契約の森 精霊の瞳を持つ者
20.
ユミルの家のダイニングでは朝食が始まっていた。
「タカオ来たの?」
ジェフはもう何枚目か分からないパンケーキに手をつけた。
「ええ、今バスルームに」
ユミルはそう言って、空になったジェフのコップにミルクをそそぐ。「ありがと」ジェフの短い言葉に重なるように、コダの不機嫌な声がグリフに向かっていた。
「そんなことより、この縄ほどけ」
コダは貧乏ゆすりをしながら、グリフを睨みつける。
「しばらくそうしてろ」
グリフの冷たい声が響くなか、イズナは席につくと、椅子にぐるぐると縄で固定されたコダをみて不思議そうに首を傾げた。
「なんで逃げようとしたの?グレイスって走るの遅いのに、逃げ切れるわけない」
「足が遅いってのは余計だろ!俺はお前達みたいに特別じゃないんだよ。ただのエルフだ。アルがいなきゃ、結局俺は何にもできない」
グリフはミルクを飲み干すと、コダに冷たい視線を投げた。
「……相変わらず、まだそんな事を言ってるんだな」
部屋中に不穏な空気が流れ始めたころ、開け放たれた窓から、バスルームで歌っているらしいタカオの下手くそな歌声が聞こえる。
鼻歌を通り越して、もう大声だ。本人は知らないのだろうが、丸聞こえな上に、調子外れのその歌声は、どうしようもなく間の抜けた空気に変えてしまった。
暖炉の前にいたレノは思わず吹き出し、ジェフも一気のみしたミルクを吹き出さないように口に手を当てている。
「あの野郎」
コダは呆れて、そう言ったあとうなだれた。
「賑やかで楽しいこと」
ユミルがにこやかにそう言って、紅茶を淹れる。イズナに渡すと、その香りが気に入ったのか幸せそうな顔をしていた。グリフはそっとそれを横目で見て、話を変えた。
「そう言えば、ライルは?」
グリフがレノにそう聞くと、彼女は一瞬困ったような顔をして、視線を逸らす。
「ええ、うん。ライルと子供達はちょっとね……」
グリフが追求しようとすると、ジェフの大声でかき消されてしまった。
「あーー!もうお祭りに行ってるんでしょ!僕には朝ごはんを食べてからだって言ったのにぃ!」
ジェフは不服そうに頬を膨らませて怒っている。コダはうなだれた顔を上げると、顔を突き出してジェフを叱った。
「いま集まっているのは、次の旅のことを話し合うためだろ。それともお前抜きで話を始めたら、それこそ後で文句言うんじゃないのか?」
ジェフは朝食の目的を思い出すと、怒っているような、納得したような、おかしな顔をしていた。
「そっか。分かった。でも、椅子にぐるぐるになってる奴に言われたくないっ」
ジェフはまだ半分は怒っているような様子で、テーブルの中央に置かれたパンケーキの山から数枚を自分のお皿に移した。コダは悔しがって何か言いたそうに椅子ごとジェフに向かおうと、がたがたとしていたけれど、やはり動けずうなだれた。
「仲良くしろよ。大人気ない」
グリフの冷静な一言と、異様にテンションの高いタカオの歌が見事にミスマッチな雰囲気だった。
「タカオ来たの?」
ジェフはもう何枚目か分からないパンケーキに手をつけた。
「ええ、今バスルームに」
ユミルはそう言って、空になったジェフのコップにミルクをそそぐ。「ありがと」ジェフの短い言葉に重なるように、コダの不機嫌な声がグリフに向かっていた。
「そんなことより、この縄ほどけ」
コダは貧乏ゆすりをしながら、グリフを睨みつける。
「しばらくそうしてろ」
グリフの冷たい声が響くなか、イズナは席につくと、椅子にぐるぐると縄で固定されたコダをみて不思議そうに首を傾げた。
「なんで逃げようとしたの?グレイスって走るの遅いのに、逃げ切れるわけない」
「足が遅いってのは余計だろ!俺はお前達みたいに特別じゃないんだよ。ただのエルフだ。アルがいなきゃ、結局俺は何にもできない」
グリフはミルクを飲み干すと、コダに冷たい視線を投げた。
「……相変わらず、まだそんな事を言ってるんだな」
部屋中に不穏な空気が流れ始めたころ、開け放たれた窓から、バスルームで歌っているらしいタカオの下手くそな歌声が聞こえる。
鼻歌を通り越して、もう大声だ。本人は知らないのだろうが、丸聞こえな上に、調子外れのその歌声は、どうしようもなく間の抜けた空気に変えてしまった。
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「あの野郎」
コダは呆れて、そう言ったあとうなだれた。
「賑やかで楽しいこと」
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「そう言えば、ライルは?」
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「ええ、うん。ライルと子供達はちょっとね……」
グリフが追求しようとすると、ジェフの大声でかき消されてしまった。
「あーー!もうお祭りに行ってるんでしょ!僕には朝ごはんを食べてからだって言ったのにぃ!」
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