契約の森 精霊の瞳を持つ者
31.
「それにしても、どこを修理したらいいんだ……」
のんきに寝転ぶコダの横でタカオは途方にくれていた。
「まぁ、こんなことを俺とお前に頼んだこと自体が間違いなんだ。気にするな。……イズナに捕まらなけりゃあ、こんな目には合わなかったんだけどな。朝といい、今さっきも」
「結局何もしてない奴がよく言うよ」
ユミルの家を出てから、イズナに捕まったのだろう。あのイズナの足の速さならどこに逃げても無意味だ。それでも何も気にせずサボっている。このあっけらかんとしたコダの横顔を見ると、タカオは羨ましくなる。
タカオはコダの横に座り込む。朝早くからコダの姿が見えなかったのは、これから逃げようとしていたのだろう。
コダは基本的に自分のことしか考えていないけれど、グリフがライルを気遣っているのはタカオにはよく分かった。見えないところで支えようとしている。
「なぁ、コダ。どうしてグリフは急にあんなこと言ったんだろう」
「さぁな」
とぼけるコダに、タカオは疑いのまなざしを向ける。コダは頭をかくと面倒臭そうな声をだした。
「俺がグリフに何か言ったんじゃないかって疑ってんなら、そう言えよ」
タカオはユミルの家でのやり取りを見て、グリフの言動はコダが原因だと思っていた。
「じゃあ、何を言ったんだよ」
コダは相変わらず寝転んだまま、冷たく言う。
「どうせ、グリフに理由を聞いたものの、あいつ何も言わないから俺に聞いてるんだろう。女々しい奴だな。おまえ」
ケンカでもしたいのか、コダは挑発する。けれどタカオにはそんな挑発は効きもしない。
「そうやって、人を怒らせてはぐらかそうとしてるなら無意味だぞ」
コダを見つめたまま、タカオは身動きひとつ取らなかった。グリフはきっと何も喋らないだろう。そういう性格なのは、タカオにも分かり始めていた。グリフが喋らないなら、コダに聞く以外に今回のことを知る手がかりはない。
タカオは今日1日コダに張り付いてようかと考え始めていた。そんな異様な気配に気がつき面倒くさくなったのか、コダは起き上がる。
「分かったよ。じっとり見てくんな。気持ち悪ぃ……グリフには、このまま旅をすれば、いつかタカオは死ぬって、そう言ったんだ。俺達だけで守れるとは思えないってな」
「それだけか?」
コダがグリフに言ったことを聞いても、タカオには納得できなかった。
「そんなこと、俺だけじゃなくて、コダだって、ジェフとイズナも同じだろ」
全員が危険な森に踏み込んでいる。死の危険はタカオだけではないはずだ。
「グリフにとって、お前は特別だってことは自覚してるよな。だからあいつが旅に連れて行かないって言った時も、大したことじゃないと思ってたはずだ」
コダは意外にも、グリフが言ったことに対してどんな反応をするのか見ていたらしく、タカオは急に心の内側を覗かれたような気がしてひやりとした。
「それは、そうだけど」
グリフには嫌われながらも、王子の亡霊のような自分は特別なんだという自覚がタカオにはあった。
ーー話せばいくらでも解決できると思ってた。
実際は、取りつく島もなくて、焦りからグリフに酷いことを言い捨ててきたばかりだ。それは甘えからだったと、さらに後悔が深まる。
「誰も王子の最後も見てないんだ。だからまだどこかにいるんじゃないかって思える。俺やほとんどの奴はもういないって諦めてるけど、グリフはまだ、そうは思ってない」
コダは使い道の分からない工具を空に投げて、見事にキャッチする。下手をしたら頭に激突して酷い怪我をしそうだと、タカオはハラハラしながらそれを見ていた。
「あいつは怖いんだよ。お前と王子が別人だろうが、そっくりなお前がもし死ねば、王子は死んだと、もう2度と戻ってこないと、現実を見なきゃいけなくなる。今のあいつじゃ、精霊同士の戦いになった時、盾にもなれないって自覚してるからな」
タカオは森へと視線を漂わせる。風が出てきて、木の葉の塊を揺さぶる。
「グリフにとって、お前が特別なわけじゃない。王子が、あいつの生きることの全てだったから、もし、現実を受け入れたら、あいつまでいなくなっちまう気がする」
コダの投げた工具は高く投げられた。森から風がでて、こちらに向かっているのをタカオは見ていた。
工具はコダに落ちてくると、コダの伸ばした手の位置からずれ、顔の前で止まった。それはタカオの手によって止められていた。
「お前も、怖いんだな。コダ」
タカオは掴んだ工具を箱にしまうと、蓋をする。コダは伸ばした手をゆっくりと下ろして、目を逸らした。
のんきに寝転ぶコダの横でタカオは途方にくれていた。
「まぁ、こんなことを俺とお前に頼んだこと自体が間違いなんだ。気にするな。……イズナに捕まらなけりゃあ、こんな目には合わなかったんだけどな。朝といい、今さっきも」
「結局何もしてない奴がよく言うよ」
ユミルの家を出てから、イズナに捕まったのだろう。あのイズナの足の速さならどこに逃げても無意味だ。それでも何も気にせずサボっている。このあっけらかんとしたコダの横顔を見ると、タカオは羨ましくなる。
タカオはコダの横に座り込む。朝早くからコダの姿が見えなかったのは、これから逃げようとしていたのだろう。
コダは基本的に自分のことしか考えていないけれど、グリフがライルを気遣っているのはタカオにはよく分かった。見えないところで支えようとしている。
「なぁ、コダ。どうしてグリフは急にあんなこと言ったんだろう」
「さぁな」
とぼけるコダに、タカオは疑いのまなざしを向ける。コダは頭をかくと面倒臭そうな声をだした。
「俺がグリフに何か言ったんじゃないかって疑ってんなら、そう言えよ」
タカオはユミルの家でのやり取りを見て、グリフの言動はコダが原因だと思っていた。
「じゃあ、何を言ったんだよ」
コダは相変わらず寝転んだまま、冷たく言う。
「どうせ、グリフに理由を聞いたものの、あいつ何も言わないから俺に聞いてるんだろう。女々しい奴だな。おまえ」
ケンカでもしたいのか、コダは挑発する。けれどタカオにはそんな挑発は効きもしない。
「そうやって、人を怒らせてはぐらかそうとしてるなら無意味だぞ」
コダを見つめたまま、タカオは身動きひとつ取らなかった。グリフはきっと何も喋らないだろう。そういう性格なのは、タカオにも分かり始めていた。グリフが喋らないなら、コダに聞く以外に今回のことを知る手がかりはない。
タカオは今日1日コダに張り付いてようかと考え始めていた。そんな異様な気配に気がつき面倒くさくなったのか、コダは起き上がる。
「分かったよ。じっとり見てくんな。気持ち悪ぃ……グリフには、このまま旅をすれば、いつかタカオは死ぬって、そう言ったんだ。俺達だけで守れるとは思えないってな」
「それだけか?」
コダがグリフに言ったことを聞いても、タカオには納得できなかった。
「そんなこと、俺だけじゃなくて、コダだって、ジェフとイズナも同じだろ」
全員が危険な森に踏み込んでいる。死の危険はタカオだけではないはずだ。
「グリフにとって、お前は特別だってことは自覚してるよな。だからあいつが旅に連れて行かないって言った時も、大したことじゃないと思ってたはずだ」
コダは意外にも、グリフが言ったことに対してどんな反応をするのか見ていたらしく、タカオは急に心の内側を覗かれたような気がしてひやりとした。
「それは、そうだけど」
グリフには嫌われながらも、王子の亡霊のような自分は特別なんだという自覚がタカオにはあった。
ーー話せばいくらでも解決できると思ってた。
実際は、取りつく島もなくて、焦りからグリフに酷いことを言い捨ててきたばかりだ。それは甘えからだったと、さらに後悔が深まる。
「誰も王子の最後も見てないんだ。だからまだどこかにいるんじゃないかって思える。俺やほとんどの奴はもういないって諦めてるけど、グリフはまだ、そうは思ってない」
コダは使い道の分からない工具を空に投げて、見事にキャッチする。下手をしたら頭に激突して酷い怪我をしそうだと、タカオはハラハラしながらそれを見ていた。
「あいつは怖いんだよ。お前と王子が別人だろうが、そっくりなお前がもし死ねば、王子は死んだと、もう2度と戻ってこないと、現実を見なきゃいけなくなる。今のあいつじゃ、精霊同士の戦いになった時、盾にもなれないって自覚してるからな」
タカオは森へと視線を漂わせる。風が出てきて、木の葉の塊を揺さぶる。
「グリフにとって、お前が特別なわけじゃない。王子が、あいつの生きることの全てだったから、もし、現実を受け入れたら、あいつまでいなくなっちまう気がする」
コダの投げた工具は高く投げられた。森から風がでて、こちらに向かっているのをタカオは見ていた。
工具はコダに落ちてくると、コダの伸ばした手の位置からずれ、顔の前で止まった。それはタカオの手によって止められていた。
「お前も、怖いんだな。コダ」
タカオは掴んだ工具を箱にしまうと、蓋をする。コダは伸ばした手をゆっくりと下ろして、目を逸らした。
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