契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

35.

 真っ暗な夜空には、まるで柱のような光がまっすぐ進んでいた。森のどこからでもこの光は見えるだろう。


 エントがいる森の家からも、その近辺の小さな村や街からも、閉ざされた王都からも。王都をこえた深い森の中にもこの光は届いたはずだ。


 しばらくして、光は一瞬で消えてしまった。まるで幻でも見たかのように、瞬きをした次の瞬間には、すっかりといつもの暗い森へと戻っていた。


 ジェフには聞こえていた。ウェンディーネの不機嫌な声が。


「おせっかいな奴」


 振り返ると同時、ウェンディーネのいた場所は水の塊が落ちたような音がする。実際、水の塊が落ちて、そばにいたライルは水がかかり驚きの声を上げていた。


「ウェンディーネ……消えちゃった」


 ジェフは呆然とそう呟くと、何かに驚いたように、光の消えた方向をもう一度見た。


「ジェフ……?」


 ライルはジェフの異変に気がつくと、心配そうに名前を呼ぶ。ジェフは目を見開いて、怯えた声で言った。


「みんな伏せて!!」


 それが緊迫した声だったせいで、ライルとトッシュも同じように伏せろと叫び、それが村じゅうに広がった。


 ライルとトッシュが言うことならば、誰もがそれに従った。村人達は皆わけも分からないまま、地面に伏せたり、物陰に隠れた。静寂の中でライルが声をひそめる。


「ジェフどうしたんだ。悪ふざけなら、後でトッシュに怒られるぞ」


 ジェフは困ったような顔をライルに向ける。


「分かんないよ。僕だって分からないだ。でも、分かるんだよ」


 ジェフの意味の分からない言葉のあと、森の向こう側から木々がざわめく音が迫ってくるようだった。そうかと思うと、大きな音と共に突風が村を襲った。


 ジェフの言うとおり、伏せていなければ吹き飛ばされるか、吹き飛ばされた木々に襲われたことだろう。風は一瞬で吹き止んだけれど、誰の耳にも、あの風の音が耳から消えなかった。こんな恐ろしい風を起こせるのは、この森の中でたった1人だけだ。


 風が去ると、「助かった」その言葉があたりから聞こえはじめ、誰も怪我なく乗り切ったことが分かった。


「ジェフ」


 ライルは怯えたようなジェフを抱きしめた。


「おかしな声が聞こえるんだ」


 ジェフはそういって耳を塞ぎ、ただただ震えていた。

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