契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

11.

 ライルはすっかりとうろたえて、言葉を失っていた。


「どうして、シアンが……」


 ライルはシアンの黄金の瞳を見つめて、そんなことを呟くのが精一杯だった。


 シアンは涙を拭うと、その黄金の瞳で、遠いどこかを見つめて思い出していた。


「もうダメだって思ったとき、アルの声が聞こえたんだ。でもその時には目も開けれらなかった。どうしてこんなことになったのか、僕も分からな……」


 その時、ユミルがシアンの側にレノを連れてきた。ライルはレノを支えながら、おろおろと2人を交互に見ていた。


「シアン、ケガはない?」


 レノは精霊の瞳のことを気にも留めず、そんなことを聞いた。シアンは微かにうなずく。レノは目に涙をたくさんためて、優しく微笑む。


「どこも?こんなに無茶をして、1人で辛かったわね」


 レノは地面に膝をつき、シアンと同じ目線になると、その顔を正面から見つめた。痩せこけて、泥だらけになり、連れされる前にはなかった傷跡にレノは気がつく。もうその傷はすっかりと治り、傷跡だけになっていた。


 シアンの瞳からは、拭いたはずの涙が次から次へとこぼれ、何度もうなづきながら涙を拭う。


「もう大丈夫。おかえりなさい」


 レノの声を聞くと、変わらずに優しくて、シアンは安心感を覚える。なにか張り詰めていたものが一瞬でなくなり、シアンはたまらずに大声を上げて泣き出して、レノに抱きついていた。


「無事でよかった」レノはシアンを抱きしめながら、シアンに見えないように涙を流していた。どんなにこの涙を止めようと思っても、止めることはできなかった。


 シアンの泣き声が響くなか、村の者達はこっそりとボートに乗り込み、村の入り口で一部始終を耳をすませて聞いていた。


シアンが戻ってきたこと。精霊の瞳を宿したことを。


少し前の村の者達であれば、トッシュが率先してライル達を家族ごと、この村から追い出しただろう。


シアンの心配していることは、精霊の瞳のことを知れば村の者達が何をするか分からないという思いからだった。


そうなる前に知られずに立ち去ろう。最後に一目、この村を遠くから見よう。それで心残りは消えるはずだから。


シアンはレノに抱きしめられたまま、そう言って泣きじゃくった。


村の者達はお互いの顔を見やり、自分の子供の顔を見る。誰の心にも、大きな波が押し寄せていた。



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