契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

15,

「こうやってみると、なんだか親子みたいですね」


 タカオはレノにそう言う。暴れる2人をレノは微笑ましく見つめながら、近くの木のベンチに腰掛ける。


「昔ね、王子が身寄りのないグリフをつれてきて、色々あったけど、最後はライルにグリフを預けたの。でも、本人にはきっぱりと断られてるのよ。あの子、迷わず言うの。断るって」


レノはおかしそうに笑うと続けた。


「それでも私たちには、もうずっと前からグリフは家族だわ。グレイスも、イズナもね。これまで全然顔を見せないから、どれだけ心配したか」


 レノはイズナに視線を送る。イズナは居心地が悪そうに視線を逸らしていた。そうこうしている間にライルはグリフに逃げられ、地面にへばっていた。


「あら、また逃げられちゃったみたいね」


 レノは腰をあげると、イズナに手伝ってもらいながら、ボートに乗り込む。レノの話を聞いて、タカオの中にはふいに迷いが生まれていた。


「レノさん、心配じゃないですか?シアンやシアだけで森へは行かせないでしょう。彼らもここにいるほうが安全だとしたら……」


 家族だと言うのなら、グリフやイズナもこの村にとどまるべきではないだろうかと、自分が向かおうとすることに、巻き込むことを恐れていた。


 イズナが何か言いたそうにしていたけれど、それよりも先に、レノは本当に輝くほどの笑顔で、タカオを見上げていた。


「シアンとシアを助けてくれて、なんてお礼をいえばいいか分からないほどよ。ありがとう」


 それから目を鋭くした、凛とした視線をタカオに投げる。


「でも、グレイスやグリフ、イズナを無理に止め置くことはできないわ。この子達は、いつも自分達のやることを決めて歩くのよ。その危険さも、責任も、分かっていて進んでいるの」


 タカオはつい、思いだしていた。ウェンディーネの湖に向かうまえ、グリフが倒れた時のことを。あのイズナの冷静さを。


ーー覚悟があるんだ。危険なことも、その責任が命と引き換えになることも。分かっていて進んできたんだ。彼らは。


「止められるはずが、ないですね」


 タカオはそう呟いて、息を吐き出した。レノは答えをもう知っているかのように聞く。


「あなたも、そうなのね」


 レノの声がタカオに返ってくると、タカオは静かに頷いた。


「それなら、私たちにできることは、止めることじゃないですね」


 そう言ったのはライルだった。ライルはボートに乗り込み、タカオを見上げる。


「手を差し伸べることも嫌がられていますし」


 ライルはグリフに殴られただろう腹をさする。


「彼らが自分達のやり方で道を進んでいくのなら、私たちも、私たちのやり方で進むだけです」


「私たちのやり方って……?」


 タカオがそう聞こうといいかけた時、ユミルの家からシアンとシアがライルとレノを呼んでいた。


「ああ、もう行かなきゃ。それじゃあ、タカオさん。また明日」


 ライルはそう言うと優しい笑顔を見せてユミルの家に向かった。ライルの船が小さくなると、タカオは、自分が今、困った事態に陥ったことに気が付いた。


 グリフは先ほどのライルとのやり取りで姿を消していた。イズナはライルの船に乗っていたし、ジェフも姿が見えない。






「あれ……みんなどこで寝泊まりしてるんだ?」


 人の家の庭先で、タカオは1人途方にくれていた。



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