契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

46.

 その光は小さく、微かなものだったけれど、猛スピードで移動していた。光はシルフの作った黒い竜巻の周りを旋回しながら降りてくる。


 黄金の光は、竜巻を断ち切ろうとするように光の跡を残す。シルフの起こす風に影響もされず、軽やかに飛ぶ。あんなことができるのは、同じ力を持つ者にしかできない。


 翼が風に煽られて体勢を崩すも、翼をすぐさま広げて風を集めそれに乗る。相変わらず、風の具合を確かめるようにぐらぐらとおかしな様子だ。


ーーアル……!!


 タカオは大声でそう呼びたいほど、アルの黄金の瞳に希望に似た光を見ていた。


 アルは素早く翼を翻すと竜巻から離れた。視界からも消えると、音もなく水の壁の下へ回り込む。タカオの目の前の水の壁は、もうすっかりと薄くなっていた。


 アルはスピードを一切落とさぬまま、水の壁に突っ込み、竜巻の中へと向かっていった。タカオの目の前で風を切った時ですら、アルの羽音は一切聞こえなかった。けれど甲高い、アルの声はたしかに辺りに響き渡った。


 アルが水の壁を進むとき、水は吹き飛ばされるように通り道を作っていた。


ーーアルは自分自身にも風を纏わせている。


 竜巻に入った瞬間、シルフの風とアルの風がぶつかりあい、雷が内側で何度も轟き、光を放つ。次第に竜巻の中だけではなく、そのまわりでも雷は耳を塞ぎたくなるほど大きな音を轟かせて森の中へ落ちた。


 タカオには竜巻の中がどうなっているのかは見ることはできなかった。


ーー黄金に輝く瞳を持つ鷹。アルはもしかして、シルフの瞳を……。


 アルが風を操れることを考えると、タカオと同じように精霊の瞳を持っているのではないのかと、今さらそんなことを考えていた。


 ウェンディーネはタカオの声に耳を傾けながら、ひどく歪んだ竜巻を見上げて呟く。


「ああ、シルフの加護を受けてる。本当なら、それはコダが……」


 その時、雷はより盛大に鳴り響き、竜巻はほころぶようにまとまりを失った。ほころんだ風は突風となって森に落ちてきただけだった。それがウェンディーネの水の壁にぶつかる。廃墟にはなんの影響もなかったものの、水の壁の多くは削られ、雨のように森じゅうに落ちた。一瞬だったものの、豪雨のように森じゅうに降りそそいだ。

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