
宿があるなんて初耳だ。タカオはそう思いながら答える。
「馬小屋だよ」
馬小屋ときいて、ルースは冗談だと決めつけて笑っている。
「意外と快適なんだ……」
そこまで言うと、やっと本当のことだと分かったようで、勢いよく聞き返す。
「なんで馬小屋?!宿にはもう一部屋あるのに」
ルースがそう言うとコダが手に持ったサンドイッチを口に放り込んで、もごもごしたまま話す。
「先客がいたんだ。部屋は一部屋しか空いてなかった」
グリフを見ると、そうだと頷いている。
「コダ以外にも、森を旅する奴なんているんだな」
その先客はコダやグリフのように強いのだろう。でなければ、森を旅するなんて出来ないはずだ。
「森を旅するなんて、ここにいるメンバーか、コズエ達くらいだよ」
ルースがそう言うと、コダも頷く。
「まぁ、あっちは旅っていうか……。森の中で生活してるからなぁ」
「コズエ達って?」
知らない名前が出てきて、タカオはルースに聞き返す。
「じゃあ、誰が泊まってんだろ?」
ルースは大きな疑問に頭をフル回転させているせいで、タカオの声は耳に入らないようだった。
「コズエ達って?」
タカオは再び聞いてみる。すると、何かに気がついたルースは急にタカオ押しのけて、屋根の端まで走っていく。
「あそこにいるの、シアとシアンだ!」
ルースの声は大きく村の中に響いた。下にいた者達は声につられて、タカオ達のいる屋根に注目したほどだった。
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