契約の森 精霊の瞳を持つ者

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2.

 ライルはボートを一気に進ませる。


「子供達は無事なのか?!」


 それには村の者達も、コダの返事を聞き逃さまいと物音ひとつさせずにじっとしていた。けれど、コダは猛スピードの泳ぎを見せると、ボートを通り過ぎてしまった。


「アルーー!どこだーー!!」


 コダは水を飲み込んでしまうのも気にもせずに、泳ぎながら叫ぶ。コダのそんな姿をみて、ライルも村の者達も呆然とした。


「え……アル?アルなら戻ってきてないよー!」


 コダの叫びに唯一答えたのは、ジェフだけだった。ライルは船を漕ぐのを止めて、コダの異様な様子に嫌な予感を感じていた。家々からはボートが出てくると、コダを追おうとするライルを止めた。


「グレイスが帰ってきたのなら、グリフもいるはずだ。迎えに行こう」


 トッシュがそう言うと、他の者達も急いで村の入り口へと向かう。結局、村の入り口に着いた時には、ライルが1番最後になってしまった。






「こ……子供達だ!帰ってきたぞ!!」


 はじめに村の入り口から森に続く道に出た者は、驚きすぎて声が裏返ってしまったほどだった。


「うちの子もいる……!この間さらわれた子も戻ってきた!!」


 それを遠くで聞いていた母親達も、残った船に乗り込み、沈みそうなボートのままがむしゃらにボートを漕ぐ。


 村の入り口はあっという間に村人で溢れかえり、そこは歓喜の涙と笑い声で溢れていた。その中を、ライルは必死で進む。周りで喜ぶ声が聞こえるたびに、なぜか不安だけが大きくなる。


 そしてライルはやっと、いつもの無表情のグリフと目が合い、疲れ切った様子のシアを見つけた。


「シア……」


「パパ!」


 ライルはろくに声もだせずに、涙ながら走り出し抱き寄せた。


「シア!なんてことだ!タカオさんが、あの人が……!助けてくれた!」


 ライルはおいおい泣きながら、しばらくはシアを離そうとはしなかった。けれど、シアは不意にライルから離れて立ち上がった。


「ママは?!」


 その顔は不安げで、今にも泣き出しそうだった。ライルは泣いたまま、さらに泣き出しながら頷く。


「今、イズナがついてくれてる。無事だ」


 シアは安堵から大きく大きく息をついた。その拍子に涙が流れた。ライルはもう1度シアを抱き寄せると、シアは泣いたままでそっとライルにしか聞こえないように囁いた。


「……シアンは、だめだったの……」


 ライルとシアの周りでは、再会に喜ぶ者達の涙と笑顔で輝いている。ライルは再び泣きながら、頷くことしかできなかった。

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