契約の森 精霊の瞳を持つ者
21.
そうこうしている間に、ダイニングの扉が開き、ライルが戻ってきたところだった。
「あれ、タカオさんは?おかしな歌声は聞こえるのに」
ライルはきょとんとした顔で部屋の中を見渡し、話は一向に進まない気配を漂わせていた。
「バスルーム。シアとシアンは?」
グリフは一度レノを見据えてからライルに聞く。ライルもレノと同じように視線を逸らすと、さりげない様子で席についた。
「ああ、うん。夕方には帰るように言ってあるから」
「ふうん」
グリフの何かを探ろうとする視線を痛いほど感じながら、ライルはユミルから紅茶を受け取る。「いい香りですね」ユミルにそう言ってぎこちない笑顔を見せた。
紅茶を一口飲んだライルは、何かを思い出したように急に声を出した。
「そうだ!」
ライルはポケットの中からやっと探り出したものをグリフに差し出す。
「これ、役に立つだろうと思って」
ライルがグリフに渡したのは、いまにもちぎれてしまいそうなボロボロの紙きれだった。
「これって……?」
ジェフはパンケーキを口に入れたまま、グリフの後ろに回りこみ、それを覗く。グリフはまだライルのおかしな様子を気にしながら、その紙切れを慎重に広げていく。
そこには、どこかの建物の図面が手書きで丁寧に書かれていた。グリフはそれを見るなり、ただでさえ姿勢の良いその背筋をさらに正し、食い入るように見入る。
「秘密の、地下通路……」
その言葉にコダは機敏に反応し、今にも転びそうになりながらもグリフに近づく。ジェフの時とは違い、今度は床が抜けそうになりながらも、椅子ごとジャンプし執念で近づいた。
そして鼻息を荒げて、大声をだす。
「これって、俺の地図だ!」
コダが今にも椅子から立ち上がろうとグリフの横でがたがたと暴れている。確かに、地図の下のほうには幼い字で「グレイス・コダ」と名前が入っている。
「あのジジイ!ライルに渡してたのか!どうりで部屋に忍び込んでも見つからないはずだ!」
コダはのけぞると、得体の知れない、気味の悪いため息をはきだした。まるで魂まで出て行ってしまいそうだ。
「それって、グレイスが私たちにも見せてくれなかったやつ」
イズナも珍しく興味深そうに覗き込む。
「ジジイって誰のこと?ねー、誰のこと?」
その1枚の地図で、朝食どころではなくなったけれど、ライルだけはパンケーキを頬張り、紅茶の香りに癒されていた。
「エントのことをそんな呼び方して……」
ライルはそう言って、後の言葉を言わなかった。その代わりに、別のことを話した。
「グレイスなら目をつぶっていたって歩けるって。エントが言ってたんだ。それよりも、何かあったら役立てろってさ。信用していい。私の弟子だからって」
ライルは立ち上がると、コダの縄を解く。
「実際、その地図があったから、城に逃げ込んだエルフ達を逃すことができたんだ。王都のエルフ達や、護衛団を救ったのはお前なんだよ」
ライルはコダの肩を叩くと、席に戻り、食べかけのパンケーキを味わう。
「ジジイが、そんなことを……」
コダはその地図をグリフから受け取ると、ずっと昔にそうしていたように、紙の端を撫でた。
「エントって、なんだかんだ言っても、グレイスとケンカしてるのが1番楽しそうだった」
イズナは懐かしそうにその地図の隅々を見てそう呟いた。
「ああ、あんな馬鹿みたいなケンカができるのは、こいつくらいだな」
グリフは自分のことを棚に上げてそう言い、誰もが昔の思い出に引き込まれようとしていた。
気がつけば、タカオの鼻歌は聞こえなくなっていた。そうかと思うと、バスルームからガタガタと騒々しい音が聞こえ、ドタバタと急いでいるらしい足音が響く。
それからダイニングの扉が勢いよく開き、ろくに体を拭かないまま服を雑に着込んだタカオが立っていた。シャツはボタンをかけ間違い、髪からは水が滴り落ちる。
「大変なことが起こったんだ!」
そんな状態で、タカオの大声が響き渡った。
「あれ、タカオさんは?おかしな歌声は聞こえるのに」
ライルはきょとんとした顔で部屋の中を見渡し、話は一向に進まない気配を漂わせていた。
「バスルーム。シアとシアンは?」
グリフは一度レノを見据えてからライルに聞く。ライルもレノと同じように視線を逸らすと、さりげない様子で席についた。
「ああ、うん。夕方には帰るように言ってあるから」
「ふうん」
グリフの何かを探ろうとする視線を痛いほど感じながら、ライルはユミルから紅茶を受け取る。「いい香りですね」ユミルにそう言ってぎこちない笑顔を見せた。
紅茶を一口飲んだライルは、何かを思い出したように急に声を出した。
「そうだ!」
ライルはポケットの中からやっと探り出したものをグリフに差し出す。
「これ、役に立つだろうと思って」
ライルがグリフに渡したのは、いまにもちぎれてしまいそうなボロボロの紙きれだった。
「これって……?」
ジェフはパンケーキを口に入れたまま、グリフの後ろに回りこみ、それを覗く。グリフはまだライルのおかしな様子を気にしながら、その紙切れを慎重に広げていく。
そこには、どこかの建物の図面が手書きで丁寧に書かれていた。グリフはそれを見るなり、ただでさえ姿勢の良いその背筋をさらに正し、食い入るように見入る。
「秘密の、地下通路……」
その言葉にコダは機敏に反応し、今にも転びそうになりながらもグリフに近づく。ジェフの時とは違い、今度は床が抜けそうになりながらも、椅子ごとジャンプし執念で近づいた。
そして鼻息を荒げて、大声をだす。
「これって、俺の地図だ!」
コダが今にも椅子から立ち上がろうとグリフの横でがたがたと暴れている。確かに、地図の下のほうには幼い字で「グレイス・コダ」と名前が入っている。
「あのジジイ!ライルに渡してたのか!どうりで部屋に忍び込んでも見つからないはずだ!」
コダはのけぞると、得体の知れない、気味の悪いため息をはきだした。まるで魂まで出て行ってしまいそうだ。
「それって、グレイスが私たちにも見せてくれなかったやつ」
イズナも珍しく興味深そうに覗き込む。
「ジジイって誰のこと?ねー、誰のこと?」
その1枚の地図で、朝食どころではなくなったけれど、ライルだけはパンケーキを頬張り、紅茶の香りに癒されていた。
「エントのことをそんな呼び方して……」
ライルはそう言って、後の言葉を言わなかった。その代わりに、別のことを話した。
「グレイスなら目をつぶっていたって歩けるって。エントが言ってたんだ。それよりも、何かあったら役立てろってさ。信用していい。私の弟子だからって」
ライルは立ち上がると、コダの縄を解く。
「実際、その地図があったから、城に逃げ込んだエルフ達を逃すことができたんだ。王都のエルフ達や、護衛団を救ったのはお前なんだよ」
ライルはコダの肩を叩くと、席に戻り、食べかけのパンケーキを味わう。
「ジジイが、そんなことを……」
コダはその地図をグリフから受け取ると、ずっと昔にそうしていたように、紙の端を撫でた。
「エントって、なんだかんだ言っても、グレイスとケンカしてるのが1番楽しそうだった」
イズナは懐かしそうにその地図の隅々を見てそう呟いた。
「ああ、あんな馬鹿みたいなケンカができるのは、こいつくらいだな」
グリフは自分のことを棚に上げてそう言い、誰もが昔の思い出に引き込まれようとしていた。
気がつけば、タカオの鼻歌は聞こえなくなっていた。そうかと思うと、バスルームからガタガタと騒々しい音が聞こえ、ドタバタと急いでいるらしい足音が響く。
それからダイニングの扉が勢いよく開き、ろくに体を拭かないまま服を雑に着込んだタカオが立っていた。シャツはボタンをかけ間違い、髪からは水が滴り落ちる。
「大変なことが起こったんだ!」
そんな状態で、タカオの大声が響き渡った。
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コメント
ノベルバユーザー311774
面白かったです。いっきに読んしまいました。次、楽しみです。